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第127話 精米

 黒曜米。

 今現在、この世界でただ一つの食べられる米だ。

 たぶん、他のもあるとおもうのだが、みつかっていない。

 ということは、これを休戦交渉……交渉になるのかどうか微妙だけど、これを会食で出す予定なので、もっとおいしくしようかと思う。


「ということで、精米します」


「せい」


「まい?」


 アグニスさんのあとにユリナさんが続くあたり、流石の2人だと思ってしまった。


「精米というのは、米を磨いて糠を出すんですけど……わかります?」


 仲良く首を横に振るう2人。


「米に水をいれて研ぐと、水が濁りますよね?」


「はい」


「黒くなるっスね」


「……」


 普通は白くなるんだよな…白米の場合。

 つか、精米しないで、普通は研がないとおもうんだが、それでなぜ、あそこまで美味くなるのか不思議だ。


「あれこれ説明するより、やってみせます」


 言いながら、店の台所に、オッサンにつくってもらった木製キネとウスを空間から取り出し置いた。


「なんスかこれ!」


「また、みたことのないものを! 調理器具ですか?」


「調理…いや、食材をよりよくするものなので、ちょっとちがいますね。えっとまず黒曜米をこの中に少しいれてください」


「は、はい」


 キネの取って握りしめ、ユリナさんが黒曜米をサラサラといれていくのをみて、すぐにストップをかけた。


「これでいいんですか?」


「本当はもっといれるんですが、今回は少しだけやってみせるだけなので」


 だいたい2食分ぐらいでとどめ、軽くキネで()きはじめる。


「「ああ!」」


 知らない人が見ると声でちゃうよな。そう考えながらキネでさらに()く。


「これでいいはずです。少しみていてください」


 もう分かると思うが、これもまたコタがネットで調べた情報である。

 脱穀がすんだ米の精米を、昔の人はどうやっていたのか知らべてもらったら、こんな方法がでてきた。

 米を搗くことで磨かれ、小糠を発生させる。できあがったものをまとめてふるいにかけて、仕分ける。

 ふるい用の籠もつくってもらってあるんで、あとはコツをつかめばいいだけなんだが――どのくらいやればいいんだ?


(やべ、忘れた)


 コタの話だとあまり強くたたくと、すぐに疲れるらしいので、軽く搗いているんだがどのくらいの時間やればいいんだろ?

 とりあえず30分ほどやってみて、手ですくってみた。


「うーん……」


 黒かった米が、薄黒くなっている。やっぱり白くはならないのか。これで何割磨けてるんだろ?


