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第138話 漏れ出す想い

 半年前、俺は魔王さんに頼んだことがある。


 そう。醤油と豆腐の製造をだ!


 にがり、こうじ


 これをセグルでみつけたときは、神様が俺にチャンスをくれているんだと確信したよ。


 まあ、肝心の醤油はできていないのだが……

 だって、仕込んでから半年以上かかるんだぞ。あと2,3ヶ月は仕込みが必要らしい。

 短時間でできる方法があればやるんだが、コタのやつもわからなかった。


 だけど、まあ豆腐のほうはできた。

 さすが、にがり様だ。

 にがりがあればカツル! とか誰もいってないけど、勝てた(ナニに)。

 醤油がない豆腐ってちょっとあれだけど、こっちはこっちで利用価値が高い。

 豆乳も色々なレパートリーにつかえるし、わくわくだ。


「なにニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い」


「味噌汁に豆腐がはいっている安心感。これが分からないとは、ミリアもまだまだまだな」


「意味わかんない……」


 言葉どおりの顔をしているミリアの隣で、ズズっと味噌汁をすする。

 本日のメニューは、焼き魚セットなり!

 いや~ なんていうか、アルツと休戦条約結んでよかったのって、魚の値段が安くなったことだよな。

 おかげで、ブランギッシュでも魚が普通に食べられるようになった。

 これで、醤油があれば――あ、わさびも欲しいな~


「このホクホク感と絶妙な塩加減。いいね~ ご飯が進む」


 うまいうまいと、ご飯を食べては、魚の白身を口にしていく。

 味に飽きがきたら、(はらわた)をまぜて、ちょっと苦みをたす。

 その後、ズズっと味噌汁で流し込むという、ごちゃまぜ感。くぅ――――!

 醤油と大根おろしを使うのもいいが、これもまたよし。

 あ、そろそろ丼物も教えようかな? 


「この箸って便利よね。色々これ1つですむし。それに、ご飯を食べるのにちょうどいい感じ」


 ミリアは俺と同じ焼き魚定食を注文し、パクパク食べている。

 すっかり箸になれてしまったようで、ひょいひょい箸でつまんでいる。まだ、魚の食べ方までは上手くはないが、それも時間の問題だろうな。


「ヒサオさん。お代わりどうです?」


「あ、ご飯だけお願いします」


「へい」


 俺から茶碗をうけとり、ちょっと下がると、黒曜米をよそって持ってくる。

 この黒曜米。というか、この店で出される米は全て精米済みだったりする。


 ブランギッシュの外にある川から水を引いているのだが、この幅を広げてみた。

 元々は、生活用水として、色々な面で使われているものなのだが、幅を広げたのには、もちろん理由がある。


 水車式精米機。

 この実現のためだ!


 木工職人さんたちは偉大だった。

 彼らの尽力なくして実現不能だったといっても過言ではないだろう。ちょっと教えたときには、彼らの知識欲を引きすぎて怖い目にあったけどね。

 というわけで、毎日、精米済みの米が食べれているのです!

 ――ただし黒いけど。

 

 最近では、この米文化も定着してきて、近々アルツでも田んぼを作り始めるらしい。

 とはいっても田んぼで、ちゃんと米がとれるようになるには大分かかるだろう。

 あれは大地と戦い、水を味方につけ、天候を読む力が必要になる。大自然のなんと怖いこと。死んだ祖父なんか、天気予報で台風の進路予想をみるたびに、神頼みしていたわ。


「ごちそうさま。アグニスさんカプティーお願い」


「へい! ちょっとおまちを」


 ささっと動くアグニスさん。

 定食セットのあとにカプティー茶を頼むのは、この店の定番になりつつある。もちろん別料金です!

