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第156話 暗躍

 俺はいまコルクスにいる。

 アルツからやってくる商人が増えたらしく、ちょっとチェックをしておこうと思った。


 コルクスという村は、少し微妙な状態にあるんだ。

 魔族との休戦条約によって作られた村であるわけで、そういう意味でいえば魔族の村だ。

 住んでいるのも圧倒的に亜人や獣人が多いわけだし問題がなかったはずなんだが、人間達も住んでいるため、そのあたりが問題となってきている。


 つまり、儲けたい商人たちが『ここは人間の村でもあるのだし、魔族側有利という商売取引はないものとしてほしい』といいだしている。


 難癖もいいところだ。


 これを取り締まるのも、俺の仕事の1つなわけで、そういう輩をみつけると即座に相手になっている。

 前なら面倒だといいそうな仕事だが、いまの流れを壊されるのは腹立たしいのだ。


 俺たちが作ったといってもいいはずの物流ルートを利用し、自分ルールをしこうとする連中は、コンクリ(ないけど)で缶につめてガークの海に沈めたい……などとは思っていない。

 そういや、あそこの海岸から流してやったら、異世界に行けないだろうか? いや、別に、商人たちを実験台にしようとか思ってないぞ。


 まあ、そういう商人がやってきて、この村にすむ連中にかってに、『ここは人間もすんでいるから、こっちの価格で取引しています。そう決まりましたから~』といった態度を見せていないか見回っていたわけだが、なんか商人でもない人間が増えているような気がする。


「ここがコルクスという村か」

「話どおり、エルフもいるな」

「あれは翼人じゃないか! 数が少ないのに、よくこんな場所に…」

「おい、あまりキョロキョロするな。アグロいきの駅馬車がでる時間だぞ」

「そうだった。すまん」


 なんだろ? 観光客かな? といった感じの集団を、ここ数日見かけるようになった。


 アルツからきて、アグロか。

 アグロ砦は精霊樹の件があって、人間は立ち入り禁止になっている。

 そういった理由で、ここからアグロまでの直通便になっているんだけど、結構遠いんだよな。


 どこかに休憩所でもつくるべきだろうか? 

 そういえば焼野原になった大森林が、少しづつ草木が生えだしているらしい。あそこがいいんじゃないだろうか?


 ――と、他人のことを気にしている場合じゃないな。


 悪い商人はいねがぁ~



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 半日ほど見て歩いたら、3人ほど見つけた。

 噂どおりの連中が、ちょっとした組織販売まで行っていて危うかった。

 もう少し野放しにしていたら、あいつらきっと『それが、ここの普通です』とおおっぴらに言い出していたかもしれない。


 その結果どうなるのか予想できないのだろうか?

 下手をしたら、自分たちの命すら危ういだろうに。

 これがブランギッシュまで持ち込まれていたらと思うとゾっとするな。

 意図的にやっているのが見え見えだったから、コルクスの兵に渡しておいた。明日にはアルツに向けて護送されるだろう。


 さて、そんな一日もおわり、自宅へと帰ってきた俺は、コタに連絡をいれ……あ! コタからメールがきていた。保管術でしまっているせいで、むこうから連絡きても分からないんだよな。


「また、怒られるな」


 何のための携帯なんだい? とか言われたことがあるが、こればっかりは無くすわけにいかないから保管術でしまってあった。


(でも、毎日報告しているのに、急に……あ、スキル!)


 自分で頼んでいたことを思い出し、コタへと電話をかけた。


『ヒサ。メールのほう読んだ?』


「え? 読んでない」


 メールがきたことしか見ていなかった。直接聞けばいいかとおもってさ。


『まったく。連絡してもでないし、メールを送っても読まないじゃ、もうこっちから連絡するのやめるよ?』


「それは困る! わかったよ、持ち歩くことにする」


『持ち歩いていなかったの! そっちに驚きだよ!』


「いや、ちょっと意味が違うんだが」


 保管術でしまってあることを伝えると納得してくれた。でも、結局出して持ち歩くことになってしまった。


 コタのほうにも学校とかの事情があって、いつでも報告できるわけじゃない。

 適当な時間を見計らって、向こうから電話をかけてくることもあったんだ。

 それをこの半年以上。まあ、あっちにとってみれば大した日数じゃないんだろうけど、無視していたわけで――そりゃあ、怒るだろう。


『メールのほうだけど、魔王さんと話をしたいんだよ』


「そっちか!」


 ガクっと顔を落としてしまった。


『そっちって、もしかしてスキルのほうかと思ったの? 悪いけどまだ考えていないや』


「こたぁ~」


『甘えた声を出さないでよ。気持ち悪い。魔王さんとの話がすんだら、ゆっくり考えてあげるよ』


「うーん。わかった。けど、今日は遅いから明日でいいか?」


『じゃあ、こっちだと1時間ほどかな? 僕もう寝ないとだから、ヒサからの連絡時のように、寝ぼけ状態で話すことになりかねないね。できれば、3、4日ほど後にしてほしいかな?』


