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第123話 魔王の現実

 検索鑑定が、物にまで反応するとは思っていなかった。

 つか、普通にあり得ることだった。何してたんだ俺は! と思いながらも、さっそく利用。

 でもって、これを見つけてしまった!


 ”にがり”&”こうじ”


 お分かりいただけただろうか?


 これたぶん、歴代魔王達の執念だと思うけど、セグルで作られていた。


 当初おれは、完成品の名前で検索したんだけど、ヒットしない。

 だけど、その原材料ならあるんじゃ? と思い、コタに早速通話。

 そして必用と思われるのをメモって検索してみたらでてきた。

 実際につくってみないとわからないが、少なくとも、作れる可能性はあるわけで、思わず顔がニヤけてしまう。


 ただ、俺は作り方を調べることができるだけで、セグル住民たちに作ってという命令権はない。


「で、僕に言いに来たのか」


 命令権のある魔王さんに会いに来ました。

 すでに俺は顔パスなので魔王さんとの謁見までノータイム。

 コタに聞いた制作レシピも忘れずに紙にメモって渡してあります!

 

「魔王様も、醤油や豆腐とかほしくないです?」


「……その前に、お米の話きいてなかったんだけど?」


「あれ~? いいませんでしたっけ?」


「いまからブランギッシュへの黒曜米の流通を止めてあげようか?」


 即土下座しました。それだけはなにとぞ勘弁してください。


「全く君ってやつは……メグミもそうだったね。あの人も色々みつけてきては、セグルで育てようとしていたよ」


「だと思いました」


 予想どおりか。だろうな~ とは思っていた。


「でも、君、外交大使なんだから、その辺の自覚もってね? 料理の情報を提供するぐらいなら別にいいけど」


「それは、もちろん。だからこうして、お願いに来ました!」


「……まあ、僕も欲しいと思うし、レシピ通りやらせてみるよ。それでもちゃんとしたものができるまで時間かかると思うよ」


 それこそ当然だろうと頷いた。

 醤油と豆腐。どちらも手間と時間がかかる代物だ。

 もし俺達の世界にあるようなレベルのものを、こっちでつくろうとしたら、とんでもない時間がかかる。

 恐らくできたとしても、劣化品になるだろう。

 フラグでもなんでもない。それだけ熟練した職人と適切な設備が必要らしいのだ。


「でも、通話か……それに元の世界にはネットというやつがあって、多くの情報を調べられるんだっけ? どういうものなのか今一つ分からないけど……やっぱり君やメグミがいた世界は、僕がいた世界より進んでいるんだね」


 呆れたような声をだしいったあと、玉座に深く座り足を組み直した。


「さぁ、どうなのでしょう? 魔王様がこちらの世界にきたのは1000年前ですよね? 友人に聞いた話ですと、俺の世界と、この世界は10倍の速度で違っているようですし、その辺りの話を始めると、どこまでいっても結論つかないと思いますよ」


「ずいぶんややこしいよね。だけど、僕がいた世界と君がいた世界が違うのは、ほぼ決定したんだよね?」


「そうなると思います。かなり近い世界だとは思いますが」


「……平行世界というやつだったかな? ほとんど同じ世界だけど、どこかで大きく違った選択がされ、別れてしまった世界」


「はい。もしかすると、魔王様達がこの世界に召喚されたことで別れたのかもしれませんね。なにしろ、俺がいた世界には1クラス丸ごと消えたという記録は見当たらなかったようなので」


