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第132話 ユミルの王

 ミリアの案内で城に着いたけど、その精霊樹の間へと向かう前に、デュラン=バーストという人と出会った。

 エルフには見えない。短くボサボサな黒髪と、他者を睨み付けるような金の瞳。顔は人間の戦士といっても通用しそうな無骨なもので、着用している鎧は傷だらけ。周りがエルフだらけなので非常に目立つ風体だ。


「ミリアか。久しいな」


「デュラン将軍……」


 なんだ? ミリアが見るなり足をとめて、嫌そうな顔をしているぞ。


「……人間にドワーフか。オルトナスが話をしていた異世界人か?」


「はい。ご不快ですか?」


「そういうことではない。素性がわかるならそれでいい。だが、何かあれば……」


「何もしませんよ。それより師匠に会いたいのですが、どこにいるかご存じですか?」


 心配するほどでもないか? あまり馬が合わない感じはするけど、特に何かをするようでもないし。


「オルトナスか。あいつは取り込み中のはずだ。しばらく待て」


「……」


「ミリア?」


 ジー…とデュランっていう人を睨んでいる。


「どのくらい待てば会えますか?」


「わからん。今はとにかくマズイ。しばらく、どこかで待ってろ」


 うーん……まあ、待ってもいいんだけど……ああ、そうだ。


「ミリア、先に王様ってのはだめなのか?」


「……そうね。将軍、王様とは、会えますか?」


「王ならいるが何用だ?」


 俺たちを睨む目つきが、さらに鋭くなった。

 うすら寒いものを感じたけど、イルマとの訓練ほどではない。


「あまり大きな声では言えないので、耳をすこし」


「なんだ、もったいつけて」


 不満を言いつつも、ミリアに耳をちかづけようと屈み込んだ。


「(私たち魔王様から言われてここにいるんですよ。少しは信用してください)」


「……わかった。取り次いでやる。だが、俺も一緒でいいな?」


「えっと……」


 ふと俺へと不安そうな目を向けてくる。

 もちろん構わないのでコクリと首を倒した。

 話が決まり、デュランさんに案内してもらい、王のいる場所へと向かった。


 てっきり謁見の間に向かうのかとおもえば、王がいたのは執務室のほうだったらしい。

 大統領官邸にあるような立派な机に肘をつき、嘆息を漏らしている王がいた。

 銀の長髪と金の眼。疲労している様子が顔にでている。マントや王冠なんてものもなく、着ている服のボタンも緩めていた。

 デュランさんに連れられ入ってきた俺達を一瞥すると、わずかな笑みをみせてくるが疲労感が隠せていない。


「久しぶりだなオルトナスの弟子よ。それに君は……いや、そうかオルトナスがいっていたのは君のことか」


 なんだ?

 俺を見るなり渋面な顔をし、察したかのような表情に切り替わった。

 全員が部屋にはいり王の側に近づく。ミリアが軽く頭を一度さげ、おれとオッサンもそれに習った。


「お久しぶりです王様。今日は大事な話があってきたのですが……お疲れのようですね」


「ああ、顔にでてしまうか。これでも気を付けてはいるのだが、どうしてもな」


 見られるのが嫌なのか、俺達から目線をそらした。

 ミリアが俺をチラっとみる。言っていいのかどうか迷っているのかな?

 コクリと頷くと、ミリアも一度頷いて、


「お疲れのところ申し訳ないのですが、せっかくですので、まずは紹介します。彼は、ヒナガ=ヒサオ。見ての通りの人間ですが、私同様の異世界人です。そしてその傍らにいるドワーフはジグルドといいます。彼もまた同じく異世界人となります」


 ミリアが一息で俺たちの紹介を終える。素性を察していてくれていたようで、うんうんと頷いてくれた。


「聞いてはいる。だが、急にどうした? デュランが通すということは、それなりの用件なのだろ?」


「その件については……」


 そこで俺を再度みる。そうだな。これは、俺が言うべきことだ。


「初めまして王様。今日の俺達は魔王様の使いという立場となっています」


「ん? 魔王の? わざわざ、人をよこすとは……」


「わざわざ?」


「いや、こちらの話だ。それでどういった用件だ」


 ちょっと気になるけど、話をすませてしまうか。


「まず、俺たちは、魔族とエルフの間をとりもつ交渉大使という名目できました」

 

 ピクリ。と、王様の眉間が動いた。

 デュランさんの肩も一瞬動いたけど、特に何かをする気配がない。続けて言いようだと考え言葉を繋いだ。


「現在のエルフは中立となっていますが、これを魔族との同盟和議という形として表面化させたい。と、いうのが、魔王様の考えです」


「ほう? どうやら、君達はよっぽど信頼されているようだな」


 俺たち3人をサーとみて言うと、それにミリアが首を横にふった。


「違います王様。信頼されたのはヒサオです。私とジグルドは、付いてきただけですよ」


 どこか誇らしげに俺をもちあげてくる。妙に照れくさくて頬をかきたくなった。


「君が? ……そういえばヒナガ…そうか、メグミの息子か。オルトナスから聞いている。君がそうなのだな」


 王が、妙な反応を示した。

 わずかに緊張していることだけは伝わってくる。


「はい。ヒナガ=メグミは、俺の母のようです」


「妙な言い方だな」


 そういわれてもな……

 母さんが俺に抱いてくれていた感情はわかったけど、俺が知っているのってそれだけ。世間一般でいうところの母親への感覚と、ズレているっていうのは自覚しているんだが、仕方がないんじゃないか?