 ミリアがカプティーを飲み干すころに、俺も食事がおわって、今度は俺の茶が運ばれてくる。

 匂いを一度かいでから、ズズっといれたあと「ふー」と一言。

 そこで、隣でジーとみているミリアの視線に気付いた。


「なんだよ?」


「なんか、親父くさい」


「しょうがないだろ。俺はいつもバァちゃんと…「美味い!」……」


 やけにデカい声をあげた客がいて、言葉が止まった。

 誰だいったい? と思ってみてみると、青く短い髪をした旅なれた服を着た青年……人間か――


「珍しいな」


「ほんとね。ヒサオ以外の人間なんて、そうそう見ないわよ」


 声が上がった瞬間、みんながその男を注目した。

 食べているのは、鳥のから揚げ定食。かなり気に入っている様子だ。

 箸の使い方はおぼつかない感じがするが、一生懸命口に掴んだものを持っていこうとしているのがわかる。


「あの人、毎日きて色々注文するんスよ」


 アグニスさんがカウンター越しに教えてくれた。


「毎日? じゃあ、ブランギッシュに宿泊しているんですか?」


「どうなんでしょ? それはわかりませんが、どこの出身なのか気になりやせんか? あの青い髪と目はこのへんじゃみかけないッスよ?」


 だよな~ と俺も頷いた。

 しかし、美味そうにから揚げを食べる男だ。そのあとにご飯と味噌汁を飲んで、千切りキャベツを食べている。


「名前わかります?」


「いえ、話したことはないッスね。テラーさんなら知っているんじゃないッスかね?」


 テラーか。ならいっしょに暮しているミリアが知っているか? と目をむけると、ぶんぶんって首をよこにふられた。察しがよくて助かる。鑑定すれば一発でわかるけど……


「あの人、何か問題おこしたわけじゃないですよね?」


「今のところは特に。いつもあんな感じで食べて、金はらって帰るだけッスよ」


「そうですか」


 特に問題はなさそうだな。本当に美味そうに食べているようだし別にいいか。


 これが魔族や獣人なら何も思わないんだけど、このブランギッシュまでくる人間というのは、本当に珍しい。

 アルツからくる人間が皆無ってわけではないけど、そんなのは(まれ)だ。

 コルクスができたことによって、人間たちとの交流もできるようになった。

 だけど、それでも互いの街を行きかう人間というのは珍しい。


 ましてや、このブランギッシュまでくる人間となると相当なものだ。

 商人だって、アグロで足をとめる。

 そこから先は、獣人や亜人たちに任せて交易をおこなっている。


 これが今のところの普通。

 と、そんな事を考えていたら、店内が混みだしたな。


「ヒサオ、そろそろ帰らない?」


「そうだな」


 アグニスさんに金を払い、2人で店をでる。


 この異世界亭は、新装開店をすませ、現在の居酒屋風の店に外観がかわっている。アグニスさんが、俺の世界にある定食屋のような外観にしたいと言われたのがきっかけだ。

 コタ様に頼んで、写真をおくってもらったのだが送られてきたのは何故か居酒屋。これはどうなんだ? とアグニスさんにみせたら、気にいられてしまい、そのまま匠の方々に――いや、ほんと建築速度が異常だった。なんだよ、あの張り切り具合は。


「ごちそうさま」


「どういたしまして」


 ミリアが口元を緩ませ満足気な声でいってくる。最近はこうした態度が本当に増えた。


「研究どう?」


「進んでいるわよ。アルツが勇者召喚につかっていた方法を知れたのが大きいわ」


「へー じゃあ、目途たちそう?」


「そこまでは分からないけど、糸口はつかめた感じね」


「そっか……」


 異世界からの帰還。

 それが現実となりつつある。

 ……嬉しいはずだけど……なんだろうな。


「どうしたの? 嬉しくないの?」


「いや嬉しいよ。バァちゃんの沢庵が食べたい」


「またそれ? 食べたいなら作ればいいじゃない」


 商店街を並び歩くミリアが俺を見上げ呆れた声で言う。


「わかってないな~ 俺が食べたいのはバァちゃんの沢庵なの」


「作る人が違うだけじゃない」


「違うんだな~。漬物っていうのは作る人によって変わるんだよ。その人にはその人の味があるの」


「でも、ユリナさんの白菜漬けは、美味しいって食べてるじゃない」


「そりゃしょうがない。美味いからな」


「じゃあ、沢庵も一緒じゃないの」


「白菜だろうが沢庵だろうが、その人の味ってのがでるの。バァちゃんの沢庵が俺好みなの」


「要するに食べなれた味ってことでしょ?」


「そのとおり!」


 うむ。なんだミリアのやつ分かっているじゃないか。

 そして気付けば、周囲からみられてる俺達。


「「………」」


 商店街の中央で、口論じみたことをやっている若い男女。

 どこからどうみても、アレだ。


「か、かえるぞ!」


「え、ええ」


 足早に俺達は家へと帰った。もちろん別々の家だぞ。

 俺の家の前でわかれ、ミリアがテラーの家へと帰宅していく。


 そろそろ冷えてきたな。厚手の服がいるかも? というかこの世界も四季ってあるのかな?

 太陽や月も同じだし、そのあたりは一緒なんだろうな。


 そういえば、この大陸ってどうなってんだろ?


 魔王さんやフェルマンさんに教えてもらった限りでいえば、西に魔族領土があって、東の人間領土は北からウース、イガリア、オズルってなってるんだけど、そこで地図が終わっているんだよな。

 外の国もあるだようだけど、そっちはどうなっているんだろ?

 船とかあればな~

 魔王さん達も1000年前からいるなら、そのあたり気にしなかったんだろうか?

 時間があれば……いや、帰還の糸口みたいのがついたらしいし、そっちに専念するか。

 外の世界か……


 ミリアと一緒に……



 ………



 馬鹿か俺は……

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