第134話 祖母への知らせ
ミリアと王様の話で、母さんがした事がわかった。
母さん自身が処刑について書いていたし、俺がどうこういう事では無いのかもしれないが、
(どうにかならなかったのか?)
とは思ってしまう。
これは息子だからなのかもしれんが、感情と理屈はやっぱり別で……
王様が続けて話をしているが、俺の頭にはいってきていない。
「ヒサオ、聞いてる?」
「え? ……ごめん」
うつむき加減の俺に、気付いたミリアがいってくる。
「どうやら、日を改めたほうがよさそうだな。今回はここまでするとしよう」
「すいません」
「よい。心の整理も必用だろう。聞く気持ちが整った時にくるが良い」
俺の返事をまたず、王がデュランさんをつれ部屋をでていった。
残った俺達もでていこうとすると、オルトナスさんが、
「ミリアよ。少し待て」
「はい?」
オルトナスさんが、ミリアを呼び止めた。
なんだろうと俺とオッサンが顔を見合わせる。
「先の魔法陣の件だが、許可する」
「え? どうしたんですかいきなり?」
「なんじゃ、嬉しくないのか?」
「いえ、そんなことはないですよ。十分嬉しいです」
言葉通り嬉し気な表情を見せるが、どことなく作っているように見えた。
「王に聞いたが、合同研究を開始するそうじゃな」
「はい。これでメグミさんの残した研究もかなり進むと思います」
母さんが残した研究? 手記に書かれていたっけ? 解決できない問題ならあったけど…
俺が自分の記憶を探っていると、知らないうちに2人の会話がとまっていた。
「ん?」
俺があれこれ考えているのをみて、会話を止めたらしい。
「どうしたの?」
「あー…」
仕方がないので尋ねてみると、2人に呆れられた。
ちなみにオッサンはいるんだけど存在感が皆無。
何か一人で考えこんでいる様子だけど、毎度のことなので自分から言い出すまでほっといている。
呆れた顔をしたミリアだったが、すぐに意気揚々とした声で、
「手記にあった最後に残った4つの問題。
それの解決に向けての試行錯誤の結果。
最後に精霊樹の力をつかうことを決めるまでの過程。
これらから導き出される、メグミさんがやり残した事。
こういうのは、表面だけみちゃだめなの。
本人が何を考えていたのか読み取るのが大事。わかる?」
俺をからかい面白がっている顔をみせて言い切った。わかるかそんなもん!
「ホホホ。ミリアもいうの~ これは合同研究が開始されるのが楽しみじゃ」
「うっ! ……師匠、お手柔らかにお願いします」
ミリアが困っている!
さすが師匠だ。あのミリアを困らせるとはやるぜ!
なんて笑っていると、
「ヒサオも師匠から何か習ってみなさい。そうしたら、私やエルマの苦労がわかるから」
もちろん丁重にお断りさせていただきました。
「あの坊主――エルマといったか?」
「そうだけど、どうしたの?」
黙っていたオッサンが突然口を開き、兄弟子とかいう少年の名前を口にした。
「少し話を聞きたい。よいか?」
「それはいいけど…何を?」
「手に付けていた宝石のことだ。あれの出どころを知りたいのじゃが、いかんか?」
ミリアとオッサンが互いの様子をみながらゆっくりと話をしていると、オルトナスさんがそれならと口を開いた。
「あれを作ったのはワシじゃ。どうかしたか?」
「そうでしたか。いや、なに。あの宝石はおそらくケイオス結晶が原料ではないですかな?」
オッサン同士の会話が始まった!