「その事で俺も聞きたいことはありますが、今は……」


「そうだな。大事な話のようだし続きをきこうか」


 わかってくれたようだ。

 王が両肘を机にのせ、両手を組み合わせ聞く姿勢をみせる。


「具体的にどうするのかは、魔王様と話あうことになると思います。俺達が来たのは、この話を、魔王様からではなく、俺達異世界人が間をとりもち魔王様にもちこんだ。という形にしたいからです」


「……」


 少し考えている。分からなかったか?


「……なるほど。そういう手できたか。まあ、そうだな……すまないが、その返事については私のほうから魔王にしたいのだが、いいかね?」


「それなのですが、これまた、魔王様から言付かったことがあります」


「ん? なんだ?」


「実はですね……」


 といって空間から携帯電話と取り出す。


「俺のスキルで直接話ができまして、もしそうなった場合は、連絡をよこせと言われていました。今この場で、魔王様と話ができると思いますが、どうします?」


 携帯をパカリと開いてみせると、なんだそれは? といった感じで、目をパチクリとされた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔王さんに連絡をつけると、すぐにでてくれて、携帯を王様へと渡した。

 最初こそ半信半疑で世間話のような会話をしていたけど、徐々に今回の内容に触れ始める。


「……話はわかった……だが、先日いった問題も抱えているこの時期に、私たちの関係を表出してしまっていいのか?」


 何かあったのかな? こうして他人の話をきいていると、内容が気になるよな。魔王さんのほうで何言ってるんだろ?


「それは分かる。そのために、オルトナスが研究を進めているではないか。だが、それはそれだ。今すぐどうなる問題でもない」


 少し、声が大きくなってきたな。王のいっていることが、聞き取りやすい。


「……わかった、仕方がないか……帝国のことは今しばらく様子見を続けるが、アルフヘイムをあのままにしておくわけにもいかない。協力関係を表面化する以上、北の連中と連絡をとってアルフヘイムの復興を頼みたい……そうだ。あれから帝国は全く動かん。不気味なくらいだ」


 ……これ聞いていいのかな? ちょっと不安になってきた。ん?

 王が俺をチラっとみている。なんだろ?


「それと息子をここに寄越すということは良いのだな? ……しかし、何があったらどうする? ……すでに手記を渡したのか……うーむ」


 今度は悩みだしてる。その間も俺のほうをチラチラみていて、なんとなくミリアも不安気だ。もしかして、ミリアも何かしっているのか?


「……わかった。話はしておく。しかし魔王。これが本当の目的ではあるまいな? ……そうか。そういうことにしておいてやろう。では、またな」


 話がすんだようだ。俺に携帯を返してくる。結構長い話だったけど、こっちの世界での通話は5分が限度とかいう制約はなさそうだな。携帯のほうをみると、まだ通話状態のままだったので、ボタンを押してきっておいた。


「しかし、驚いたな。そんなスキルがあるとは……それにその魔道具。もし量産されたら、大変なことになりそうだ……いや、スキルがないと駄目か。だとしたら……ヒサオ君だったか? 君は、それを使って誰とでも話ができるのか?」


「誰とでもと言うわけではないです。俺が一度、鑑定した相手という条件つきです」


「……鑑定というのは、たしか勇者召喚で来た者達が使える基本スキルと聞いたが、君はメグミとは違うはずだろ?」


「ええ、まあ……どう言えばいいのか…」


 誤解されてしまった。この話をもちだされると、ラーグスの偽勇者っていう呼称を思い出してしまい嫌になる。


 別々の世界から、ほぼ同時にやってきたことを説明すると、


「オルトナスの弟子の言うとおりか。鑑定の話は聞いていなかったから疑ってしまったよ」


「そんな嘘はつきません」


 俺の隣で不機嫌な顔をみせるが、怒るというほどではないようだ。


「しかし、まぁ……」


 ジロリと俺をみている。なんだろ?


「いくらなんでも母親と同じ世界にこれるものか? 何も原因がなくこうなるのは考えにくい」


「それですか――その前に、どうして俺達のような呼ばれもしない者達が来てしまうのか突き止めるべきだと思います」


 王のいう事は手記を呼んだ時から何度も考えたことだ。

 だけどその話になると、まず前提として『昔からガーク海岸に、異世界人がやってくることがある』という原因がかかわってくる。それも含めてアルツの研究成果がほしいわけで、それを研究材料の一つとした合同研究を進めたいのだ。


「そうだな。だが、そのあたりは研究者たちが考えれば良い。我のような立場の者は、まず国防を考えねばならぬ」


「……俺が危険だと?」


「だとしたら、魔王は使者とはしないだろう。メグミの手記も安易には渡すまい」


「……」


 本当にそうかな? 最初に会った時、ポンとくれたけど。


「とりあえず君がここに来た目的は済んだ。そして、君が知りたいであろう、ヒナガ=メグミのことも、我は話すことができる。どうするね?」


「お願いします!」


 思わず体を前のめりにし、机をダンと両手で叩いてしまった。


「おい」


 デュランさんが、俺の肩をガッシリつかむ。

 あっと思った時には遅かったけど、王が右手を軽くあげてデュランさんを制してくれた。


「……フン」


「まったく……さて、話のほうだが、君はどこまで知っているのだ? 手記には、メグミが行った実験の数々が書かれていると聞いたが?」


 聞かれた俺は、母ヒナガ=メグミについて知ることを、口にし始めた。

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