第157話 尋問?
「ヒサオ!」
「話を聞いた、奴らはどこにいる?」
テラーを呼ぶ。それはつまり馬野郎もついてくる。ここまでは分かっていたけど、
「……ふざけた真似しやがって、ぜってぇぶち殺す」
お怒りのイルマまで来ました。
国造りについて3人で相談しあっていたのか? 色々、溜まっていそうだな。
俺達は異世界亭で合流を果たした後、すぐに後を追いかけ始めた。
鑑定ずみなので居場所がすぐに判明。程なく帝国兵の奴らを見つけ、イルマがさっそくとばかりに襲いかかろうとしたが、
「まて! 少し様子をみさせてくれよ!」
「あぁ? 様子ってなんだよ?」
奴らがいた場所は、ブランギッシュにある宿付近。たぶん宿泊するつもりだろう。ということは、中で何か会話をするだろうし、それで情報を引き出したほうがいい。
思ったことを説明してやると、
「おまえ、自分のスキルの事、忘れているだろ?」
「え?」
言われなんのことだと? と思っていると、呆れた顔をされてしまった。
心なしか、イルマの顔髭がしおれているように見える。
「なんのことだよ?」
「交渉術。俺から情報を引き出すのに使っただろうが」
「……そうだった」
自分自身に呆れてしまうとはこのことだ。イルマに言われるまで、気付かないとかどうかしている。
「んじゃ先いくぞ『火よ! わが身を使え!』」
「私もいきます『風よ! わが身を使え!』」
「魔法兵だったな。なら《全体敏捷性増幅》。《全体耐性増幅》」
獣人3人がそれぞれの行動を始める。俺にもエイブンの強化魔法効果がくわわり、体が軽くなった感じを覚えた。
30レベル台の帝国魔法兵達を相手にするには過剰戦力ともいえる3人。おまけに精霊憑依+強化魔法状態の2人がいる。どうなるかは、予想が簡単だろう。
「な、なんだ!?」
「おい、獣人だ!?」
「くそ! 『猛き狂いし――』ぶは!」
「戦おうとするな。散れ!」
「もう、駄目!」
例の野太い声の音が指示をだしたが、もう遅い。
不意打ちされた魔法使い。相手は近接戦闘を得意とする獣人達。
逃げることも戦うこともできずに、手当たり次第に気絶させられていく。
俺? 参加なんてできずに終わっちゃったよ……
宿前で起きたこともあり、中にいた店員が不安な顔で出てくる。俺達の顔をみたあと、何事かと聞いてきたので、事情を説明し中へと通してもらった。
気絶した兵達を部屋へと連れ込み、ロープで腕と足を縛る。
「必要なのは一人だけでいいな?」
イルマが目を細めた瞬間、殺意があふれた。
「やめろよ。全員が同じ情報を持っているとは限らないんだ」
「……チッ」
何を考えているのか丸わかりだな。鍛えてもらっていなかったら、こいつの殺気で、何も言えなかったかもしれない。
「ヒサオ、どうします?」
「うん。手間だけど、一人ずつ交渉術をかけてみる。部屋をわけたほうがいいな。途中で目が覚めたやつが、口出しして邪魔するかもしれないし」
「そう…ですね。わかりました」
「では、俺が隣の部屋に一人ずつ運びましょう。イルマとテラー様は、ここで見張っていてください」
「じゃあ―…」
気を失っている5人の男女をみる。
男が4人で女が1人。
リーダーと思われる野太い声を出していた男をみる。
たぶん、こいつなら全部知っている気がするんだけど……
「こいつを隣の部屋にお願いします」
俺が指さしたのは、気の弱そうな顔をした別人だった。
名前はエータス=ブラウン。
俺が指さした男を、エイブンが肩に担ぎ隣の部屋へと運んで行った。
「じゃあ、いってくる。2人はこっちにこないでくれよ」
「ええ、わかっています」
「こういうのは、性に合わねぇんだがな……」
イルマのいう事に苦笑いで返し、俺も部屋をあとにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぶは!」
「起きたか」
エイブンが桶にはいっていた水をぶっかけると、エータスという男が目を覚ました。
「な、なんだお前ら!」
「なんだはないだろ? 帝国兵が勝手に人の街にやってきておいてさ」
「て、帝国? 何を言っているんだ。急に襲ってきて……これは何かの誤解じゃないのか?」
隠そうとしているのか? 目が泳いでいる時点で丸わかりだ。
交渉術つかうのも馬鹿らしい気がするが、練習台になってもらう意味でも、使わせてもらおう。
「お前が持っている帝国の情報がほしい。取引だ」
「……わかった」
あっさりと彼の体が黄色く光りだす。と、同時に、ズボンのポケットにしまってあった携帯がブルブルと震えだした。
(ん? メールか?)
こんなときに? と思いつつ、携帯を取り出すと、
真交渉術の発動を確認
交渉相手:エータス=ブラウン
取引目的:エータスが知りえる帝国関係情報
交渉選択:金銭取引 100万 250万 500万
命の保護 アグロで保護 エーラムで保護 アルツで保護
以上より選択できます。
……え?
携帯を凝視したまま、俺が固まってしまった。
ナニコレ?
