第149話 異常事態
最後に残った俺達がアグロ砦にもどってくると、すでに精霊樹の側に人だかりができていた。どうやら無事に転移できたようだ。
でも、アグロ砦でよかったのかな?
まぁ、移動させようと思えば、また転移すればいいか。あまりやりたくはないけど。
「全員撤退できたな。よし、オルトナス殿、魔法陣の消去をお願いします」
「わかった。ミリア、自分で作った分はまかせたぞ」
「はい、師匠」
2人の師弟が、互いの魔法陣の前に立ち懐から小瓶をだす。中身を魔法陣の上にぶちまけると、しばらくしたあと、互いの魔法陣が影を薄め消えていった。
そのオルトナスさんに、フェルマンさん近づき小声で喋っている。
聞き取れないが、むこうで起きた出来事の報告だろう。顔をむけようとしないが、険しい顔をしながら耳だけはむけているようだ。
「ヒサオ。魔王殿への報告はせんのか?」
1人ボーと状況をみていた俺の側に、オッサンがやってきて言った。
「俺でいいのかな?」
ミリアから話を聞いた程度しか俺は分かっていない。実物を見てもいないのに報告していいんだろうか?
「敵があのような攻撃手段を持っていることは、早めに知らせた方がよいと思うぞ」
「それもそうだけど……」
この場で一番早く知らせることができるのは俺なんだし、オッサンの言う通りではあるんだよな。
んー それじゃあ……
「フェルマンさんに一応、許可とってからにするよ」
別にそれぐらい遅れてもいいだろうと、オルトナスさんと話がおわったフェルマンさんに尋ねてみると、
「繋ぐだけしてくれ。俺のほうから報告をいれたい。ヒサオは、アレをみていないのだろ?」
「ミリアから聞きましたけど、おそらく飛行船というものだと思います。実際みていないのでわかりませんが」
「なに? では、アレも、お前は知っているのか?」
「ですから、わかりませんよ。聞いた話だとこういうものですよね?」
といって、地面にミリアの時と同じものを描いてみせると頷かれてしまう。
「おそらく、俺が知っているものと同じだと思いますが、これを作り出せる知識が俺にはありません」
「……またか。どうして理屈がわからないのに、作り出せるんだ?」
「そもそも、ラーグスからとは限りませんよ。あいつは死んだんだし」
死ぬ前に、教えた可能性もあるが、あいつだって特殊なガスの製造方法なんてわからないだろ。俺だってわからないんだし。
「わかった。まずは、魔王様に繋いでくれ」
「少し待ってくださいね」
携帯を取り出し、ポチポチとボタンを押して連絡をいれてみる。
トゥルルー…ガチャ
よし、繋がったな。
『また減ってるね。住民の被害が減るのはいいけど、どうしてだろ?』
おや? また誰かと謁見中かな? 被害ってなにかあったのか?
「もしもし、ヒサオです。奪還作戦についての報告があります」
『……とりあえず分かったよ。継続して調査のほうお願いするね。ご苦労さま』
魔王さんが、話をきりあげようとしている。
高い頻度で、こっちの話を優先してくれるのは助かるけど、謁見相手に悪い気がするな。
『ヒサオ、いいよ。それでどんな感じ?』
「それについては、フェルマンさんの方から言います。本人と変わりますね」
『ああ、まって。コタ君のほうはどうなってる?』
そうだった。伝えるのを忘れていた。なにやってんだろ俺。
「本人がもう少し待ってほしいと言っていました。伝えるのを遅れてすいません」
『そうか……わかった。じゃあ、フェルマンと変わってくれ』
言われるまで忘れていたとか駄目だな。と反省しつつ、フェルマンさんと変わった。
その後、フェルマンさんの口から報告がされたけど、話を聞く限りだとやっぱり飛行船のようだ。
魔道砲の時のように別の名前をつけているかもしれないが、役割というか機能的な面でいえば一緒なのだろう。
「はい。それと精霊樹ですが、アグロ砦に移動しました……はい、そうです」
話が精霊樹の件にかわったか。
そういや、大丈夫だろうか?
気になり精霊樹のほうをみてみると、集まっていたエルフ達が不安気な顔をしているな。
「飛行船の件もありますし、ウースに住まう魔族達を至急避難させるべきです。精霊樹の件で、ウースはこれから魔力枯渇地域となりますから」
ん? ちょっとまて。
魔力枯渇? 精霊樹が移動したから?
……あ! そういえば、精霊樹って、その周辺地域に魔力を供給していたんだった。
じゃあ、精霊や魔族達に影響が出るのか!
かといって、移動しなかったらやられていただろうし――帝国のやつら、もしかしてウースにいる魔族達の撤退も視野にいれて、精霊樹ごと破壊しようとしたのか?
……いや、それなら、最初にアルフヘイムを落とした後いくらでも精霊樹をつぶすことはできたよな? だったら、違う?
「ヒサオ、終わったぞ」
「……」
「おい? ヒサオ」
「あっ!?」
考えこみすぎていて、携帯を眼前に持ってこられるまで気付かなかった。
「どうした?」
返してもらいながら言われたので、自分が感じた疑問を口にしてみる。
「帝国が意図的に精霊樹を破壊して、北の亜人たちも撤退させようとした――か。おそらくそれは無い」
「なぜ?」
「精霊樹についての知識があれば、そういったことはしない。すぐに精霊が暴走を起こし、手当たりしだに魔力を食いだす。おそらく2,3日もすれば、ウースでの魔法使用は不可能になるだろう」
「……あ!」
そういうことなのかと、声にだしてしまう。
人間達にも影響あるじゃないか。
魔族のように生死に関係してくるわけじゃないかもしれないけど、魔法が使えないんじゃ戦力ダウンだ。
じゃあ、精霊樹の意味を知らずに城ごと破壊しようとしたって考えるべきか。
「それより、エルフ達の様子がおかしいぞ。何があった?」
「え? あ、そうだった」
きになった俺たちが側によると、
「どうして、こんなに魔力があふれているの?」
「わからないわ。活性化しているのはいいのだけど急すぎる」
「土地がよかった? いえ、でも、そんな偶然が……」
「なんだか、怖いわ」
「でも、これってもしかして……」
「ええ、このままいくと、もしかするかもしれない」
聞いただけである程度わかったが、エルフ達が驚くような事態になっているってことは、手放しで喜べないよな。どうしたらいいんだろ?
あ、側にオルトナスさんもいる。木に触って目を閉じているけど、何してんだろ?
「……ふーむ……これは一体? ……ありえんぞ」
呟く声に、騒めきがさらに大きくなる。
魔力感知という面では、エルフに劣るはずのダークエルフたちも、騒ぎ始めていて、
「精霊達が…」
「すごい。交感を意識していないのに、向こうから話かけてくるなんて!」
「これは、弓の効果もあるぞ。手を放してみろ」
「ほんとだ! 弓から手を離したら聞こえなくなった!」
オッサンの手作り製品を手放して試しているようだけど、すぐに自分の弓を拾っているのが、なんか微笑ましい。
「フェルマンさん、これって…」
「……なぜか分からないが精霊も精霊樹も活性化しているな。いや、精霊樹が活性化している為に、精霊にも影響が出始めていると考えるべきだろうが――なぜだ?」
ここにいる全員が原因の分からない事態に、不安と期待が入り混じった声をあげていた。
アルフヘイム奪還が失敗におわったが、精霊樹は取り戻せた? とみていいと思うんだが、まだまだ安心はできそうにない。
これも報告したいと言われたので、魔王さん再度連絡をいれてみた。
ほんと、この事態どうなるんだろうな……不安でたまらないぞ。




