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第122話 こんなこともできました

 ちゃんとした箸はできなかった。

 適当に2本の棒をつくってヤスリで削ればいいかと思ったけど、少し時間がかかりそうだ。仕方がないので、2本の棒を用意して終わってしまった。

 ヤスリが見当たらなかったんで、今度オッサンに聞いてみようかと思う。漆塗りとかは無理だろうな~


 陽も落ちて、お月さんもでてきたので、アグニスさんの店へと入る。

 店内には蝋燭の光が灯っているが、テーブル席のほうは薄暗い。


「ヒサオさん、ちょうどいいタイミングっス」


 いったのは、カウンターを雑巾がけしていたアグニスさん。獣人の3人は帰ったらしい。


「ヒサオ様。来てくださりありがとうございます」


 今度は厨房からユリナさんが出てきた。

 ゴブリンの顔ってよく区別がつかないんだけど、この2人の顔だけは何とかできるようになってきた。

 たぶん、ユリナさんは、ゴブリンの中では美人にあたる方じゃないかな? あくまで俺の価値観でだけど。


「今晩は。俺も気になっていたんで、よかったですよ」


「そういってもらえると助かるっス」


 アグニスさんが、目元をゆるませ手にしていた雑巾をユリナさんに渡し、近づいてくる。


「実はですね、ちょっと困ったことが起きてるんスよ」


「困る? 客が増えすぎているとか?」


「いえ、それもあるにはあるんですが、アッシ達がなんとする事でしょうから、それはいいんス。問題っていうのは……その天ぷらを食いすぎて、次の日胃もたれする客が増えてきまして……中には、苦情をいってくる客までいましてね」


「はい?」


 なんだその馬鹿は。思わず声が上ずってしまった。


「そんなの無視でよくないですか?」


「まあ、そうしたいのは山々なんスけど、こっちとしても、そうならないように、何らかの対処をしたほうがいい気がしましてね?」


「ああ……つまりポーズか」


「ポーズ?」


「店側として客の体調を考え、こうしたことをしています。という姿勢を見せるっていう意味かな?」


「なるほど。でもアッシとしては、うちの料理を食べスぎて、体調不良になってほしくないってのも本心でスぜ?」


「ええ、それは、分っていますが……」


 かといってな~

 それって店がどうとかいう問題じゃない気がする。

 顎に手をあて考えていると、アグニスさんが自分の考えを口に出しはじめた。


「おひとりさま、天ぷら大皿1枚までとか、クシカツは10本までとかで制限つけようかと思うんスけど……」


「注文できる量に制限ですか……」


「ええ。どう思いやス?」


 2人そろって考えてごとをしていると、奥に一度ひっこんだユリナさんがやってきた。


「あんた。カプティいれたから、ゆっくり座って相談にのってもらいなよ」


「おっと、そうだった。ヒサオさん。座って話ましょうや」


 言われ軽くうなずいてからテーブル席に並んですわった。


「……ちなみに、その苦情をいってきた客ってのは、どのくらい食べたんです?」


「大皿3枚分ぐらいっスね」


「3……さっき俺が食べてたのが大皿ですよね?」


「そうッス」


「……完全に馬鹿でしょ」


 目を半開きにし、言いきった。

 あの皿で3枚とか多すぎるだろ。そりゃあ、おかしくなって当然だ。自制がきかないにも程がある。


「やっぱり制限かけるべきっスかね?」


「……おもったんですけど、その客って、天ぷらやクシカツだけ頼んでたんですか?」


「ええ。そうっスよ。ちょっと食いすぎじゃ? とは思っていやしたけど、苦情までいってくるとは思いませんでした……ハァ――」


 泣き出しそうな声と顔をし、愚痴のような感じで声をこぼしてる。


「この店って揚げ物が中心ですものね……」


「そうスね。でもヒサオさんが食べたように、サラダもあるんスよ?」


「ええ、まあ……」


 食いなれている人なら、そうした食べ方をする人もいるだろうとは思う。


「ようは、天ぷらだけで腹いっぱいにしてしまったのが悪いと思うんで、今日のように定食セットを進めてみてはどうでしょ?」


「うーん。なるほど」


「それと、今日ミリアにも言いましたけど、果物を少し付け合わせにしてみては?」


「それっスよね~ あっしもそれが気になっていやした」


 同じことを思っていたようだ。途中、俺に何か言いたそうにしていたのは、これのことか。

 しかし……一番いいのは”キャベツ”を間に食べながら食すのがいいんだが、どっかにないものかな~? アスパラは……ん?


 ――――ピコーンと浮かびあがるは、文字入力画面―――――


 ………


「ヒサオさん? どうしやした?」


「…………」


「ヒサオ様?」


「アッ! エ? あ、はい。あ、うん。ちょっとすいません」


 挙動不審だぞ俺。

 いや、でも普通こうなるだろ!

 試しにというか、もうこれは、確定だろうけど――キャベツといれてみる……反応して矢印が……


 キャベツ

 状態 良品

 位置情報 セグル西地区


 うわ~ セグルにあったのかよ。名付けたのは魔王か母さんだろうな。

 あの村はまだあまり見てないから分からなかった…


 も、もしかして、豆腐も?


 ……だめだった。矢印もなにもでない。


 白米は!


 …………これも駄目か。


 ぢぐじょぅううう―――――――――!

 これって凄い便利だけど、夢も希望も失うことがあるじゃねぇか!

 豆腐は……まあ、我慢できるけど、白米がぁああ――――――!