いや、一方は若い男にみえるんだが、実年齢と口調がオッサンとほとんど変わらないというね……
「さすがドワーフというべきかの。異世界のドワーフときいておったが、同じ物を取り扱っておったのかな?」
「ええ、ワシの世界ではドワーフが扱っておりました。この世界で扱っているのは、エルフ達が?」
「いや、あの結晶は偶発みつかっただけでな。それを譲りうけただけなのじゃ」
オッサン同士の会話って聞き取りにくい。声質が違うからわかるけど……
「そうでしたか……いや、失礼した」
「なに、気にしないでくだされ」
どうやら2人の話がおわったようだ。
「あれって、そんなに気になる物なのか?」
「気になったのは、世界の差異じゃ。ワシの世界とこの世界がどれほど違っているのか知っておきたい」
「……そういうことね」
前から時々似ている点があるとかいっていたし、それのことか。
俺が母さんのことを気にするように、オッサンも、気にしている事があるのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今ここでやれることはやった気がするし、まだ何かあればこっちにくればいいだけだろう。
転移魔法陣の設置許可ももらったし、これでブランギッシュからも直接これる。どうしても急ぎの時は直接通話してもいいって、王様とオルトナスさんから許可をもらった。
オルトナさんが、興味本位で携帯に魔法をかけようとしたから必死で止めた。この携帯って壊れても直るようだけど、魔法で壊されたらどうなるかなんて試す気にならない。
「やることやったし帰るか」
「一泊ぐらいとまっていかないの?」
「あー…」
そういえばそうだな。
今俺たちは城にいるんだけど、ここから転移魔法陣のあったオルトナスさんの家にいくと、おそらく夕方だ。そこから転移して馬車でブランギッシュにもどるとしたら夜道を走りぬけることになる。この世界で夜の移動は、結構危ないんだよな。夜行性のモンスターって面倒なのが多いらしい。
「んじゃ、城に泊まるか?」
「……その考えはなかったわ。師匠の家に戻って一泊したらよくない?」
「それもそうか」
話が決まり城下町を通り抜けて帰路へとつく。
ユミルの城下町は、今までみた街の中で言えば水路の発達が一番進んでいる感じがする。さすが湖上の森の国というべきか。
中世のヨーロッパ? いや、近代のヨーロッパというべきだろうか? 建築水準が高いように見えるけど、違いが俺にはわからない。そもそも外国なんていったことないからな。
それにこの城。
前にネットでみたけど、モスクの寺院だか礼拝堂とかをモデルにしたような異様な圧倒感。魔王さんの城は恐怖を演出していたけど、この城は神秘性を感じる。
「来るときも思ったけど、凄いよな」
「街のこと?」
「街もだけど、城もね」
「そうじゃな。ワシも同感じゃ」
「ミリアやオッサンの世界でも、エルフの建築物って、こういう感じなの?」
「私のところは村よ。森の中に作られた小さな村だったわ」
「ワシは戦争でみたかぎりじゃしな。似てはいるが……どうじゃろうな?」
そういや、オッサンの世界ではエルフが敵だったな。忘れていた。
そんな街並みを離れ、森にはいっていく。
だいたい歩きで1時間といったところか。
来た時と同じく、小さなモンスターがでるが、見逃すレベルだ。ほんと平和なところだよ。
オルトナスさんの家に帰ってくるが、当然明かりも迎えもない。ミリアが先にはいり火をランプに灯しながら、
「適当に座っていて。着替えてから何かつくるから」
そんなことを言い2階へとあがろうとしたとき、「あ」と小さな声をだし下りてきた。
「ヒサオ、荷物」
「ああ、そうか。いまだすよ」
ミリアの手荷物一式と杖をだして渡すと、2階へと戻っていった。
ついでにオッサンの荷物もだして自分の着替え一式もだした。
3人ともがサッパリした姿へと着替える。シャツと長いズボンになっただけだけど、ミリアは半袖シャツと短パン姿でおりてきた。
初めてみたかもしれない。
もしかして、ここの家にいる時ってあんな恰好していたのか?
だからといってどうというわけではないけど……うん。
「手の込んだものは作れないから、簡単なものになるけどいい?」
「ああ」
「ヒサオのように贅沢はいわんよ」
オッサンにそんなことを、ごく普通に言われちょっとショック。俺そこまで贅沢いってたか?
