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第119話 ヒサオ達とラーグスの行方

「ストップ。もういいよ」


 ミリアの話を止めたのは魔王さんだった。

 俺としても、ミリアの表情がこわばったのを見て、もういいと思ったしな。ナイスだ魔王さん。


「嫌な話を聞いたみたいだ。すまない。こちらとしても困ったことがあって、交感能力が高いのであれば、力を借りたかっただけなんだ」


「話を聞かせてもらえても?」


「そうだね。一方的に話を聞いてしまったのだし。ただ、今のところは、ここだけの話にしてほしい」


 どうやら知られるとマズイようだ。念を押され、俺達は頷くしかなかった。


「世界樹を知っているのなら、精霊樹も知っているよね?」


「はい。世界樹の子達ですね」


「うん。それがこの世界にはいくつかあってね。ほとんどはエルフ達によって守られている」


「……ユミルにも?」


「あるよ……そうか、君がオルトナスの弟子なんだね?」


「師をご存知で?」


「まぁね。彼は、ほら自由人だから。ハハハハハ」


 妙に乾いた笑いをするな? 魔王さんにしては珍しい。


「力を借りたいと言う事は、精霊樹が弱っているのでしょうか?」


「今は大丈夫。ただ、いつまた弱るか分からないらしいから、確認だけしておきたかった」


「そう、ですか。どのみち力になれそうにはないですね」


 力を落としたような声だった。気落ちしているのがよくわかる。ルインさんが、近づいて肩をポンと優しくたたいた。


「えーと、あとはジグルドだっけ? 君はアグロに戻るのかい?」


「ワシか? いや、ブランギッシュに家を建ててもらった。しばらくはそこで3人で住むつもりじゃ」


「ファ!?」


 驚いて、思わず変な声を出してしまった。


「オッサン、いつのまに!」


「アグロでの戦争準備をしていた時に頼んでおいた。これから発展していく場所になりそうじゃし、ヒガンにとって良いかもしれん。すでに、コリンとヒガンは移動したはずだ」


「やること早いな……」


 獣人たちの武器もつくっていて、これかよ。どれだけ仕事できるんだ…


「わかった。これで全員の方針がきまったね。あー それと休戦が成立したあと、前にいっていた帰還魔法の合同研究についても進めるつもりだ。昨日いったように、僕にとっても最大の望みだから急ぎはする。ただ、それでも準備が整うまでしばらくかかるだろうから、それまではゆっくりしてほしい」


 魔王さんが最後のしめにはいろうとすると、


「その合同研究が開始したら、私も参加していいでしょうか?」


「ん? ミリアか。そのつもりでオルトナスに弟子いりしたんだろ? 彼が構わないと思うのであれば、研究員として参加してもいい」


「わかりました。じゃあ、私は師の元へと…「あ、まって。今はやめてくれ」」


 唐突に魔王さんが手をのばした。よほど慌てたのか?


「すまないが、オルトナスは忙しく動いているはずだ。悪いけど、今は干渉しないでほしい」


「……わかりました。じゃあ、私もブランギッシュにいって準備が整うまで待ちます。いいでしょヒサオ?」


「え? あ、うん。それは構わないと思うぞ?」


 なぜ俺にきく? あそこは俺の村ってわけじゃないんだが?


「じゃあ、今度こそ……あ、ヒサオ。さっきいっていた携帯電話とやらを教えてくれないか? ちょっと面白そうだ」


「(……覚えていたか)」


「なんかいった?」


「いえ、なんでも。えーとですね……」


 小声でいったのにしっかり聞かれた。

 携帯のことを話すついでに、俺が現在把握している、自分のスキル効果のことを話したら、


「君のスキルって、どうしてそう変なの? 僕には商人として大成する未来しかみえないよ」


 なこと言われて、ちょっと苛立った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 話が一通り終わると、召喚された3人を残して部屋をあとにする。

 宿に帰り各自の荷物をもったあと、モーリスさんに挨拶。俺達4人はセグルへと飛び、そのあと荷馬車でブランギッシュへと向かった。

 その馬車の中で、正面にすわっていたオッサンが、


「この馬車は振動がすくないが、誰かつくったんじゃ?」


「ああ、それ俺が頼んだんだよ。村にいる鍛冶職人で……名前はガーグス? だったかな」


「頼んでおいてそれなの?」


 隣で膝を組んでいるミリアに突っ込まれた。


「色々住人が増えて、覚えきれないんだよ」


「らしいって、ヒサオが管理しているんじゃないの?」


「え? おれ外交大使だぜ? 違うよ。その辺は、イルマやフェルマンさんが担当だろ?」


 ミリアの前にいるフェルマンさんに向かい尋ねると、


「ん? いや、俺じゃない。イルマ達だぞ」


「……じゃあ、今は3人で悪戦苦闘か」


 書類の山に埋もれてなければいいが…


「ヒサオ、あとでこの振動がすくない仕組みついて教えてくれ。ワシも少しやってみたい」


「もちろん、といいたけいど、俺より作った人に紹介するよ。俺はこういうものが欲しいっていったけど、実際作ったのは、ガークスさんだし」


「それもそうじゃな。頼む」


「もちろん」

 

