第142話 戦場違い
場の空気が変わったあと、フェルマンさんが咳を一度した。
「急ぎ、アルフヘイムの奪還に取り掛かりたいと思うが異論がある者はいるか?」
反対するものはいなかったが、作戦が問題だ。
アルフヘイムとユミルをつないでいた転移魔法陣は、すでに使えない。
敵に利用されることを考え、撤退時には消去することになっている。
では、地上を歩きむかう? と言うとそうでもない。
母さんが残した研究。
それを引き継いだオルトナスさん。
その成果がある。
入り口を作り出せば、出口もできる転移魔法陣。
これを使えば、精霊樹がある城内に直接いけるだろう。
「精霊樹もだが、城もどうなっておるのか分からん。デュラン。もちっと詳しくわからんか?」
「脱出を開始したのは、城内に敵が侵入してきたあとだ。できるだけ多くの住民を逃すために、早めの転移をおこなわせたが、その時は、外からの攻撃が聞こえなくなっていた」
「ほう? なら、城は原型をとどめておるとみてよいのか。ならば、精霊樹そばに魔法陣を繋げることはできるはず。しかし、最初にいくものは、それ相応の覚悟が必要じゃな」
「その魔法陣で送れるのは何名までだ?」
「一度で5名。転移場所に敵がいた場合を考えれば、まず、その5名が狙われることになるじゃろう。それに、精霊樹がやられていた場合も考えれば獣人が最適になる」
2人の間で話がすすんでいくと、イルマに視線が集まった。
「よっしゃ! まかせとけ!」
喜々とした顔と声をだし、イルマが立ち上がる。
「立場を考えてください。ここは私のほうがいい。少しは自重を覚えなさい」
「当然自分もついていきますぞ」
テラーが引き止めたあと、エイブンが当然のごとく言い出す。
「ばーか。光精霊の力で、見えない状態でつっこむんだよ。それなら安全に確認できるだろうが」
「馬鹿はあなたですよイルマ。それを考えているのは分かっていましたが、精霊暴走状態だったら、どうするのです。あっというまに、術がとけるじゃないですか」
「うっ!? ……つか、だったら、おめぇがいっても」
「だから、私なのですよ。指揮官たるものが、死地かもしれない場所に、率先して飛び込んでどうするのですか。あなたに志半ばで死なれでもしたら、残されたものが迷惑です」
「……」
一瞬うめくような声をだしたあと、イルマのほうから顔を逸らした。
「落ち着け。そういった作戦の内容についいては後にしたい。それよりも魔王様の許可をまず取らねばならん。ヒサオ、連絡を頼む」
席にすわったまま、フェルマンさんが俺へと言ってくる。
「わかりました。じゃ、ちょっと失礼して」
保管術でしまってあった携帯をとりだし、その場で通話をしてみる。
トゥルル―…ガチャ。
『はぁ……』
ん? 深い溜息をついているな。向こうでも何かあったか?
「魔王様。ヒサオです」
『……ん? ああ、ヒサオか』
「謁見中でしたか?」
『いや、ちょうど一区切りついたところだ。どうかした?』
「はい……えーと」
そういえば、この会議を、魔王様がいるエーラムでしないのはなぜだろう?
もちろん知っているとはおもうけど、こんな内容なら、エーラムでするべきじゃないのか?
「いま、アルフヘイムの件で会議を行っているんですが」
『……そのことか』
なんか声の調子がおかしいな。
気落ちしている感じだ。
アルフヘイムの件があったからだろうか?
「奪還にむけて動きたいようなので、許可がほしいそうです」
『……カリス爺と、フェルマンに任せる。今の僕では冷静な判断ができそうにない』
「え?」
『とにかく、そう伝えておいてくれ」
「分かりました」
返事はしたけど、本当にどうしたんだろ?
アルフヘイムが落ちたのが影響なのか?
『それとヒサオ』
「はい」
『君はどうする?』
「え? どういう意味です?」
『話を知るのはいいよ。でも直接、戦場にまで身を晒さなくてもいいと思う』
突然何を?