「ヒサオさん、これでいいんスか?」


 だまってみていたアグニスさんが聞いてくるので、とりあえず頷いてみた。元から手探り感覚でやるつもりだったし、何度も試してみよう。

 今度はふるい用の籠を取り出し2人に見せる。片手でもてるサイズにしてもらったのは、とりあえずの実験用だからに過ぎない。


「今度はこれに米をいれて、搗くことでできた小糠と米をふるいわけます」


 ウスにはいっている米と小糠をサラサラとふるいに入れ、横ふりすると、床下に……あ、しまった。下に何か敷くべきだった。


「すいません、何か下に」


「はい、ちょっとまってください」


 ユリナさんが台所にあった空の桶をもってきた。


「すいません。では……」


 今度こそはと、横振りして…おお、うまくいきそうだ。桶に黒い小糠がおちている。

 そんな感じで搗いた米をすべてふるいにかけ、別に用意してあった布袋へといれた。


「搗くことで熱をもつんで、少しおいたあと、いつも通りにやってみてください」


「分かりました!」


「ヒサオさん、あっしもやってみていいっスか?」


「ええ、もちろん。今度はもう少し短めでやってみましょう。俺もどのくらいでやればいいのか分からないので」


「はい!」


 だいたい今度は15分ぐらいを目途にやってみるか。それで大体分かるだろうし……たぶん。

 しかしこれ大変だな。自動精米機の偉大さがよくわかる。


「これで味が変わるんすかね?」


「さぁ……なにしろ、俺の世界での場合ですからね」


 キネをもって搗きはじめたアグニスさんが聞いてくる。すぐに俺と同じ感じでやっているので、注意する必要がない。


「明日が楽しみッスね」


「ほんとに! でもこれで凄く美味しくなったら困るわね」


 手持無沙汰になっているユリナさんが、布袋にはいった米をサラサラと落としながら言った。


「どうしてです?」


「だって、お客様にだす米を全部こうしないといけないって思うと、手が足りないですよ」


 すでに定食セットメニューは出されていて好評の様子。なのでユリナさんの心配はごもっともなのだが。


「――それですけど、ちょっと考えていることがあるんで、まずはどの程度かわるのか、試したかったんですよ」


 俺があっさりというと、ユリナさんがポケーと口をひらき、アグニスさんは手を止めた。


「じゃあ、これは覚える必要がないんスか?」


「いや、そうでもないですよ。仕組みがわからないと、困りません? どうして美味しくなったのか、わかったほうがいいとおもうんですよ――まあ、美味くなったらの話ですけど」


 だって異世界の米だし、もしかしたら精米しても味に変化がない可能性だってある。

 それに、


「休戦交渉の場にだすものは、この方法でつくった米を予定します。なので、覚えておいてもらわないと困るんですよ」


「なるほど! わかりやした!」


 気合がはいったのはいいが、ちょっと力入れすぎです。それだけ注意して精米がおわった。あとは熱を冷まして、いつものようにやってもらうだけだ。

 明日を楽しみにし、あとのことを任せオッサンの鍛冶場へと向かった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ブランギッシュにできた鍛冶場にオッサンがのりこみ、数日がたつ。

 ガーグスさんが指示しつくってもらった鍛冶場というのは、石レンガによって建てられている。ただし、横壁の一部は開け閉めできる木壁になっているが

 これは通気性をよくするためであり、晴れた日は開けているようだ。

 火のはいった炉の前で、ミスリルを叩いているオッサンを見かけ声をかけてみた。


「少しまて」


 カンカン音を立てながら、ハンマーを叩く様はいつみても凄い。

 ガーグスさんとお弟子さんたちもいるんだが、この鍛冶場の主は早くもオッサンになりつつあった。


「こんなものか……」


 できあがったばかりのインゴットを積み重ねると、それを持ち運び棚へとおいた。


「オッサン、炉なんてつかうのか?」


「当然じゃ」


「アグロで武器作りしていた時は、スキルでやっていた事もあったじゃないか」


「あれは、仕方がないからにすぎん。本来鍛冶というのは、こうしてやるものじゃ」


「それは分かるけど……」


 便利ならそのほうがよくないのか?


「ヒサオ。ワシが使う《炎熱操作》はあくまで邪道よ。あれは、本道とは違う。そもそも、スキルを使ったやり方を誰かに教える事が出来ると思うか?」


「……」


 ポリポリと頬をかく。そりゃあ、あれはオッサンの固有スキルみたいなものだし、教えることはできないと思うが…


「誰かに教えるとき、本来のやり方を忘れていたでは半人前じゃ。だからできるだけ、本来のやり方でやっておる」


「頑固だな~」


 まあ、そこが信用につながっているんだけど。


「それで今日はどうした? 先日つくったキネとウスの量産なら、木工職人にもっていけ。ここは鍛冶場だ」


「いや、違うよ。今日は別件。実は何でもいいけど、軽そうな防具がほしくてさ。なにかない?」


「防具? それは構わんが。前からつかってあった革鎧はどうした?」


「先日、モンスター狩りしていたら背中のほうやられてさ。使い物にならなくなった」


 使いすぎて、ボロボロになっていたというのもあるんだけどね。

 普段は布地の服をきているけど、毎朝のモンスター狩りのときは以前からもっていた革鎧をつかっている。

 色々やられたりするから、さすがに交換かな~と思っていたところをやられた。

 何度か危ないところを髪一重で助けてくれたものだから、十分役だってくれた代物だ。


「お前も、ずいぶん慣れたようじゃな。しかし一人で狩りをするのは感心せんぞ」


「まぁ、それはそうだけどさ、できるだけ安全マージンはとっているよ」


「マージン? なんだそれは?」


「いや、なんでもないよ。十分倒せる相手としか戦ってないから大丈夫だってこと。それよりなんかない?」


 話を戻し、オッサンをせっつくと、手にしていた片手ハンマーを棚においた。


「完成した品は店においてあったはずだが、それでは不満なのか?」


「少し重かった。あと肩あてとかいらない。肩が自由にうごいて、胴体を全部カバーできるようなのがいい」


「ふむ? 少し話をきこうか。どうせじゃし、サイズも計って特注品をつくってやろう。金はあるのじゃろ?」


「あ、やっぱり金とるの?」


「あたりまえじゃ。カテナも救えたし、これからは金をとる」


「わかったよ、金ならなんとかなるって!」


 こうして、オッサンに話を聞いてもらって、新しい防具をつくってもらうことになった。

 ちなみに予算を聞かれたので、100万以内といっておいた。命を守るものだし、当分の生活費をのぞいた費用でつくってもらおうとおもったんだ。

 いった瞬間、オッサンが少し喜んだように見えたけど、何か変なこと考えていないよね?



