第159話 鑑定結果
知ったことを全て話終えたあと、帝国兵の4人をイルマ達に渡した。どうなるかは予想できたが、それに口を出す気もなかった。
イルマ達と別れたあと、魔王さんとフェルマンさん、それにカリスさんにも連絡をいれた。
帝国がすでに次の軍事行動に移っているのであれば、対策が必要だろうから。
思えば疲れる一日だった。
コルクスに来ている商人たちを見てきて、その日のうちにコタと話をし、魔王さんと連絡をつけては、ふてくされ、アグニスさんの店で新作料理の話をしていたら、帝国兵たちをみつけて尋問開始。
なんて日だ。今日は厄日といってもいいんじゃないだろうか?
――もう寝るとしよう。
薄青い縞々模様のパジャマに着替えたあと、布団にはいりかけたその時、
「あっ! 忘れていた!」
帝国の要注意人物たちの名前をメモっておいたんだよ。
また忘れてしまいそうだし、今のうちに鑑定しておこう。
まずは、部隊長とかいうリュッケだな。どれどれ。
位置情報はオズルの北西か。ブランギッシュからオズルにはいってすぐの場所だろうな。
肝心の内容は……
レベル47 リュッケ=ワルダ
称 号 勤勉なる軍人
アイテム 帝国軍服。鋼鉄の片手剣。筆記道具。
ステータス 一流軍人
ス キ ル 片手剣術5 指揮力5 強化魔法2
――あれ? もっとすごい奴かと思ったけど、そうでもないのか?
話を聞いた限りだと、オズル地方での指揮官らしいし、もっとすごい奴かと思ったけど、ステータスだけを見るとそうでもないな。
一般兵と比べれば凄いと思うし、アルツにいる部隊長レベルと段違いではあるけど……ステータスだけじゃ分からない何かがこいつにはあるのかな?
だとしたら、要注意なのは変わらないけど……まあ、鑑定もできたし、このまま保留だな。
次は、ブロードとかいうやつだ。
位置は、ウース地方北東部か。帝都カイザリアってここにあるんだな。
内容は……
レベル69 ブロード=マキウス
称 号 皇帝の友
アイテム 真新しい肌着
ステータス 一流軍人
ス キ ル 大剣術8 突破力5 指揮力6
称号が……
こいつ、なんなんだ?
将軍っていう話だったのに、皇帝の友達なのか? それで将軍になったタイプ?
当人のレベルの高さや、スキルレベルの高さを見る限りで言えば強そうではあるけど……指揮力はわかるが、突破力ってなんだよ? なんか、人間バージョンのイルマのような感じがしてならない。
……とりあえずアイテムには、何も触れないでおこう。きっと寝ているだけだろうし。うん。たぶん……
つ、次だ。
肝心の皇帝陛下様だけど……位置情報はブロードと一緒か。じゃあ、あとは鑑定結果はと……え?
驚いた俺は、がばっとベッドからでて立ち上がった。
自分がみたものが信じられず、再度ドルナードの鑑定結果を見る。
俺の目に飛び込んできたスキル名。そこに目がいったまま、離せない。
……こんなことが、ありえるのか?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
話は一昨日前に戻る。
深夜、ドルナードは自室にこもり、部下からあがってくる報告書に目をとおしていた。
「ふぅ……」
疲労からくる声を漏れ出させ、眼鏡を顔から外す。そろそろ、この眼鏡も合わなくなってきたなと、思いながらレンズを拭きはずめると、
『このような深夜まで、大変ですね』
唐突に声がきこえ、一瞬託宣か? と思い、顔を歪め嫌悪感を表情に出したが、
(……違う。いまのはどこからだ?)
薄暗い自室を見渡すと、窓辺付近に見慣れた囚人服をきた男が立っていた。
ガタッ!
「衛兵!」
すぐさま声をだすと、扉の外にいた兵たちがはいってくる。そしてすぐにドルナードと同じモノをみて、腰に下げていた剣を抜いた。
「な、なんだこいつは!?」
『騒ぐ必要はありませんよ』
剣を向けられた男は余裕の笑みをみせながら、ドルナードに一歩……いや、足がなかった。
髪は青く短い。眼光は弱く、気迫といったものがなかった。
口元は緩く歪んでおり、何を考えているのか、さっぱり読めない。
ズタボロの囚人服をきたその男に、ドルナードは見覚えがある。
だが、その男はすでに死んでいて、だからこそ、こうした状態なのだろうが、しかし、なぜ? と頭が動き出した。
牢に閉じ込められ、拷問をくりかえされ、狂死したはずのラーグス=アグバ。
やせ細った体をしているのは、拷問が始まるまえからだ。
『初めまして、ではありませんが、以前お会いしたときは、私も正気ではなかった。ですので、改めて挨拶を。私はラーグス=アグバと申します陛下。このような夜分に申し訳ありません』
「貴様、死んで正気に戻ったというのか?」
ラーグスに警戒しながら、壁際においてあった剣を手にしようとにじり寄る。
『そうなるのでしょうな。自分でも少々戸惑っておりますが、なかなかどうして良いものです。見えなかったものが見えるようになる。いやはや、死というのは視界を広げてくれるものですな』
「……ふざけた奴だ」
でた言葉とは裏腹に、ドルナードは剣へと近づくのをやめ、その場で腕組をし、聞く姿勢を見せた。
部屋へとはいってきた衛兵は、皇帝を守ろうと前へと立つ。
『忠実な兵だ。教育が行き届いている』