「ヒ、ヒサオ様。急にどうしたんです? キョロキヨロしたかと思ったら、急に頭に手をあて振り回して?」


「どっか具合が悪いんスか兄、じゃなくてヒサオさん」


「いや、ちょっとわずかにあった希望が砕かれただけっすよ。ハハハハハハハ」


 ハァ―――なんか疲れた。2人とも俺が乾いた笑いをしているからって、距離おかないでくれる? ちょっと泣きたくなるんで。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 立ち直るまで5分ほどかかった。

 黒曜米があるから、立ち直れたようなものだな。

 とにかく知りえたことを話すか。


「えーとですね。セグルにキャベツっていうのがあるんですけど、知っていますか?」


「それは、知っています」


 知っていたか。俺知らなかったわ。普通に聞けばよかった。でも、物の検索鑑定もできることわかったから大収穫だ。


「でもあれは、天ぷらにしてもおいしくなかったんで、うちでは扱っていないんですよ」


「ユリナさん、あれは具材としてではなく、千切りかザク切りにして天ぷらと串カツに添えてみてください」


「それだけでいいんですか?」


「はい。あの野菜を食べながら天ぷら等を食べると胃もたれが起きにくいんですよ」


「え、じゃあ解決ですか!」


「たぶん。ただ、いくらキャベツがあっても、揚げ物の食べ過ぎはだめなんで、やっぱりご飯と味噌汁もお勧めしてみてください」


 そもそも、天ぷら大皿3枚もたべて苦情をよこす大馬鹿だ。

 キャベツがあっても食べないと思う。

 逆に、こんなものつけるくらいなら、天ぷらを1個多くよこせといいだしかねん。

 店側の対処姿勢を見せるのにはいいだろうが、根本的な解決にはならない可能性が高い。


「分かりました! さっそく明日、セグルからの運搬業者に頼んでみます!」


「さすがヒサオさんっス! あっというまに解決っスね!」


 夫婦がそろって悩みの解消を喜び、手に手をとり跳ねまわっている。よっぽど苦悩していたんだろうな……


「そうだ、あなた! 夕方教えてもらった定食のことを聞かないと!」


「おお、そうだった!」


 あ、うん? なに? まだ何かあるの? 喜ぶのをやめて俺をジーと2人そろってみてくる。


「ヒサオさん、定食セットというのは、他の料理とも合うんスか?」


「そりゃあ、色々あいますよ。肉料理でもいいし、魚料理でもバッチリです」


「なっ!?」


「まさかの、万能!」


「ぐ、ぐぇ! ユリ……」


 ユリナさん狂喜してアグニスさんの首をしめないでください。落ちますから。


「い、いまから幾つか作りますんで、ぜひ試していってください!」


 返事もきかずそのまま厨房にいったが、


「ユリナさーん。おれ腹いっぱいなんで食えませんよ」


「……ぐっ」


 ここの天ぷらを食べてまだ2時間ちょいしかたっていないのだ。

 まあ、食えなくはないけど、無理はしたくない。


「残念です……」


「普通は賄いとしてお試し料理をつくるんですけど、そういう習慣ってあります?」


「賄い?」


「ってなんスか?」


 仲いいな……うらやましくなんかないぞ。


「えっと、余った食材を使って、食事のときに従業員で試すんですよ」


 意味を教えると2人が顔を見あわせあった。


「余った食材でっスか?」


「ええ、例えば野菜の端きれとか、売れ残ってしまった食材とか……だいたいわかりますよね?」


「ええ、それは……でもそういうのはすぐに捨てていました」


「客に出せないのを残しておくと、間違って使っちまうこともあるんで…」


「じゃあ、食事は店でだす食材で?」


「そっス」


 それで、儲け出しているのか……凄いとはおもうが、もったいないきがするな。


「試作料理を作るときは、そうした野菜クズとか、若干古くなった食材なんかで少し試してみるのも手ですよ。試作でいけるとおもったら、普通に店でだす食材つかってみるんです」


 俺が言う言葉に、2人そろって一々反応する。

 そんな態度をみていると、さらに知っていることを教えたくなるんだが、一気に全部教えても消火しきれないだろう。


 そう決めた俺はチラっと外をみたあと、ガタリと席を立った。


「今日はこの辺で。しばらくはいられると思うので、また店にきますよ」


「ああ、待ってください! ユリナ、あれ!」


 ん? まだ、何か問題が? と思ったら違った。

 ユリナさんが空間を開き、キニア金貨のはいった小袋を取り出して、俺に渡してくる。


「お約束の報酬ですよ。ヒサオさんの取り分なんでしっかりと受け取ってください。中に、10万の大金貨が5枚。あわせて50万キニアはいっています」


「おお! もうそこまで!」


 店が開いておそらく4ヶ月程度。それでマジックバント分と合わせて250万キニアか……

 今の状態でコレって結構やばい稼ぎになりそうだな……

 

「おかげさまで、儲けさせていただいています。今回の定食セットというのも流行りましたら、もちろん、そちらの報酬も上乗せッスよ。楽しみにしていてください」


 そういうアグニスさんの目が一瞬キラっと光ったのが見えた。


 これで丼物とか教えたらどうなるんだろ……しばらくは今回教えた分だけで様子みることにしよう。

 金のありすぎは小心物の俺には怖いのです。

ヒサオ:わずか4か月でこの稼ぎ……いや、俺の収入より、アグニスさん達のほうが多いはず……独占販売という感じになってるんだろうな。

ミリア:アグロの宿でも、ほとんど独占的な感じでメグミさんの料理だしてたわよね? あれはなんで流行らないの?

ヒサオ:そりゃあ、あそこの人がいっていただろ『あまり出さないって』。

ミリア:あんなに美味しいのに、どうして?

ヒサオ:さぁ? 何か事情があるんじゃね?


ポンズ:あの料理は、お得意様用です。本来一見さんにはお出ししないのですが、何があったのか知っていたため、せめてもと思い出させていただきました。

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