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第120話 ビフォー・アフター

「む、むら?」

「「「………」」」


 ブランギッシュ・ビフォー


 中央に大きな3件の家があり、それに寄り添うような形で立ち並ぶ木造建築の家々。

 村の外側周辺はかなりの土地があまっており、畑や訓練所として使用され、早朝早くから汗水を流す光景が毎日見られました。

 当初はアグニス夫妻だけが店を開いていて、戦争が始まる少し前にもう一件出来たとか。

 それ以外特筆するものがない小さな村でした。


 ブランギッシュ・アフター


 中央にレンガ作りのちょっと洒落た家があります。

 前にあった大きな家1軒の半分ぐらいの広さですが、なんと庭付き。ご近所の子供たちが大いに喜び遊ぶことでしょう。いったい誰の家なのでしょう?

 中心に寄り添う形で立ち並んでいた住宅が消え、住宅街と商店街が北と南に別れ出来ています。区画整理がされたのでしょうか?


 村? いえ、すでに街となってしまった地面には石が敷かれ、立派な石道ができています。街中を馬車が走る光景というのは、エーラムでも見たことがありません。これで街はずれの住宅に住む人も商店街への買い物に不便なくいけるでしょう。


 村を囲むようにあった畑や訓練所でしたが、これも消えています。

 畑をけすとはなにごとだ! と農民の方々はお怒りかもしれませんが、ご安心を。

 精霊さまが、育成途中であった農作物と埋まっている土ごと邪魔にならないよう住宅街の側に移動してくださいました。


 さらに訓練所は早朝うるさいとの苦情がでておりましたので西側に移動。

 当初は大きな屋根付きの体育館のようなものにしようとした形跡がみえますが、精霊によって破壊されたあとも同時にみられ、建築中に方針変更をしたのがわかります。いずれは別の形として再生建築されるのではないでしょうか?


 匠達(主に精霊)の手にかかり変わったブランギッシュ。今日からあなたもどうでしょうか?




 等という宣伝が俺の頭のなかで書かれるくらい変わっていた……


「ヒサオ……これ村じゃなくて街じゃ?」


「前に見に来た時はここまで発展しておらなんだが……なんじゃこれは?」


「さぁ――フェルマンさん?」


「俺に聞くな。村に残っていた連中の仕業だろう。誰が主導したんだ?」


「……そういえば、戦争中は誰もいなかった!」


 今更気付くこの事実。


 おれ、イルマ、フェルマンさん、テラー、エイブン、ゼグトさん。


 基本この6名で村のあれこれを決めていたんだけど、戦争にこの6名全員が参加していた。

 帰ってきたのは、つい昨日。

 つまりその間、村の監督をしていた人というのは実質不在。


 ……あれ? じゃあ、なんで発展してんの?


「……世の中気付いたらいけないことってあるのかもしれない」


 ボソっといいながら、街中へと進む。

 街の周囲を覆う石壁は、俺の背丈ぐらいかな? 道具をつかえばすぐに乗り越えられそうだけど、それでもモンスターに対しては有効だろう。あるいはまだ積まれるのかもしれない。


「ここまで様子が変わると、どこに何があるのかわからないな」


「ワシの家はどこに建てられたんじゃ? コリンとヒガンは無事か?」


「俺の家もなくなっている。ゼグトのやつどこにいった?」


「何それ……」


 やばい。村の発展に貢献したはずの俺とフェルマンさんの2人がいるのに、住処も不在とかありえない状況になっている。


「確かに精霊使いが増えてから、村の発展は加速していたが……」


「俺たち結構いませんでしたからね」


「まあ、そうだが……」


 戦争準備で、ずーとアグロにいたからな~


 あ、まてよ?

 テラーと馬野郎はここにいたよな? 俺の書類仕事を任せていたはずだ。

 それに戦争に参加しなかった、精霊使いも数人いたし、獣人の多くはこっちだった。 

 ゼグトさんとイルマはアグロにいたし……ってことはあの2人が主導で?

 あ、あいつらがやったのか!


「あー 通話で、テラー呼び出しますね」


「「「それだ!」」」


 困り果てた俺たちは、街の中にいるはずのテラーを呼びだした。ついでに馬野郎も一緒である。こいつら最早セットだな。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 住宅街の外れでまつ俺達をテラー達がみつけ、茶色の尻尾をふりながら駆け寄ってくる。

 白のシャツに青のベスト。下には茶のボトムズというなんとも街の住民を満喫している服装。


 もう一方の馬は馬でしかない。いつもの通り変わらず全裸だ。

 せめてシャツぐらい着たらどうだと思うが、ケンタウロス族の習慣にないのだから仕方がないか。

 そんな2人に見つかった俺達は、ようやく自分たちの家に帰宅できたのだが……


「おれの家が中央にあるってどういう事よ」


 街の中央にあった洒落た庭付き一戸建てレンガハウスは、俺の家だったらしい。


「普通、こういう一等地ってフェルマンさんかイルマの家だろ!」


「フェルマンの家はゼグトがきめ、イルマの家は奥さんが決めましたから」


「俺の家は!」


「ごく自然にここになりました」


「なぜ!」


「不満でも?」


 家そのものについては不満なんてない。暖房設備もある、庭付きの家だ。元の世界で手に入れようとしたら給料何十年分だろう?