 そういえば、オッサンは家あるんだよな? それもあって、何かやりたいんだろうけど……


「ミリア。お前ブランギッシュでどうするんだ?」


「え?」


「いや研究開始するまで休むならそれでもいいと思うけど、手持無沙汰にならない?」


「うーん。特に考えていなかったわ」


 顎に、ひとさし指をつけて、顔をカクっと傾ける。


「なんだよ。もしかして、どこに住むかも考えていないのか?」


「えーと……宿ないの?」


「宿か……フェルマンさん、できましたっけ?」


 腕組をし、何か考えごとをはじめていたフェルマンさんに尋ねた。

 両目を閉じていたが、右目だけをあけ、


「あるはずだ。精霊使いが増えて、建築速度もあがっているからな。宿ぐらいもうできているだろ」


「だってさ」


「そう。楽しみね。おいしい料理とかあるかな?」


「あるぞ! アグニスさんの店が超おすすめだ!」


 何しろ米だからな。ご飯ものをつくってもらわねば。

 いまどうなってるんだろ? 超楽しみだ。

 ……米で思い出したけど、魔王さんも食べたかったかもしれないな。あとで教えておくとするか。

 そんな会話をしながら、俺たちがのった荷馬車がブランギッシュ目指して進んでいた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ヒサオたちがブランギッシュに向かっていたころ、城を追われたラーグスはというと、北の国ウースへとはいっていた。


 強引につれてきた兵たちの姿はとうにない。

 なぜかというと、北国にはいったとたん、託宣が聞こえてきて、ラーグスの側から離れていったのだから。


「《託宣》なぞに耳を貸す愚かな兵たちなんていりません! 私には《神託》があるのだから! ええい、もっと早く走れ駄馬が!」


 自分が乗馬している茶褐色の馬を駄馬よばわりし、ムチをふるう。

 後ろに積む荷物の積載量を考えれば無茶な速度がすでにでているのだが、ラーグスはお構いない。

 そもそも、そのラーグスにも託宣は聞こえているのだが、彼は自分にとって都合がよさそうな部分のみを利用する癖がついていた。


「このまま突き進み、帝国にもぐりこんで、魔技動力(エンジン)を見せれば、私の価値がわかるはず。これを発展、量産しさえすればァ――――――ああ、神よ! 私の神よ! 見ておいでですか! あなたから頂いた知識の全ては、私の中で確実に成長しております! すばらしきかな、わが人生! 祝福されしは、わが人生のみ! 他のゴミクズどもなぞ、私が神の御側にいくための踏み台! さぁ、神の使いよ! 神託の僕よ! 私を迎え入れるのです!」


 誰に何をいっているのか、さっぱりな言動だが、ラーグスの前に現れるものはいなかった。


 帝国領土にはいってから、ただひたすら街道を走らせられている馬も、限界がきたのか速度がおちる。苛立ちを覚えたラーグスがムチを振るうも、速度はあがるどころか落ちていった。


「駄馬が! 駄馬が! 駄馬が!この私を乗せているのです! もっと迅速に的確に動くのが必定ではありませんか! なぜそんなことがァアアアア―――――!」


 叫んでいる途中で馬がよろめき、地面に落馬。受け身も取れずに落馬し肩を外した。


「イタァアア―――イ! だ、誰か! 早くなおしなしなさい! アアア―――――! は、はやくゥウウウ―――!」


 じたばたと体を回転させながら痛みを訴えるも側には誰もいない。

 道を通るものもいなく、馬から落ちた荷物は散らばりおち、馬もまた倒れこむように横になる。

 魔技動力(エンジン)と称した、緑の円筒状の鉄の塊も荷物袋から落ちるが、今のラーグスにとって構っていられるものではない。


 日中におきた自業自得の落馬事後。

 それを見る者は、この場には誰もいなく、ラーグスの叫び声もいつしか消えていった。


 痛みのあまり気を失ったころ、雨が降り出した。

 シトシトと降る雨が、すでに息絶えた馬から熱さえも奪っていく。


 散らばりおちた荷物が全てぬれてきたころ、パカパカパカパカと走ってくる馬の音がした。

 それも一頭ではない。少なくとも4頭分だろう。

 もちろん人が乗っている。

 それぞれガチャガチャと鎧の音をならし馬を走らせてくる。

 先頭を走っていた黒髪の男がラーグスをみつけると、手をあげた。


「いたぞ。こいつだ」


 そこにいるのが分っていたかのように、馬をとめ降りる。他の3人も同じく降りた。


「男は、俺がつれていく。荷物はまかせるぞ」


 雨のなかラーグスをみる黒い目。

 薄汚れた軽鎧をカチャカチャ鳴らしながらラーグスへと近づく。わりと小柄な体躯だが、やせ細った男一人ぐらいは軽々背負えるようだ。

 男は自分がのってきた馬に、ラーグスを寝かせ置くと、次に自分が馬にまたがった。

 一緒にやってきた一人が、魔技動力(エンジン)を拾うのをみて、


「トーマ、それが託宣にあったやつだろう。運ぶのはまかせるぞ」


 と馬上からはっきりとした声をかけた。


「はいリュッケ隊長。おい、お前らも荷物を拾え」


 いっしょにきた残る2人の男たちに、トーマと呼ばれた男が言う。

 地面に散らばり濡れた荷物がその場からなくなると一行は、自分たちの馬を走らせもどっていく。


 雨の中行われたラーグスと魔技動力(エンジン)の回収作業。

 それは確かに託宣によってもたらされた作業内容。


 魔王が言っていた、異世界知識によってもたらされた物が託宣に対し影響を及ぼすという仮説は外れのようだ。

 こうして、ラーグスと彼が所持していた魔技動力(エンジン)は帝国へと運ばれていくこととなる。

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