ここまできて、今更なきがするが。
「できる限りの協力はしますよ。色々と世話になっていることですし」
『……裏方がでいいからね。それ以上は望んでいない』
落胆したような声が聞こえてくる。
まぁ、言われなくても、今回はほとんど何もできないだろうな。
やれるとしたら、転移時における魔力供給係かな? あとは、連絡要員ぐらいなものだ。
『あー それと。これは別件になるけど』
「あ、はい。なんでしょうか?」
ちょっと声音が変わった。多少は気分を戻した感じがする。
『前に話をさせてもらった……コタ…君だったかな? 彼から返事はまだかな?』
以前? って……あれか!
歴代魔王の考察の件で、現魔王と話がしたいとコタが突然いいだした。それで、魔王さんにつないだことがある。
話の内容については、俺も聞かされていなく、2人の間でどういうやりとりがあったのか、いまだにわからない。コタに尋ねてみても、すぐに話を逸らされてしまうんだよな。
「コタからはまだですね。あれって何だったんですか?」
『うん? 聞いていないの?』
「はい。あいつすぐ話を逸らすんですよ」
『……うーん。そうか……なら、僕からも言えないね。たぶん、考えがあってのことだろうし』
「そんなに大事な話なんですか?」
『大事といえば大事だね。でもヒサオに隠すようなことでもないと思うんだけど、何かあるのかもしれない』
「はぁ?」
一体なんだろう?
『まぁ。わかったよ。できれば急ぎ返事がほしかったけど、そういうわけにもいかないようだ。一応、返事を心待ちにしていることだけは、伝えておいてくれ』
「わかりました」
『じゃあ、頼んだよ』
「はい。では、失礼します」
ガチャリと切ったあと、うーんと、唸る声を出してしまった。
「ヒサオ。どうした?」
俺の様子に不安を覚えたのか、シーンとした会議場の中、フェルマンさんが聞いてくる。
「あ、えーとですね」
まずは、魔王さんの許可についていわないとな。
カリスさんとフェルマンさんの判断にまかせることを伝えると、2人が顔を見合わせ難しい顔をした。
他にも、アスドール王とデュランさんも同様の顔つきをしている。何か知っていそうだな。聞いてみたいが、好奇心から聞いても、おしえてくれそうな感じがしない。
「カリス老。どうしますか?」
「致し方ない。今回は、ワシ等で決めていこう」
「では、奪還にむけて動くという方針で構いませんか?」
「そうじゃな。このまま、作戦についても話を進めるとするか」
「分かりました。では、まず……」
こうして話がきまり、作戦について意見を交わし始めた。
現地の確認については、やはり獣人達が良いと判断され、最初の転移メンバーは獣人5人という事に決まった。
この時、精霊樹が破壊されていた場合、転移先からの帰還が難しくなるため、オルトナスさんが秘蔵しているという魔法石が渡されるらしい。魔力を貯蓄しておけるもので、一度使えば効果がなくなるもの。ユミルで起きた精霊暴走時は、この石を大量投入し問題解決の日までしのいだという話だ。
もし、精霊樹が無事だった場合は、転移魔法陣を死守しながら、増援をまつことになる。
駄目な場合となれば即座に撤退。
精霊暴走なんて起きている場所で戦えるのは、獣人と人間ぐらいなのだから仕方がないだろう。
精霊樹が無事だった場合となるが、増援の兵たちを転移させるのは、俺の魔力でということになった。
魔力を消費した状態での戦闘を、できるだけ避けたいのが理由。
つまり、魔力供給役として、こちらに残るということになる。
魔王様がいったように裏方になりそうだが、元々そっちのほうが俺向きなんだろう。
こうした感じで、色々な話が決まっていく。
兵の動員をかける必要があるので、明日、明後日というわけにはいかない。
だけど、一ヶ月もかけるわけでもない。
おそらく半月。あるいは10日前後といったところだろうか?
その間に、俺もできることを考えておくとしよう。