「俺からの報告は寝ぼけ状態でもいいのかよ!」


『うん』


「ひどい!」


『そうは言うけど、ジグルドさんがどこかにいってから変化があったの? 帝国のほうも反乱がおきていることは分かったけど、そこから動きないんでしょ?』


「まぁな」


 これはつい先日聞いたばかりの話だけど、すでにコタには報告ずみ。

 帝国の動きがきになり、魔力の影響を受けにくい獣人達が調査にでた。

 その結果わかったのが、コタのいう反乱だ。


 この報告を聞いたときから、どこか気が緩んだ状態になっている。

 調査は続行されているけど、現状こちらから攻め込もうとはしていない。


 元々魔族の目的は託宣封印。

 精霊樹もこちらにあるし、北に住んでいた魔族関係者たちも、イガリアやエーラムに散っている。

 魔力枯渇地域に魔族が攻め入るのは、無謀というしかない上に、無理に攻め込む理由がないというのもあった。


 俺としては、攻められてからでは遅いと思うのだが、飛行船に対抗できる手段もない上に、魔力がない地域で帝国軍と真っ向から戦えないし……早い話が、手詰まり状態なわけだ。


『そういうわけだから、魔王さんとの事、3,4日後あたりによろしくね』


「それって、この間の話だろ? とんでもない話のように思ったけど判明したのか?」


『判明? ああ、ヒサに話した事?』


「それ以外なにがあるんだ?」


『言わなかったっけ? 僕がヒサに話したことは、魔王さんとの話とは違うって。無関係というわけでもないけど』


「そういえば。でもそれってどういうことだよ」


 結局似た類の話じゃないのか?


『うーん……ごめん。この話は、魔王さんにだけ話したい。というか、少しでも話せば、全部いわないといけなくなる』


「それでいいじゃないか? 何がマズイんだ? ああ、時間のことか?」


 そろそろ5分だしな。自動で切れてしまう。


『違うよ。ヒサを混乱させかねないからさ』


「混乱? 複雑なのか?」


『かなりね。たぶん、話だしたら、ヒサの質問攻めにあったうえに、理解しきれないまま終わる可能性が高いよ』


「……何気に馬鹿にしたか?」


『違うって……卑屈にならないでよ。そうじゃなくて……ああ、もういい。ヒサ。どうしても気になるなら、魔王さんに聞いてみて。ただし、僕が言ったことを伝えてからにしてほしい。ただでさえ、忙しい人なのに、それでも聞きたいならどうぞ』


「わかった。とりあえず聞いてはみる。切るぞ」


『うん。あまり困らせないようにね……』


「分かっているよ。じゃあな」


 耳から携帯を外し、プチっと切った。

 ちょっとした口論になっちまって後味悪いけど、引くに引けないよな。

 気を取り直して、魔王さんと話をしてみよう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ズルズル――


 異世界亭にきて味噌ラーメンを食べている俺。

 何故この流れで、ラーメンかって?

 ――すでに魔王さんと通話した後だからだよ。

 結果?


『うーん。確かに混乱するかもしれない。話の整理がついてからにしようか』


と、まぁ、コタの予想どおりの展開になったよ。ちくしょう!


「ヒサオさん。今日は元気ないっスね?」


「わかります?」


 カウンター越しにアグニスさんに話しかけられた。すでに閉店時間間際なので客も少なく、余裕があるのだろう。新しくはいった店員たちも奥にひっこんで、片づけにかかっているようだし。


「そりゃあ、ヒサオさんの食べ方が、いつもと違いやスからね。何かあったんスか?」


「あった。というより、無かったというべきでしょうか?」


「はい?」


 訳が分からないという顔つきをされた。俺も、人に言われたら同様の表情をしたかもしれない。


 ズルズル……

 麺をすする音が、どこか空しく聞こえる。

 味は文句ないし、一緒に頼んだ黒曜米もある。

 以前なら歓喜して夢中で食べていたはずだが、今この状況だと、そうした気分になれない。


(俺、信用されていないんだろうか?)


