第14話 取引成立?
「偽ってなんだよ?」
「偽は偽。魔王として認められたのは……おっとこれ以上は、君が引き受けるかどうか決まってからだ」
ニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべやがって……こういう奴って本当にいるんだよな。
俺のクラスにもいて、つい先日蹴りをいれたら喧嘩になった。
結果? 一発多く殴ったのを確認してから逃げましたが何か?
でもってエロイ人が、そいつと似たような笑みを浮かべているわけだが、ここは牢屋で俺は中にいるのだ。
「決まってからも何も、俺が引き受けると思うのか? 仮にも魔王と呼ばれる相手を、俺にどうしろと?」
こんな圧倒的なまでの情弱状態で何を引き受けろと? お前バカじゃね? と言いたいが、そこだけはグッとこらえた。俺偉い。
「だから魔王を倒せばいいんだよ。どうして分からない?」
「分かれというほうが無理だ」
「引き受ければ、情報は与える」
「引き受ける前に情報がないと、判断できない」
だんだんどっちが先か? という状態になってきて相手をするのが面倒になってきた。
「さっきも言ったが、君らは立場というものをだね!」
「立場も何も関係ないだろ。そっちはミリアの命を保証する事が出来ないじゃないか。極端な話、俺を魔王討伐に向かわせて、成功したらミリアは殺すってのも出来るだろうが!」
「ええい、黙って従えばいいんだよ!」
癇癪を起したような声を出してくる。こいつ沸点低いな。
……まてよ、ちょっと試すか。
「 分かった。魔王討伐に関する取引交渉をしよう」
そう声をあげた瞬間、エロイ人の体が黄色に光だす。うわッ、チョロ!
「交渉だな。分かった」
ズイっと胸を前に突き出しそんなことを言い出すのが笑えてくる。だが、我慢だ。
これはどう見ても俺のスキル効果だろうな。
交渉術が発動したって事になるんだろう。少し発動方法が分かってきた気がする。
ちなみにテラーがラーグスの隣でワンコ耳をピクピクさせている。疑問を投げかけたいのだろうが、自分の判断に迷いがある様子だ。
……このチャンスを邪魔するなよ。
「このエルフの命を助ける代わりに魔王を倒してほしい」
「それが交渉になっていないのは言った。却下だ」
「嘘じゃない。命と命の取引だ。同等だろ?」
「お前が信じられない時点で駄目だって言ってるだろ!」
「ではどうする?」
ホントどうする俺。
これはチャンスなんだ。この機会を上手く使えば、この状況を覆せるはずだ。考えろ!
「確認するが、そっちの希望は魔王討伐なんだな?」
「そうだ。それを引き受けるのであれば、できるだけ協力しよう」
よし言質はとれた。
あとは、こちらの希望だが……
鑑定発動!
トルク宝石。
珍しい緑宝石。
硬度は7。
購入 3百万キニス 売却 百万万キニス
魔力効果は無
魔法使いの武器としての使用は可
よし!
ラーグスのやつが指に嵌めていた宝石が予想どおりミリアが使えそうで良かった。この宝石を奪ってミリアにやれば何とかなる……はずだ。
「できるだけといったが、どの程度なんだ?」
「情報はもちろん、協力者として獣人兵を好きにしていい」
エロイ人の声に、テラーが我慢しきれなくなり反応。ああ、くそ邪魔しやがって。
「お待ちを! それでは話が違う! 今回の捕獲任務が終わりしだい、獣人の為の領地を用意してくださる約束だったはず! 我らの自由はどうなるのですか!」
テラーの怒気なのか焦りなのか、素の感情を見たのは初めてな気がする。
なるほどそういった条件で手下になっていたわけか。というか『我ら』? もしかしてテラーって獣人の中でも偉い立場なのか?
「今は取引の最中だ。黙って」
「ラーグス様! それが返事ですか!」
「人間に道具と交渉する者はいないよ」
「道具!? そ、そんな馬鹿な……それでは今までの苦労は」
テラーの方を一切に見ずに言い切った。
テラーは……うわ~…こいつ今の一言で目が死にやがった。剣でも抜きそうな勢いだったのに、よっぽどショックだったんだな。
あるいは、よっぽど精神が張り詰めていたのか? 頭の中グチャグチャかもな。まぁ、ひとまずは安心か?