 すでに話してあることを口にすると、魔王さんが機嫌の悪そうな顔をした。


 以前、気になりコタに調べるのを頼んだ件だ。


 さすがに1クラス丸ごと日本の学校から消えたというのであれば、大ニュースになっているだろう。とても隠しようがない。

 そこに魔法的な何かが働けば別だろうが、俺やケイコがこっちにきたことに対して、不思議な何かが働いて、記憶の改善が成された形跡がない。


 以上の理由から、魔王様と俺がいた世界はまったくの別という可能性が高いだろう。


 そして、この問題はコタにも関係してくる。

 俺だけではなくケイコもいないんだ。

 彼女の家族に対しても、コタが現状報告をしている。

 大変な目にあっているのは、俺やケイコだけではなく、あいつも他人事では無くなっているんだよ。


 ついでにいうと、ケイコが眠りにつくまえに、コタの携帯と俺の携帯をつかって、ケイコを両親と話あわせたことがある。ケイコがどれだけこちらの世界にきて我慢をしていのか……声をきいた瞬間泣き始めて反応に困るほどだったよ。


 そういえば……


「魔王様。ケイコたち3人は無事に眠りについたんですよね?」


「当然だよ」


「眠りって魔法ですか?」


「手段かい? 薬品と治癒の一族の力を併用している」


「治癒の一族? 薬はわかりますけど、治癒はなぜ?」


「そうだな……まず薬品だけどこっちは」


 期待はしていなかったけど、説明はしてくれるようで、魔王さんが具体的に教えてくれた。

 それがこうである。


 薬品の効果

 体内に流れる魔力の流動を極限まで遅くする。副作用として深い眠りについてしまう。この副作用のおかげで、成長がほとんど止まるらしい。仮死状態のような感じなのかもしれないな。