 だが、位置は?

 そりゃあ、歩けばすぐに商店街だ。おまけに住宅街もすぐそばだ。便利だよね!

 だけどここって、住宅街と商店街の皆が行き交うよね?

 目立ちすぎだろ!


「ずっとアグロにいたヒサオが悪いと思います」


「何でそうなる……」


 こっちだって好きでいたわけじゃない。できればユリナさんがつくる料理のことだって気にしたかったんだ。でもそれどころじゃなかったんだよ!


「私は他の人たちの家を案内するのでヒサオはゆっくり休んでください」


「……もうなんでもいいや」

 

 ぐったりとして俺の家だという場所へと入る。

 そして知る……悪夢がそこにあったという事実を。


「書類仕事はいやだァアアアア―――――――!」


 薄緑の絨毯がしかれた木床の上に、山積みされた書類の山。

 なぜこうなるまで放置していたのだと言わんばかりの量。

 見るのもいやだが、一枚とってみると、新規建築された家の許可書……いや、俺の許可いらないだろ?

 俺、外交大使であって街の管理者じゃないよ?


 そういや外交大使って普通なにするんだ?

 他国に住んで、在住している自国民の権利をまもる? みたいな?

 俺の場合、魔族の外交大使なわけだから、この街にすむ魔族達の権利をまもるのが仕事だよな?

 なんで、獣人の住宅許可書類とかあるんだよ。

 こういうのイルマやテラーの仕事だろう!


「くそ! 全部仕分けして突き付けてやる!」


 腹立ち書類の山を前にドカっと座ると、分別を始めた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 気が付いたら寝ていた。

 たしか、一つの山は終えたはずだよな……

 亜人への苦情は俺が受けるべきものだが、入居者申請は俺に関係がない。


 ……そういえば、予想より新規の獣人が増えたな。

 アルツに獣人たちが残っていて、それもこっちにきたか?

 まだ土地はあるからいいけど、あまり増えすぎるようなら考えないと駄目なんじゃないか? テラー達そのあたりわかっているのか?


 考えすぎても駄目だな。

 もう夕方だし、アグニス夫婦の店にいって飯たべよ。ご飯ものやってるかな~? やってるといいな~

 自然にでる口笛をふきながら玄関扉をあけようとすると、コンコンとノックがされた。


「ん? はーい。空いてるよ」


 そういうとガチャって音がし、扉が開くとミリアがいた。

 ありゃ、いつもの天の長衣じゃないのか。もう着替えたのか? 青のワンピースとかよくあったな? どこで入手したんだろ?


「どうした?」


「うん。無事に泊まるところが決まったし、おすすめの食事でもご馳走してもらおうかな~っておもってさ」


 いいながら、口元を緩ませ、ニヒヒって笑っている。くそ、可愛いじゃねぇか。


「それはいいが」


 問題は店の場所が変わっていないかどうかだ。


「まあ、いってみてからだな」


「なんのこと?」


「何でもない。まあいってみよ」


 商店街へレッツGOだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「うわ~ にぎやかね」


「うん……夕方だからか? みんな食物だけじゃなくて色々買いあさってるな」


「これ、この街の住人だけだよね?」


「……ちがうな。竜人もいるし。あれアグロの人じゃないか?」


 たまにチラホラみかけている。

 俺が知る限り、この街にすむ魔族は、ダークエルフと翼人、そしてゴブリンだけだ。

 獣人のほうで知らない種族がいる可能性は高いけど、いくらなんでも竜人を間違うことはない。


「まあ、いい。アグニスさんの店に急ごう」


 何しろ、まだ同じ場所に建っているかどうかわからないし。

 足早に人混みの中にはいっていくと、何か視線を感じ始めた。同時に、「ヒサオ様?」「もどったのか」「後ろにいるのはエルフじゃないか?」「あれが噂のつれあいか」「一緒にいるとは聞いていたが、本当なんだな」「結構可愛いじゃないか」………色々好き勝手いってるなこいつら……最後のは同感だ。


