第164話 色あせた故郷
コタロウの考えをきいた、魔王は言う。
「君、本当にヒサオの友人? とても同じ義務教育を受けていたとは思えないんだけど」
『そこですか!』
もっという事が別にあるきがするが、どうしてそこが気になったのか、そのほうが不思議である。
『ええ、間違いなく友人ですよ。彼がいないとつまらないんで、早く返してください』
「『帰して』だよね? 字面がちがったように聞こえたけど、きのせいだよね?」
『はい。気のせいです』
ぬけぬけといいきるコタロウ。魔王は、自分が遊ばれているような感覚になってきた。
「しかし、凄い話を聞かせてもらった気はするけど、これが託宣の完全消滅につながるの?」
『そのはずです。まずは敵をしること。これが分からなければ、完全に消し去るなんてできないと思います』
「……なるほど。君の言う通りだ」
あくまで魔王の願いは、そこにある。
その為の道をコタロウなりに考えてくれているのだろう。
『そちらについても考えてはいますが、まだ話せる段階ではないので、今回はここまでにしたいと思います。時間もそろそろですしね』
「ああ。そうだった! すごく濃密な5分だったよ。気のせいか5分すぎているような感じもする」
『それこそ気のせいですよ。では、また、考えがまとまったら同じように連絡します』
「頼むね。じゃあ」
プチ……ツーツー
コタロウの方から切られ、ハァーと大きな息を吐いた。
なんなんだ彼は?
この世界にいないはずなのに、自分よりも託宣について分かっているような話をされてしまった。
いくら、歴代魔王の考察や、ヒサオから情報をもらっているとはいえ、どうしてあそこまで考えられるのか不思議でならない。
通話がおわったことを知らずに、まだ門番と話し合っているヒサオへと目をむけ、声をかけようとしたが、そうせずに携帯へと目を向けた。
「こんな道具もあるし、僕がいた時代よりも進んでいるんだろうな――いや、僕がいた世界も、それなりには進んでいるはずだし、もしかして同じ物があるかもしれないけど……」
顔を天井へと見上げ、自分がいた世界のことを思い出す。
すでに記憶から色あせてしまった元の世界。
人間のままでいる2人のクラスメイトは、帰還できる日が来た時どう思うだろうか?
すでにこちらでは千年以上前の話だ。
むこうの世界がどれだけ時が過ぎているのか分からない。
素直に喜ぶ?
それとも、どんな時代に戻されるのか分からない事に不安を覚える?
帰還をやめて、この世界にとどまることを選ぶ?
もしかすると、全てが無駄に終わるかもしれない。
選ぶのは、眠ったままでいる2人の仲間たちなのだから。
だが……
(帰したいな……)
達也。樋口。流一。聖子。徹。早川。由香。弥生。静香。成瀬……
多くのクラスメイト達が、つないできた希望。
全ては、人間のままでいる仲間を帰したいがため。
かつては、魔王もまた、希望を託された1人であった。
それが今では……
(……罪人だ)
亜人達を。
純魔族を。
そして、獣人達を。
自らはエーラムに座したまま、彼らを戦場へと送り込んでいる。
魔王という立場を捨て、感情に身を任せ、人間達を殺しまくろうと思ったことがどれほどあったことだろうか。
だが、それでは駄目だということを、勇者だった時代に悟った。
自分達が本当に望むことは違う。
仲間たちの帰還。そして託宣をなくすこと。
自分達が望む勝利の形は、そこにある。
しかし……
(コタロウ君の話が正しいとすれば、託宣の消滅は、2つの世界にとって危険なことになるのか?)
世界が望む救済の形。それを実行している託宣。
その託宣を消滅させようと考えている自分は……
(本当に魔王という配役なのかもしれないな)
わりと仲がよかったクラスメイトの考察を思い出し、苦笑を浮かべてしまった。
「魔王様?」
「……あっ!?」
気付けば、ヒサオが目の前にまできていた。
いつもより近くまできているのは、自分の様子を気にしたからだろう。
声をかけられていても、気付かなかったのかもしれない。
「ごめん。無事に話は終わったよ。ありがとう」
いいながら、携帯電話をヒサオへと手渡す。その間もヒサオの目は魔王の顔色をみていた。
「コタのやつ何かとんでもないことを言いました?」
「まぁ。ちょっとはね」
つつっと魔王の目が泳ぐ。
それを追うかのように、ヒサオの顔が横へとずれる。
「………」
「魔王様?」
「……やっぱり、気になる?」
「当然です」
コタロウには複雑で混乱するからといわれ、魔王には整理がついてからにしてくれと言われ、今日まで教えられずにきたのだ。どんな内容なのか気になって仕方がない。
「ん――」
どうしようかと悩みつつ、青白い頬をポリポリと軽くかきだす。
「たった5分で済んだ話じゃないですか」
それを言われると弱いといった感じに、溜息を一つついたあと、
「わかったよ」
諦めたようだ。
ゆっくりとした口調で内容を語り始めると、ヒサオから疑問が次々とではじめる。
「だから、それはだね!」
説明途中で出された質問に、答える魔王。
その答えに、さらに質問を重ねるヒサオ。
段々と互いの口調が強まり、ギャーギャーとわめきだす。
見ていた門番達は互いに目をあわせたあと、コクリと頷きあった。
自分達は何も見ていない。
自分達は何も聞いていない。
いつもと変わらない、謁見の間だ。
うん。そうしよう。
ああ、今日も、謁見の間は静かだな~
と、現実逃避という手段にでた。
おそらく、きっと、たぶん。
謁見の間は、門番達の思うとおり、今日も静かに違いない……はずである。