 魔王さんとコタ。

 両方とも、俺は信用しているし、むこうもそうだと思っていた。

 だけど、さっきの話ってかなり重要な話じゃないのか? 俺が混乱するからと教えてくれないようだけど……


「少しぐらいいいじゃねぇか。わけわかんね」


「え? 何かまずかったスか?」


 思わず出た声に、アグニスさんが反応してしまった。


「いや、違いますよ。今のは独り言で……なんかすいません」


 駄目だ。これじゃあ、単に迷惑な客だ。気持ちを切り替えよう。


「そういえば、先日いった例の話、どうなっています?」


「ユリナの新作料理ですか? それはまだ早すぎっスよ。あいつもがんばってはいるんスが……」


 言いながら、チラっと後ろの調理場へと目をむけた。

 一人で何かを考えこむように、鍋をみている奥さんをみては、不安気な表情をするアグニスさん。

 信頼はしているのだろうけど、心配でもあるんだろう。

 いつかのように、調理場で倒れて寝ないといいけど。


「まぁ、あんな感じっスよ」


「おれ、余計なこといいましたかね? ちょっと不安になってきました」


「とんでもない! ヒサオさんがいってくれたおかげで、最近のユリナは、前以上に目を輝かせていますよ。まるで、出会った時のように。あの頃のあいつに、アッシは……い、いや、なんでもないッス!」


「……ごちそうさまです」


 腹と胸がいっぱいになってしまった。


「期待はしていますけど、「これだわ!」……え?」


 話の途中で、いきなりユリナさんが声をあげた。

 な、なんだ?


 唐突に声をあげたユリナさんが、急に動きだした。

 トトトンと包丁で何かを切り始めかと思うと、それを金属製のボールにいれ、次のものを切っていく。

 切る音が途絶えると、ボールにいれたものを混ぜはじめ、こね出した。それを、再度ボールから出して切り始め……何をつくっているんだろ?


「何か閃いたんでしょうか?」


「さぁ? ここのところ、あんな調子ッスから気にしないほうがいいッスよ。それよりヒサオさん。何か飲みますか? 少しまてば、たぶん試作品が出てきますよ」


「あ、いえ。ちゃんと完成したものを食べてみたいんで、今日はこれ……」


 言いながら立ち上がると、後ろのテーブルに、人間の客が複数いた。


 珍しいな。

 こんな時間に人間の客なんて……男4人に女1人か。

 朝に出会った奴らと同じような雰囲気だが、当然違うやつらだ。ブランギッシュまでくるなんて、物好きなやつらだな。

 おかしな連中まで増えなきゃいいけど……


「ヒサオさん?」


 呼ばれて、アグニスさんに返事をしようと、顔をむけたが、


「あれが、そうなのか?」


「ヒサオという名前で、ここにいる人間……」


 ボソっとつぶやくような声が聞こえ、口から出かけた声がとまった。

 なんだ? アルツの商人関係者か? あいつらの間だと、名が広まったからな~


「……俺達には関係ない。もう、いくぞ」


「す、すまん。わかったよ」


 野太い声によって客達が黙ると、その男が、小袋から金貨を1枚だして……あれ?


「店主、勘定をここにおいておくぞ」


「へい、毎度!」


 2人の会話が、スムーズに進むが、俺の目にはいってきた金貨は見覚えがないものだった。


(キニア金貨じゃない?)


 表面にデザインされているものが違う。なんだあれは?

 もしかして偽金貨? この世界にもあるのか?

 気になったので、鑑定しみると、


 共通金貨

 ウース、イガリア、オズルで流通している、共通の金貨。

 各国で使用されている金貨と同等の価値をもち、交換も可能。


 購入 国の金貨交換所で入手可能。

 用途 主に国を渡り歩く者たちが使用する。

 備考 価値は各国とも同相場となっている。

    そのまま使用することも可能。

    使用されている金は、ウースでとれたもの。


 なに? ウースでとれた金だって? それって……

 嫌な予感。いや、これは確定的ナニかに近い。

 ゾワっとしたものを感じ、リーダー格と思われる男をその場で鑑定しみると、



 レベル34 ボイド=カーマイル

 称   号 帝国の魔法使い

 アイテム  ロナン帝国製の布服

 ステータス 2流魔法使い

 ス キ ル 攻撃系魔法レベル3 (水、風)



 ズバリじゃないか。

 しかも、戦士のような体つきなのに魔法使いとか――他の連中も同じなのか?

 店からでていく前に、残った連中もさらっとみてみたが、似たようなものだった。

 こいつらそろいもそろって帝国の魔法使いかよ。


 放置はまずいな。

 帝国兵が店からでていくと、俺はすぐにズボンのポケットから携帯を取り出して、テラーへと通話スキルを使った。


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