「ちょっと、まって!」


「ん?」


 声がし後ろをみると、人混みの中からミリアの声が――はぐれかけているな。

 戻ってミリアをみつけたあと、手を差し出す。


「ほれ」


 ピタっとミリアがとまった。


「え?」


「手……よこせよ。はぐれるだろ」


「う、うん。そうね」


 手を差し出してくるけど、妙に遅くて――こっちから握ってやった。


「あ……」


「いくぞ。すぐそこだから離すなよ」


「……うん」


 手を握りながら、目指す店へと急いだ。

 後ろから何か聞こえてきたけど、無視することにした。


「お! あった!」


「え? あれなの?」


「ああ。間違いないよ」


 アグニスさんの飯屋。名は『異世界亭』である。

 ちなみにこの店名は、母さんの本が関係しているが、まだレシピを全て再現できているわけではない。


「他の店は綺麗なのに。ここだけちょっと違わない?」


「そりゃあ最初に建てられた木造の家を改修してつくったからな。中も変わっていないなら、わりとボロだぞ」


「それでいいの?」


「前に来た時は。かなり繁盛して――今もだな」


 ギーと音をたて玄関扉をはいったら、すごい人数。

 いつの間に雇ったのか、獣人の店員さんたちが3人ほどいる

 狸と猫と犬か……ケモナーがいたら歓喜する店になったな。


「いら……キャ――――!」


 なんか白い体毛をした猫獣人の店員さんが俺達をみるなり騒いだ。

 なんだ?……ああ、ミリアと手をつないだままだからか?

 パッ離すと、ミリアが小さく「あ」って声だして握っていた手をさすった。あまり強く握った覚えはないけど、痛かったかな?


「い、いらっしゃいませヒサオさ――お客さま。お2人様ニャン?」


「あ、はい」


 『ニャン』いただきました。

 テラーとちがって猫獣人って、本当に猫顔なんだな。

 そういや、イルマも一応猫系獣人か。あいつも虎顔だから、猫系ってそうなのかもしれない。


「じゃあ、カウンターのほうにどうぞニャン!」


 案内されるまでもなく、場所がわかるので、ススっと歩いていく。後ろからミリアがついてくる足音もした。

 2人で並び座ると、カウンターを挟んで店主のアグニスさんがいて、俺達を見るなりニコっとした顔をみせてくる。背が足りなりはずだが……ああ、厨房側だけ上げ底にしているのか。


「ヒサオさん。それに、えっと…」


「ミリアよ。よろしくね」


「へい。こちらこそ。噂には聞いておりました」


「噂……」


 街中で聞こえていたやつか。誰が広めたのか知らないけど…


「……」


 ミリアが無言で顔を下げた。横顔しか見えないけど、頬を染めているように見える。


「あ、アグニスさん、店の方すごい繁盛ですね。そろそろ支店も考えるんですか?」


「その話はまだ先っスね。まずはここが本店になるわけなんで、建物の改修もしないといけませんし」


「そうか。かなり順調のようで」


「ええ。まったく。そうそうヒサオ様のほうの報酬なんですが、いつでも取りに来てください」


「え? いや、俺にはこれがありますから。まだしばらくはもらえないでしょ?」


 左手につけているマジックバンドを見せる。これのおかげで、大助かりだ。


「いやいや、もちろんその分は引かせてもらってますよ。その上で報酬が発生してるんスよ」


「………え? いや、だって……(これ200万もするんでしょ?)」


 流石に金の話を大声でいうのはちょっと嫌だ。顔を近づけ小声できくと、


「いや~。それがっスね、前に教えてもらった”天ぷら”と”クシカツ”が大ヒットしまして――まあ見てもらえればわかりまスがね」


 後ろを指で刺されたので見てみたが、どこのテーブルにも天ぷらやクシカツが並ばれている。色々な具材を使えるから、工夫次第ではレパートリーがふえるし、人気も高いだろう。


「ヒサオさんの前払い報酬分もあっさり消えましたし、それでユリナがつかっているマジックバンドも買えたんッスよ」


「前に見せてもらった……というと、あの時点で?」


「ええ。本当はあの時に言うべきかもしれませんが、契約金の話を戦争前にスるってのはどうかと思いやしてね」


「なるほど」


「ああ、そうだ。この後もし時間あるのであれば、ちょっと相談のってもらえませんかね? 預かっている報酬金も渡したいので」


「わかりました」


 俺とアグニスさんが笑みを絶やさず話をしていると、


「ねぇ。なんでもいいけど、まず注文きめない? どれも私の知らない料理ばかりなのよ。ちょっと教えてよ」


「ああ、ごめん。じゃあ、アグニスさん。この話の続きはまた夜に」


「はい。もうしわないッス。ごゆっくりしていってください」


 そして俺達2人はメニュ―をみながら、あーでもこーでもないと、たわいない話に花をさかせていった。


 誰かが、ミリアの服を褒めてやれよ、とか言っていたが、そういうのってタイミングあるよな。おれのような奴に、それはハイレベルなミッションなんだぜ。

イルマ:あの野郎、商店街で手をつないで歩くとか正気か?

エイブン:相手は、あのエルフか。目立つな

イルマ:ああ。これで噂がさらに広まるな。

エイブン:それは、まぁいいが。イルマ、あのエルフの着ていた服は、覚えがないか?

イルマ:ある。というか、たぶん、アレは……

何かを懐かしむように、2人の姿が住宅街へと消えていった。

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