ミリアがいったように手の込んだものはでてこなかったけど、ごく普通に美味しい食卓だった。素材がいいのもあるけど、気の使わない3人で、楽しい話をしつつというのはいいものだ。
……そういやバァちゃんに母さんのこと言わないとな――後で電話をしておこう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『恵がそっちに…』
「うん。大分前にしっていたんだけど、言いづらくてさ。ごめんバァちゃん」
『……それはいいよ。でも、ヒサオは大丈夫かい?』
「え、なにが?」
『何がって、恵のことさ。あの子は、そっちで酷いことをしたんだろ? だったら、ヒサオも何かいわれるんじゃないかい?』
そういうことか。でも言われた覚えがないな。むしろ気を使われているような気がする。
「今のところは大丈夫だよ」
『ならいいんだけどさ……』
「俺、王様とだって会える立場になんだぜ。変に出世しちゃって困るぐらいだ」
『ハァ――なんだかね~ 喜んでいいのか悪いのか』
「実は俺も同じこと思ってる」
『そんなんで大事な仕事をできるのかい?』
「なんとかやってるよ。帰るための合同研究も始まるしね。それに…」
ふと2階に繋がる階段をみる。
宿に泊まっていた時と同じに、下におりて話こんでいるわけだけど、2階ではオッサンとミリアが別々の部屋で眠っている。
「……俺だけじゃないから。こっちでできた仲間がいるから大丈夫」
『よくしてくれる友達かい?』
「友達――どうだろ? 歳はかなり上だから、そんなこと言ったら怒るかもね」
『おやおや。目上の人たちと仲良くなったのかい。そりゃあよかったね』
「うん、まぁ――」
『? どうしたんだい? 歯切れがわるいね?』
「一人……たぶん歳は上なんだろうけど、俺と見た目はほとんど変わらないのがいてさ」
『若く見える子がいるんだね』
「子というか、娘というか……そいつの様子が前とちょっと変わって」
『変わって? 喧嘩でもしたのかい?』
「そうじゃなくて、いやよく口喧嘩はするけど、そういう意味じゃなくて」
『……なるほどねぇ~』
「なにが、なるほどなの?」
『なんでもないよ。それより、その娘さんがどう変わったんだい?』
「んー たまに優しい。あと、へんに笑ってきて、それがなんか……」
『……ヒサオもそういう歳かい』
「なにが?」
『なんでもないよ。それより、大事な仲間ならしっかりと相談しながら行動するんだよ? コタ君に聞いたら、そっちは危ない獣とかもでるらしいじゃないか。全くなんて怖い場所なんだい』
コタのやつそこまでいったのか。バァちゃんに言わなくてもいいと思うんだが。
「大丈夫だよ。俺弱いから、そのあたりは仲間に助けてもらっているし」
『そうかい? でも、その口喧嘩する娘さんは守ってやりなよ?』
「……う、うん」
逆に守られていますとか言いづらくなった。
『ヒサオ。一つだけ言っとくよ』
「ん? なにバァちゃん」
『大事なものは、ちゃんと掴んでおきな』
「なに、どういうこと?」
『さぁ、どういうことなんだろうね。でも、分かる日がヒサオにくるかどうか、それはヒサオ次第だね』
「なんだよ、意味わかんねぇよ」
なにいってんだよ。笑ってんなよバァちゃん……まったく何が面白いんだか。
『そろそろ5分になるね。恵のことはわかったよ。バァちゃんは、あんたを捨てて出ていったわけじゃないって分かっただけで満足さ。それを聞けただけで本当に良かった』
「う、うん」
また長くなりそうだと思った瞬間、ブチってきれた。
「5分すぎたか。これもいまいち理由がわからないな」
前にコタがメールでよこしたけど、いまひとつピンときていない。
同期をとっているとか書いていたけど意味がちょっと……まあ、こういうのは分かる人にまかせておこう。
しかし、久しぶりにバァちゃんと話をした感じだな。
いままで母さんのこと黙っていてごめんね。
せめてこっちに来て戻れなくなっていた事だけは言っておけば……いや、駄目だな。そんなこといったら、俺が帰ってこられるのかと余計心配されただろうし。
あれ? これってもしかして、次回から余計言われるってことじゃ?
よ、よし。次回は、合同研究が進んでからにしよう。
うん。それまではコタに任せるっていう方向で!
……コタに色々頼っているな。無事帰れたら、この借りはかえすことにしよう。
メグミの話が中途半端な形でおわりましたが、ご安心ください。
次回でもう少し詳しく触れますから。