 治癒の一族がすること。

 眠りについたままだと、目が覚めたときに筋肉が痩せ細ることになる。

 そのため、治癒の一族が定期的に筋肉細胞に刺激をあたえているらしい。

 これはほとんど力を必用とはしないので、彼らの生命力まで奪わないとのこと。


 さてここで問題なのが、この薬品をつかったとしても、完全に魔力の流動が止まらないということだ。


 つまり、いつかは魔族化が発生してしまうという事実。

 このことから予想できることがある。

 同じ処置が、魔王さんのクラスメイトにもされている。しかも、かなり長い時間……


「……魔王様。これ聞きにくいんですけど、1ついいですか?」


「なに? そこまでいうなら、最後までいいなよ。それとも許可しないほうがいいかい?」


 俺が聞きたいことが予想できたのか、魔王さんの言葉がトゲトゲしい。

 魔王さんの言う通りだなと思いながら、答えを予想したうえで質問を口にした。


「魔王様のクラスメイトで元のままでいるのは、現在何名なんですか?」


 返ってきた答えは、


「………2人だけさ」


 俺の予想を超えた人数が返ってきて唖然としてしまう。

 魔王さんは、自分を笑うかのような嘲笑をしたあと、


「……ほんと現実ってクソだよね」


 投げ捨てるような声に、俺はまったくだと強く同意した。



 ―――――――――



 2人とも黙ってしまったので、話題をきりかえようと、


「そうだ。魔王様。ジェイド王子の方はどうなりました?」


「ああ。そっちはフェルマンが数人を選んで迎えにいく手筈になったよ。10日後に交渉に入る予定さ」


 魔王さんも気持ちを切り替えてくる。


 交渉か。

 まあ、今回は俺の出番はないだろう。

 なにしろ向こうから降伏したのだし、無条件降伏といってもいいはずだ。

 なら、魔族側から一方的ともいえる条件をつきつけられる。

 俺の交渉術だと、対等な取引(異論は認める)になってしまうから、こうした場合はむしろ邪魔にしかならない。


「それがどうかしたのかい?」


「ちょっと思ったんですけど、そうした席で出される食事に、日本食っていいものでしょうか?」


 ほんとうに、今おもいついたに過ぎないんだけど、これいいのかな~という軽い気持ちでいうと、魔王さんの口元に自然の笑みが戻った。


「君、ほんと面白いこと考えるね。任せていいかい?」


 俺は素直に頷く。ちょっと面白いしね。流石に箸はだめだろうけど。

 この件はあっさり決まり、俺が帰ろうとすると、


「ああ、ヒサオ。何度もここにくるのも大変だろうから、僕に対して通話をつかってもいいよ」


「え? でも謁見の最中だったら、マズイですよね?」


「まあ、その時次第で優先順位をかえるさ。それは僕の判断にまかせてほしい。君だって、セグルまでいって転移魔法陣使うのも結構大変だろ?」


 確かに。馬車つかっても往復で6時間かかる。結構面倒なんだよな。


「本当ならブランギッシュにも転移魔法陣を設置したいんだけど、ちょっと今は危険だ。だから通話で構わない。いいね?」


「は、はぁ?」


 魔王さんにしては珍しく……いや違うか。この人最初から結構強引に話を決めていたよな。


「わかりました。じゃあ、何かありましたら連絡いれます」


「うん頼むよ。じゃあ」


 一応納得して部屋をでたけど、やっぱり魔王さんの様子が変な気がする。

 腑に落ちない点もあるけど、こっちも気にしている場合じゃないか。


 今は10日後の休戦交渉にむけてのメニューを考えるとしよう。

 ……あと溜まっている書類仕事もね。

 どうやら人口が増えたことで、亜人の皆に問題が起きているようなんだよな……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ヒサオが出ていくと、魔王の顔が急に歪み始めた。


「ウッ!」


 苦痛を漏らすと同時に、自分の体を両腕で抱え込むこむように抱きしめた。


「魔王様!」


 ニアが慌てた様子で影からでてくる。

 

 魔王の腕が急速にしぼみだし、シワができ始める。

 呼吸を荒くし、前かがみになり、必死に自分を押さえつけはじめた。


「気を確かに!」


 魔王の背後にまわり、背をさすりながらニアが言う。

 2人のそうした様子はしばらく続き、魔王が身を起こすまで時間がかかった。


「……ご無理をなさるから」


「大丈夫……まだ、僕の体はもつさ」


 ニアを見ずに、自分の体を抱きしめたままいう。

 老人の肌となっていた両腕は、元の状態にもどっていたが、痙攣するかのように小刻みに動いている。


「すぐに治癒師をつれてきます」


 そう言い残し、移動しようとしたニアであったが、


「まて! もういい。彼等の生命力をこれ以上使うな」


 有無を言わせない声と目を向け言い切ると、彼女の足が止まった。


「ですが!」


「彼らの命は彼らのものだ! 僕達(ニネンエークミ)の為にこれ以上つかうことは許さない。これは命令だ!」


「………」


 自分を叱りつけるように言う魔王を、ニアは前から近づき、そっと抱きしめた。


「ニア?」


「魔王様。どうか、どうか、ご自愛ください。私たちの為にも……」


 ふっと魔王の頬に流れおちる熱い雫。それがなんであるのか、魔王は知っている。

 だけど、その雫に込められた意思を魔王は認めるわけにはいかなかった。

 自分を抱きしめるニアの手を握り、自分から離す。


「違うよニア。何度も教えただろ?」


 優しく、子供をなだめるかのように魔王は言う。


「僕たち(・・)が助けられている。君たちという純魔族、そして亜人達。皆に僕達は過分なほどに助けてもらっている。だから、これ以上、僕達のために命を使わないでくれ」


「……魔王様」


「大丈夫。まだもつさ。僕の代で全部終わらせる。次の魔王なんていらない。そのための能力だと僕は確信している。僕の肉体制御スキルはこの為にあったのだと」


 ニアは黙った。

 それが魔王の願いであることはすでに知っていたから。


「せめて、お世話をさせてください。すでに食事の時間は過ぎております。何か作りますので、部屋でお待ちください」


「ああ、そうだね。それくらいはお願いしようか。ごめんねニア」


 スっと玉座から立ち上がると、元気な姿でもみせるかのように、玉座の後ろへとスタスタと歩いていく。


 そんな魔王の後ろ姿をみていたニアが、空を泳ぐように手を伸ばした。

 けっして届くことがないであろう、何かを求めるかのように。

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