「今は俺との交渉中のはずだろ」
「もちろん。他に何か必要なものがあるか?」
「そうだな……」
ほしいのは一つだ。
だがそれを悟らせてしまうと厄介になる可能性がある。なにしろこいつは、今だに黄色く光っている。信号のようなものだとしたら、青にもなるはずだ。
「ミリアの命の保証はできないんだし、その代わりに金や自由が欲しい」
「金か……俗物だな。そちらはどうとでもなる」
「自由は?」
「魔王を倒したなら、こちらとしても用はないし好きにしていい」
好き放題言う、俺をミリアが強く睨みつけてきた。
ついでにちょいちょい目線を横にずらして、エロイ人の指輪を俺に伝えようとしている。
はいはい、分かっていますよ。でも今は黙っていてくれると助かる。
「口だけなら何とでも言えるだろ? まずは前金が欲しい」
俺がそう言うと、エロイ人の体色が青へと変わった。金で動く相手は信用できると思ったのだろうか? 違うかもしれないが、結果良しだ。
「分かった。家に戻って対価相当の半分を取ってこよう」
「いや、そこまでしなくていい」
去りそうになったラーグスを止める。怪訝な顔を俺に向けるが、色は青のまま。これ以上口を動かすのは危ないな。
「んー……それかな?」
今鑑定したと言った感じに演技をし、エロイ人の指輪を指さした。
「前金としてこの指輪か。確かにこれなら見合うだろう。鑑定で見たのか?」
「鑑定はできるが、この世界の価値観がわからない。その指輪一つでどのくらい生活できるんだ?」
「贅沢しないなら、だいたい1年は暮らすことができる」
「1年か。前金としてなら、まぁまぁかな? 別途で成功報酬ももらうぞ?」
「もちろん。これだけでは対価に値しない。無事討伐出来るのであればの話になるが」
よしよし。光は青のままだし、このままいける。
「よし。それじゃその指輪を俺に。それと牢から出してくれ」
言ってからしくじったか? と思った。
だが、テラーも邪魔してこないし、エロイ人も俺の言葉どおり指輪を外して俺にくれた。
これは思った以上にスキル効果が大きいのだろうか? 交渉が成立したら、それが強制的に執行されるって判断するべきかもしれない。
指輪をくれると俺を牢から出した。
ついでにと枷の事も言ったら外された。おまけにミリアのも……
「……」
カチャカチャとエロイ人が黙って外してくれるんだが、なんだこれ? すごい違和感がある。
もらった指輪をミリア渡すかどうか迷ってしまうぐらい妙な気分になる。
枷を外し終えたラーグスは黙って立っているし、テラーなんて壁に背をつけたまま虚ろ状態。チャンスにしか思えないんだけど、チャンス過ぎて逆に怖い。
エロイ人はまだ青いままだから、スキル効果が続いているのは分かるんだけど……
「ヒサオ」
ミリアが俺同様2人に疑問を覚えつつ、指輪を要求してくる。
釈然としないものを感じつつもミリアに指輪を渡した。その行為がテラーの眼には写っていたようで、
「あ!」
正気に戻ったようだが遅かった。
即座に剣に手をかけたが、ミリアのほうが早い。
「風玉」
ゴゥっと音がなり、テラーが吹き飛ぶ。
強烈な風の玉をぶつけられたのだろう。
体をクの字に曲げ壁へと衝突し気絶した。不意打ち気味での一撃だったせいか綺麗に決まったな。
それでもエロイ人が反応を示さない。これはいったい……
「ヒサオ。これは……なに? あんたがしたの?」
「だと思うけど」
テラーの方を睨んだまま聞いてくる。俺だってよく分からない状況なので推測でしか言えない。
エロイ人の目前で手の平をピラピラさせてみるが……まったく反応がないぞ。なんだこれ?
スキル効果中ってのは分かるけど、いつになったら終わる?
「今のうちに殺す?」
「あー」
ミリアにしてみれば、色々苛つく事を言われたのだろうし、今後を考えてみてもそう思うのだろう。
人を殺すという考えがどうも思い浮かばない俺とは違い、彼女にとってみれば、それが普通の世界だったのかもしれない。
……だけど俺としてはちょっとな。
でも、まぁ、
「借りがあるから、一発殴らせろ」
言って一歩下がる。
こいつには携帯の恨みがあるから、強烈なのをいれたい。直りはしたけど、それとは話が別だ。
「おらァ!」
殴るといいつつ蹴りをいれた。ヤクザキックというやつだ。だって殴ったら俺の手が痛いじゃん。
見事に決まって、ラーグスがその場に前向きに倒れた。いいねェ。人生前向きに生きたいよね。もうエロイ人と言うのは止めてあげよう。
『アラート。アラート。対象相手に意図的な攻撃を確認。ヒナガ ヒサオに対して交渉内容のペナルティーが与えられます』
「え、ちょッ!?」
「なに?」
突発的に響いたアラーム音。それと同時に聞こえてくる音声。
ミリアの反応を見るに、その2つ共が俺にのみ聞こえているようだ。
『ペナルティー内容 強制討伐終了後の金銭報酬無効。無期限の討伐時間が、2年以内へと変更されます』
淡々とした女性の声でそんなことを告げられた訳だが、そもそも金銭報酬はもらう気が無かったわけでそっちはいいんだ。
だが、強制討伐? いつからそうなった?
