第117話 変調
魔王さんと話をしたその日の夜、コタへと連絡をいれ説明をすると、
『少し理解しづらいね。話が長くなりそうだし、そのことは後で、メールでくれない?』
「その手があったか!」
これで片がついた。
文明の利器って素晴らしい。
たぶん理解してくれるだろう。対処方法が思いつくかどうかは別として。
俺は今、白シャツと薄いズボンという姿で宿の一階にいる。いつもの場所だ。
イルマと宿泊していたときのクセで、だいたいコタやバァちゃんに連絡をいれるときは、一階の食堂付近をつかっている。
誰も来ないから、わりといいんだよね。
『ヒサ―――ケイコのことだけど……お願いだ。眠らせてほしい』
「分かってる。もし嫌だと言ったら気絶させて、あとは魔王さんに任せるさ」
『ひどいね!』
「そのほうが、あいつの為だろ? 心配するな。じゃあ、メール書くからこれできるぞ」
『うん。じゃあ、よろしく』
電話をきって、メールをポチポチっとな。これ文字うつの結構面倒だよな。スマホだと楽らいしけど、どういう感じなんだろ? まあ、いいや。
それから10分ほどかけ思いつく限りの言葉で文書をつくり送った。
さて、みんなも眠ったようだし俺も寝るとしよう。明日もどうなるかわからないしね。
そう思って、階段を登ろうとすると、上から降りてくる足音が聞こえてきた。
「ん?」
「あ、友達との話おわった?」
見上げたらミリアだった。
寝るところだったのか、薄いピンク色をしたパジャマ姿。肩に紺のガウンを羽織っている。
「終わったけど――もしかして、まってた?」
「……うん。ちょっと相談したいことあって」
うつむき加減に、俺に遠慮していそうな目を向けてくる。ミリアにしては珍しいな。電話のことは、ケイコかフェルマンさんにでも聞いたんだろ。
「じゃあ、下でいい? もう火は消えているから、寒いかもしれないけど」
「大丈夫よこのくらいなら」
ミリアが安堵した声で返事をしながら降りてきた。俺のわきを通りぬけ、食堂の方へと向かう。やっぱりいつもと様子がへんだな?
2人で食堂にある木製テーブル席につくと、
「今日さ……色々わかっちゃったね」
「ん? ああ、そうだな。それだけ、魔王さんがルインさんたちのこと気にしてくれたんだと思う」
前に2年A組のことを聞いたときは言いづらそうにしていた。それなのに今日は全ての繋がりを口にしていた。それだけ、信用してもらい眠りについてほしかったんだと思う。
ん? ミリアが俺の顔をジーとみているけどどうしたんだ?
「なに?」
「ううん。魔王さんっていうから」
「あぁ。それか」
普段みんなの前では魔王様だからな。
心の中では魔王って呼び捨てしていたけど、今日の話をきいたら、魔王さんってなっちまった。それがそのまま口からでちゃったか。
「内緒な?」
「ふふふ。わりとどうでもいいような気がするけど」
「まあ、そうだけど」
「ヒサオって会った時から、どうでもいいようなことを気にするよね」
「え? そう?」
何かあった? 首を傾げ考えていると、ミリアがテーブルの上に両肘をのせ、自分の顎を掌で支えた。
「だって、最初あったときなんか、私たちの鑑定するのも躊躇っていたじゃない」
「あぁ! ……よく覚えていたな」
「そりゃあ、へんな奴っておもったし」
「へ、変って…」
いや、あれは確か覗き行為のような背徳感があってだな………うん、十分変だな。
「それに、剣術おぼえれば? って何度もいったのに、結局、覚えたのって私達と別れたあとだったし」
「いや、あの時は覚悟がなくてさ……」
「なんの覚悟よ」
「……人を殺す覚悟?」
「いまならできるの?」
「……できればしたくない」
「変わってないんじゃない?」
どうだろ? と思う。
今はたぶん、できれば殺したくないっていう感じで殺している。手加減なんてできるような腕じゃないから。前だったら、思っている間に殺されていただろう……ちょっとした変化はあったんじゃないか?
「でも、それをどうでも良いっては思いたくないな。やっぱり殺すのは嫌だし」
「……普通はそうかもね。私の場合は、やらないと殺される日常がつづいていたし」
前いた世界のことか。どっちのことかわからないけど、聞く限りだと色々あったらしい。
ふぅ、と大きなため息をついて暗い顔をしている。あんまりこういう表情は、俺にはみせないんだが……ああ、もしかして、
「ミリア、ルインさんのことで相談なのか?」
「……うん。兄さん、眠ることに決めたって」
「え? もう!?」
軽く驚いたせいで、席からちょっと立ちあがってしまった。
「さっき教えてくれたわ。印をやっぱりつけられたらしいの。考察通りなら、いつ魔族化が始まるかわからないし、私達がいるから安心して眠れるってさ」
「そっか……」
俺の母さんとは違う判断をしたか。今の場合、それがいいのかもしれないな。
「俺達責任重大だな。帰りたがっているのは俺達だけじゃないんだから」
「うん……そうだね」
「……ミリア?」
元気がないな? ルインさんのこと以外でもまだ何か悩みを抱えているのか?
「どうした?」
「……ねぇヒサオの通話ってさ、異世界でも連絡とれるのよね?」
「え? ああ、これ?」
しまったばかりの携帯を空間から取り出して見せる。
「うん。それで元の世界の友達と話できるんでしょ?」
「そうだけど?」
「………それってその道具がないとだめなの?」
「? ん? どういう意味だ?」
首を傾げてミリアの返事をまつが、何かを言いたそうにしているのに、口を堅く閉ざしている様子が見て取れた。
「ミリアとだって、前に話しただろ? オッサンとも」
「そういうことじゃなくて……例えば、ヒサオの友達だって、その道具がないと連絡とれないんでしょ?」
「……ああ、そういうことか。うん。俺の友達もこの携帯電話持ってないと連絡はできないよ」
ようやく意味がわかった。けどそれがどうしたんだ?
「だよね。うん……」
「なんだよ? 何か問題あるのか?」
「……そういうわけじゃないんだけど………あ、そうだ。もしだけど、帰還が無事にできたとしたら、ヒサオはジグルドと話ができなくなるのよね?」
「……どうだろ?」
「方法があるの?」
「いや、オッサンは元々携帯もってないのに、念話みたいに話できるだろ?」
「そうね」
「あれってたぶんスキル効果だと思うんだけど、もし俺が帰還できて、スキルとかも扱える状態であるなら、同じく話ができるんじゃないか?」
「……つまり今と一緒ってこと?」
「だと思うぜ」
まあ、向こうに帰ってもスキルが使えたらの話だけど……その辺どうなるんだろう?
「そうね……そういうこともあるよね」
「……可能性の話だけど、それがどうしたんだ?」
「え?」
「まだ悩んでいるようにみえるからさ。何か俺の通話でしてほしいことでもあるのか?」
「………あ。ううん、そうじゃなくて――私、何考えてるんだろ」
「? ……なんかお前おかしいぞ? どうした?」
「なんでもない。ごめん。ちょっと変かも。もう、寝るね」
ガタリと席からたちあがると、パタパタと小走りで上へと戻っていく。
いったい何がどうしたんだ?
ケイコもそうだけど、女って何考えているのかさっぱリ分らない時があるな。
……俺もねるか。