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 次の日になり、『異世界亭』が開店するまえに店へと入る。


「おはようございます。仕込みの時間にすいません。どうなったのか気になりまして」


「「いらっしゃい!」」


 2人そろって元気よく挨拶された。なんだろ?……って、もう炊かれていて、ちょうど釜が2つテーブルの上におかれている!


「もしかして、いいタイミングでした?」


「ええ、これからオヒツにいれて、ヒサオさんがくるまで待とうかと思っていました」


 すでに調べ上げ、木工職人につくってもらったオヒツが、鍋の横においてある。

 米文化というのは定着していないので、こういった道具も作っていかないといけない。すでに木製のヘラも作りずみ。

 前に少しふれたけど、箸も先日完成。木工職人さんには何かと頼ってばかりだ。というか、今後も頼ることになるだろうな。


「じゃあ、さっそく食べ比べしましょうか。3人分にわけてよそってもらえますか?」


「はい。ちょっとまってくださいね」


 俺のいうとおり、ユリナさんが木皿によそってくれる。

 茶碗がほしいよな~こういうとき。

 陶器とか磁器で作るんだろうけど、あのあたりよくわからない。

 ネットで調べてもらおうかとも思ったけど、たぶんこの世界にも職人さんいると思う。たまに道具屋なんかで陶器でつくられた平皿とかみかけるし。ちょっとお高いんですけどね…


「ヒサオ様、どうぞ」


「あ、スプーンはいらないです。これがあるので」


 そういいマイ箸を空間からとりだす。ほんと保管術は便利すぎる。


「なんですそれは?」


 俺がだした箸を興味ぶかげにみるアグニスさん。ここのところすっかり経営者らしくなってきた。


「これは俺の国で使われているものですよ。こんな感じにつかんで、ご飯をいただきます」


 実際に目の前で黒曜米を持ち上げてみせる。うーんいい匂いだ。炊きたてってのはホントたまらんな。


「器用にもつっスね」


「そりゃあ、慣れていますから。ユリナさん、こっちの米は俺が搗いたやつですか?」


「はい。アグニスのはこっちですけど、若干色が違う感じですね」


 もうひとつのオヒツを指さし見せる。

 たしかに、多少色黒い。とはいえ、最初の状態に比べれば薄いきがするが。

 あくまで俺が搗いたほうと比べればの話だ。


「では、いただきます!」


 パクリ………え?


「……これは」


「ヒサオさん、これは…」


 俺と同時にたべた2人も驚きの声をだす。

 これは、やばいくらい美味い。

 甘みがあるとかそういう話じゃない。米に旨味があるのだ。

 黒曜米を精米せず炊いても食べれたんだ、それを精米したらどうなるのか、予想はしていたが、これは……


「駄目ですね…」


「「ええ!?」」


 コトリと木皿をテーブルに置く。後で食べるつもりだが、今は食べてはいけない。水でうがいしないと、米の味が舌に残りすぎている。


「こんなに美味しいのに!」


「そうスよ! 何が不満なんすか!」


「駄目ですよ。これじゃあオカズだ。米である必要性がない」


 甘みが強い米というのはあるが、旨味が強すぎるというのは初めてだ。

 これなら、オカズとオカズを出せばいい。米である必要性がない。


「そういうものなんスか……」


「今回出す予定のものだと、ちょっと使えそうにないってだけです。もちろん、アグニスさん達が考えて出す分にはかまいませんよ?」


 とはいったもの、これは少し旨味が強すぎる。一品料理として使えるレベルだ。アグニスさんも悩んでいるようだが、俺と同じく食べるのをやめ、水でうがいをした。


「確かに、舌に味がのこりやすッスね」


「そうね。一口食べただけなのに、これは少し……」


「まあ、気を取り直し、アグニスさんのほうをください」


 さて次はどうなる?

 俺達3人は、気を取り直し一口目を食べた――そして出した結論は…

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