あと、無期限だったのか? と今更に思ったが、それが2年以内になってしまった。
『状況より交渉終了と判断。これより契約遂行時間となります。ヒナガ ヒサオは2年以内の討伐を開始実行してください』
「うェええええええええええ マジかァあああああ!」
「なに! どうしたのよ!」
「実は……」
俺に起きた状況を話そうとしたが、
「先ほどから何が? ラーグス様?」
声が通路の奥から聞こえてくる。聞き覚えがあり見てみると、昨日会話したテレサが姿を現した。
ヤバイと声をだすより早く、ミリアが手を向けて本日2つめの風の玉。便利な魔法だな~ 俺も覚えたい。
「とりあえず、ここを出ない?」
コクリと頷いて俺たちは牢屋から出た。
なんか、やってしまった感じが大いにある……。はぁー…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
階段を上がっていくと、テレサがいたと思われる部屋へと繋がり、そのまま外へと出る。
どうやら郊外に作られた牢獄のようで、すぐ近くに林があった。
目の前に住宅街のようなものが見えるが、多少距離が離れているな。
牢獄というのは、隔離施設のようなイメージがあるんだが、それとは多少違うらしい。脱走してそのまま住宅街に紛れ込むのも可能っていうのは、町の治安上駄目なんじゃ?
「早く離れましょ。状況把握しつつ、できればジグルドも助けないと」
「あ、そうだ。オッサンどこいるんだろ?」
「分からないけど私達だって危険なんだから、最悪のことは考えておいてね。異世界人だってバレルのもすぐだと思うし」
キっとした顔つきで俺に言う。そういえばミリアは知らないのか。
「何か怪しい事でもしなければ大丈夫だと思うぞ」
「?」
分からないようなので、テレサとのやりとりでしった『異世界人も関係した時』の話をしてやる。
「つまり託宣が働かない理由は他にもあるってこと?」
「だと思う。他にも分かったことあるけど、それは後にしようぜ」
「そうね、ここじゃ何だし、安全を確保してからにしましょ」
確かにと肯き返した。
いつ交代がやってくるか分からないし、気絶させた3人もいつ目覚めるか分からない。すぐにでも住民達の中に紛れ込まないと厄介な事になりかねない。
住宅街に向かって歩きだそうとした時、見知った男が現れた。
「お前たち、自分で脱走したのか?」
突然背後から声をかけられ、条件反射的に体をビクつかせ振り向いた。声をかけた男がダークエルフのゼグトさんだと知り、安堵の息を吐く。
「びっくりしたわ。気配を消して声をかけるなんて趣味が悪いわよ」
「ここは俺達にとって敵地だ。気配ぐらい消させてくれ」
反論がまったくできない。そもそも俺には気配を消していたのかすら分からない。
ゼグトさんの案内で住宅街とは違う方向へと進んだ。
王都アルツは巨大な城壁に囲まれた街のようで、中央に城が見てとれる。
街は城下町といった具合で設計されていて、文明レベルが中世時代のあたりで止まっているようだ。
もっとも、自分がいた世界の城を実際に見た経験もないわけだから、本当に中世時代の建築レベルなのか怪しいけど。
ゼグトさんが向かったのはその町を囲む城壁の方で、案内された先には待機用に作られた小屋があった。中には2人のダークエルフと、縄で縛られた人間の兵がいた。
「あ、待って。ジグルドも捕まっているの。助けないと」
「大丈夫だ。ジグルド様なら、すでに救出し逃がしてある」
「は? ジグルド様? え? どうなっている?」
「それも後だ。とにかく脱出するぞ」
こうして俺達は、ゼグトさん達3人に連れられアルツを後にするのだが、なんか色々とややこしくなってきたな。あとで整理しないと、俺の頭じゃ混乱するだけのような気がする。
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