もしかして、これなの?
これがランクアップで追加されたこと?
どうして携帯に? 検索鑑定するときみたいに、目に直接映し出せば良くない?
いや、そうじゃない。そういう問題じゃない。
「こんな事が分かるようになったのかよ!」
唐突に声をだしてしまった後で、しくじったと思った。
こんな事でペナルティーが発生してほしくないぞ。
「ヒサオ、どうした?」
扉前にいたエイブンが声をかけてくるが、それよりもとエータスという男を見る――変化がない。大丈夫か。
手のひらをエイブンに向け、何でもないと意思表示を示す。
(これって、選択できるのか?)
と、携帯のボタンをポチポチおしてみるが、反応がない。情報を表示しているだけか。
それだけでも助かるが、しかし、金銭取引の金額が気になるな。
これって、アレか? こちらから出す金額によって得られる情報の質が違うってことか?
今までの取引だと、代価が釣り合わないと成立しなかったけど、もしかして更に上のものが選べたのか?
命の保護は場所の選択ができるけど、アルツで保護するのが一番安全だということだろうか?
うーん……
アルツだけでなくアグロで保護してもらうにしても、俺に、そんな権限はない。
表示されているっていうことは、頼めば可能なのかもしれないが、迷惑でしかないだろうし……試しに金にしてみるか。
「エータス。こちらからは100万キニア支払う。それで教えられるか?」
「代価に相当する程度の情報ならば」
「分かった。それでいい」
俺が返事をすると、エータスの体を覆う光が青くなった。
教えられる範囲か……
俺が求めたのは、持っている帝国の情報といったから、曖昧な状態になっているのか?
それで金銭取引額の変化があったのかな? ……これはこれで便利かもしれない。
「俺達は、オズルに行くことになっている。この街を通り、リュッケ=ワルダと合流。そのあとのことは、彼に聞くよう命令されている」
「オズルに行って何を?」
「今いったとおり、リュッケ=ワルダの指示に従うことになっている。それ以上のことは不明だ」
「帝国内部で起きている反乱はどうなった?」
「収まりをみせつつあるが、どうなるかは分からない。俺個人の予想をいうのであれば、さらに金銭を要求する」
「……いや、いい。100万で教えられるのはここまでなんだな?」
「そうだ」
「わかった。少しまて」
まだ、こちら側の代価を支払っていない。後でもいいのかもしれないが、忘れないうちに払っておこう。
保管術で開いた空間から、金のはいった小袋を1つ取り出す。
中には一枚あたり10万の値打ちがある大金貨がこすれあって音をだしている。
数えて、100万はいっていることを確認すると、それをエータスの目の前においた。
「これで取引終了だ」
俺が宣言すると、男の眼に光が戻りだす。同時に、大きく息をはきだし、前のめりに顔を倒した。
「頭がくらくらする。なんだ今のは」
「なんでもいい。目の前にある金貨はお前のものだ」
「あ、ああ。だが、これで俺は……くそ!」
意識はあるようだ。俺が置いた小袋を憎らしい目でみている。
「おわった……のか?」
エイブンが疑問を抱く声で、話しかけてきた。
「こいつはね。エイブン、次は、あの体躯のいい男を頼む」
「というと、一番背丈が高いやつか?」
「ああ。それと、この男は、とりあえず隣に置いておいてくれ。どうするかは、後で話し合おう」
「わかった」
俺が頼むと、エイブンが肩に担ぎ、渡した小袋も一緒に持って男をつれていく。
担がれたあとに自分の命の事をどうとかいっていたが、俺が欲したのは情報だ。命まで保証した覚えはない。
2人が部屋からいなくなったあと、携帯をみる。
すでに交渉術に関する情報は消えていて、いつもの機能画面が表示されていた。
この半年近く、ずっと保管術でしまっていたから気付かなかったけど、もっと有効的な交渉取引ができたのかもしれないな。終わったことをいっても仕方がないけど。
しかし、下位スキルのランクアップ条件がそろって上位スキルのランクアップが発生すると思っていたけど違うのか? あれだけ頭を悩ませたけど見当違いだった?
……いや?
ちょっとまてよ。
《真交渉術》の前にあがったのは、《真通話》のみだ。
そして、今回の追加内容が、携帯への情報提示。
だとしたら、通話のランクアップがあって、それで交渉術のランクアップが発生したということ?
下位スキルだけではなく、上位スキル同士でも関係性があったのか?
推測があっているとして、60になったらどうなるんだろ?
上位スキルの2つが真になったわけだから、もしかして、等という文字から、また一つスキルがでてくるんじゃ? あるいは、ずっと初期状態の《解読》がようやくあがる?
だめだ。どちらにしろ、レベルを上げるまでわからない。
色々頭を悩ませていると、次の男を歩かせエイブンが入ってきた。
「待たせた。こいつが……」
「獣人風情が、何を偉そうに!」
「……ヒサオ」
エイブンが何を言いたいのか察したが、こいつが本命。殺させるわけにはいかない。
エイブンが怒りをあらわにし、男の背中を強くおした。
バランスをくずし、床へと転倒し肩から倒れこむ。
さて、ボイド=カーマイル君。
君には全部しゃべってもらうからね。