「そんな事を言う為に、わざわざ化けてでてきたのか?」
自分を守ろうとした兵の隣に並びたち、ラーグスとの会話を続ける。最初にあった警戒心も薄れているかの様子。それどころか、この事態を楽しんでいる気配すら見えた。
『まったく違うのですが、私もどう説明したらよいのかわかりません』
「なんだそれは?」
『そう……ですな。こう申しましょうか? 見てみたいと』
「何をだ?」
さらに興味を抱いたようで、兵の前へと出始めた。
「へ、陛下!」
「いい。大丈夫だ」
声をかけてくる兵を手で制し、ラーグスへと目を戻す。
『簡単に言えば、自分が知る出来事を陛下に伝えた場合、どう動くのか? それが見てみたいという感情からなのですよ』
「俺が? ……貴様、何を知った?」
『色々です。あまりにも膨大すぎて、言葉で伝えるのは不可能』
「それほどのことか?」
『はい。生前、彼から得た知識だけでも膨大すぎて、自分は壊れましたからな』
「彼? 誰の事を言っている?」
と、いった瞬間、ドルナードの頭に聞きなれた声が響いた。
【ラーグス=アグバとの会話をやめ、眠りにつけ】
「ウッ!」
騒音ともいえるような声がし、頭をおさえる、さらに、
「へ、陛下を殺せだと!」
後ろで控えていた兵が、動揺した声を漏らす。
さらに外から、足音が聞こえてきて、扉が勢いよく開かれた。
「い、いたぞ! あいつだ!」
「託宣のとおり、見慣れない奴がいる! 陛下から離せ!」
「お、おい、あいつって、噂になっている幽霊じゃ……」
「ちょっとまて。託宣が変わった! 陛下を、ころ……えっ??」
「なにがどうなっている!」
やってきたはいいが、ラーグスを見るなり、腰が引け始めているのがいた。
『これは……なるほど、こうなりますか』
「どういうことだ?」
頭を抱えながら、ドルナードが聞いてくる。
『それを教える時間は、ないようですよ』
チラっとドルナードの後ろにいる兵をみた。ラーグスへとむけられていたはずの剣先が震え、迷うかのように部屋の主を見ている。
『……陛下、一つだけお答えください』
「何をだ?」
この状況に不安を覚えずにいられなく聞き返す。
普段のドルナードであれば、一括で部下たちを静めることができるが、自分へと聞こえてきた託宣から異常さを覚えていた。
後にいる兵からは、妙な気配を感じているし、部屋へとはいってきて部下たちの雰囲気も普段と違っている。
自分の声が果たして届くかどうか、それすら怪しい。
『託宣を好きになれますか? それともお嫌い?』
「その2択ならば、嫌いだ!」
だからこそ、部下たちには、託宣は利用するものだと教えてきたし、多くの敵をつくりながらも帝国を築いた。
その原動力となったのは、託宣に対する生理的な嫌悪感だ。
周囲の大人たちから理をもって諭されても、託宣に盲目的に従うことができずにいた。病的なまでの嫌悪感が、どこまでいってもつきまとい、自分が他人と違う事に気付く。
託宣が間違っているかどうかではなく、得体のしれない何かに盲目的に従うことが嫌いだったのだろう。
これは、ドルナードの資質の問題。
従う者としては向かなく、逆に支配者としての方に傾き過ぎていた。
この世界において、彼は生き難い資質を持って生まれたといえる。
自分のそうした面に気付いた彼は、唯一の理解者であったブロードと共に行動を開始した。
自分達だけでは駄目だ。
同様の考え方を広めなければ、自分達が異端児として社会から抹殺される。
彼等が命をかけ帝国を築き上げたのは、自分が生き残る為ともいえた。
『やはり。そんな陛下が、どう動くのか? 楽しませてもらいましょう』
「何を? おい!」
喜々とした顔を浮かべながら、ラーグスが迫る。
手を出し止めようとするも素通りし、2人の体が重なった。
「……」
なにが? と自分の両手を眼前へと突き出した瞬間、急激な眠気と、部屋へと怒鳴りこんでくる声が……
「ブ、ブロー……」
「てめぇら…って、ドル!!」
はいってくるなり、皇帝が床へと倒れた光景をみる。禁じていた呼び名を叫び、側へと近づいた。
「しっかりしろ! ああ、託宣がうるせぇ! てめぇらも、ここをどこだと思っていやがる! 剣なんかだしてんじゃねぇえ!」
皇帝の自室の混乱を静めたのは、大剣を持ち歩き、部屋へとはいってきた男であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
トゥルルー…ガチャ。
「……魔王様。ヒサオです」
『うん? こんな夜中にどうしたんだい? 帝国の話なら、明日にでも会議を行うっていったはずだけど?』
「いえ、それとは別件です。日に3度も通話を使ってすいませんが……」
『それはいいよ。それだけの事だったし、これもそうなんだろ?』
「わかりません」
『? どういうこと?』
若干悩んだが、聞く相手が魔王さんしか思いつかなかった。
この世界において、たぶん、こんなことを聞けるのは魔王さんしかいないだろう。
鑑定スキルで表示される事について、俺より詳しいのは彼だけだろうから。
携帯をもつ手を震わせながら、簡潔に尋ねた。
「死んだ人間の名前が、他者のスキル欄に表示されることってあるんですか?」
『……ヒサオ、寝ぼけてる?』




