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第116話 考察結果

 魔王さんの用件を聞き終えた俺たちは、モーリスさんの宿へと向かった。

 レンガ建築で作られたモーリスさんの宿は、温かみが十分感じられる作りになっている。

 宿にはいると、ホっとするような熱が体をつつんでくれた。思った以上に外は肌寒かったらしい。


「旦那方、ひさしぶりですな。それにみない顔も…」


 この宿の店主モーリスさんだ。頭に一本角。口中から牙を出すオーガ。肌は岩のようにごつく見えるが筋肉……のはず。


「あー また数日泊まらせてもらっていいですか?」


「そりゃ構いませんが……なにかあったんですかい?」


「えぇ…まぁ――なんというかちょっと…」


 沈鬱な顔をしたフェルマンさん。

 悩んでいる様子の勇者3人組。

 そしてその関係者である俺達3人。


 魔王さんは勇者3人組に考える時間をくれた。

 眠りについてもらう。そのままの意味なのかもしれないが、帰還の目途がたつまで、勇者達は何もできなくなるらしい。それを考えれば躊躇だってする。


「数日かかるかもしれないので、部屋を貸してください」


「わかりやした。旦那は一人部屋で?」


「あ、いや。俺とオッサンと、フェルマンさんで3人部屋を。ミリアはお兄さんと一緒でいいよな?」


「ええ。そのほうがよさそう」


「ありがとう。ヒサオ君。でもお兄さんと言うのはちょっと…」


 素直に感謝の言葉を言われたが、微妙に誤解をまねいたようだ。


「じゃあ、ミリアとルインさん。カテナさんとケイコで部屋をとっていいかな?」


「3人部屋1つと2人部屋2つだね。はいよ」


 ジャラっと鍵を渡され、首をクイっと動かし2階を指示した。


「じゃあ、お世話になりますね」


 鍵をそれぞれに渡し上へと向かった。

 途中わかれ、俺達男組は3人部屋へと向かう。

 部屋へはいると、謁見用に着ていた服を脱ぎすて、いつもの私服へと着替える。着ていた服はポイっと保管術でできた空間へとしまった。あとで洗濯しなきゃあな。


「あ、この宿っていまユリナさんいないのか……」


 つぶやく俺に返事がかえってこない。今はそれどころではないのだろう。

 フェルマンさんは、魔王さんがいったことが頭の中でぐるぐる中。

 オッサンは、カテナやコリン達のことを考えているのだろう。


 少し夕飯まで時間がありそうだし、魔王さんから借りている例の書類をみてみるか。

 空間をあけ、借りてきた書類の束をとりだし、目を通すが……うーんこれは……


「話がごちゃごちゃしすぎている」


 これって、各世代の魔王が、各々勝手な推測で書いている。

 推測に推測を重ねたってこういうことか。

 まとめている文書がないかな……


 ………ボン


 頭がふっとんだ。

 これは駄目だ。俺の頭じゃ許容量超えている。

 まとめが得意そうな奴というと……コタか? でも、これ全部、説明するのキツイな。

 じゃあ、ケイコ? ファンタジー好きだし理解できそうだけど、あいつの場合説明が問題だな。

 ……ルインさん頭よさそうだよな? ちょっとみせてみるか? ミリアもいるし、ちょうどいいのかな? ついでにケイコも――いや、どうせだし。


「フェルマンさん、みんなで集まって、これについて考えてみませんか?」


「ん? それは、魔王様から借りたやつか……すまん。それも気になるが…」


「あぁ、はい。オッサンはどう?」


「ワシは遠慮する。難しそうだしの」


「そか……じゃあ、ちょっとミリアとかケイコに声かけてきます」


「ああ、何か判明したら教えてくれ」


「はい。じゃあ、またあとで」


 ガチャリと扉を開き部屋をでる。

 ケイコの部屋によってカテナさんにも声かけて、それからミリア達の部屋にいくとするか。

 今やらないといけないってわけじゃないだろうけど、気になって仕方がないんだよね。

 さてと……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 数十分後、俺とケイコは、ミリアとルインさんの部屋にきていた。

 カテナさんも誘ったけど、オッサンと同じようなことをいって断られた。

 ルインさんはまだ悩んでいるようだったけど、俺がだした書類の束に好奇心が向いたようで、悩むのを一時保留としたらしい。


 ミリア、俺、ルインさん、ケイコ。この4人で渡された書類について議論が始まった。

 石床の上にしかれた絨毯の上で俺達はそれぞれ別々の書類を読む。

 そのため書類の束が散らばり始めているが、整理はあとですればいい。破かないようにだけ注意する必要はあるが。


「ずいぶん、バラバラな考察ね……初代魔王と2代目魔王で全く違う結論をだしているわ」


「3代目魔王なんかもっとすごいぞ。別のことに例えて説明しているけど、それが全く頭にはいってこない。分かりやすく書こうとして、逆に分かりにくくなっている」


「この5代目魔王というのも凄いね。推論というより自慢話になっている」


「ふぁ~ なにこれ? ちょっと痛々しいよ」


 ルインさんの手にしている書類をみてケイコがいった。たぶん俺もみたやつだな。


「……ミリア、ちょっとこれ読んでみてくれ10代目のものらしい」


「ん? ン……これって、確か――あった」


 そういって別の書類を手にし俺にみせてくる。


「あ~ やっぱりか」


「なにどうしたの、ヒサ君?」


「何かわかったのか?」


「わかったというか、10代目と8代目の結論が一致している。でもこれの元ってたぶん……」


「ええ、初代と2代目の考察を部分的に取り入れているわね」


「え?」


「それはつまり……いや、見せてくれ」


 ルインさんがミリアに手をつきだした。説明されるより自分の目でみたかったのだろう。


「はい、どうぞ。ちゃんとまとめてくれた魔王もいたのね」


「生真面目だったんじゃないか? でも11代目の魔王が、台無しにしているな。話が明後日のほうに飛んでる」


「どんな?………え?」


 俺が読んでいた書類を横から顔だけつきだして目を通すと、いきなりミリアが笑い始めた。


「これは、駄目よ。考察というより、自己賛美だわ」


「うん。ちょっとないな。5代目の話を改良した感じだ」


「もしかして作家希望だったんじゃないかな? ラノベ設定みたいな感じだし?」


 ケイコ、俺達にしかわからない単語を使うな。ミリアも興味をもつな。


「これはなかったことにしよう。どれ12代目はと……」


「あ、これだよ。私が読んでる。ヒサ君もよむ?」


「ケイコが読んでいたか。じゃあいいよ。俺は13代目でも……」


「じゃあ、私は14代目のを探してみるわ」


 俺とミリアが、それぞれ別の代の考察書類をみてみたが、どちらも納得できない箇所がおおく顔を歪ませる。これはケイコが見ている12代目のものアテにならないかもな。


 10代目の書類をみていたルインさんが、


「うーん……生真面目に考えた魔王と、そうでない魔王とに大きく別れるね。これは性格がかなり影響していそうだ。ただ……不真面目というか、突拍子もない発想を書いている魔王の文書の中にも、考えさせられる部分がある」


「え? マジ?」


 言われてから、再度5代目の書類を目にしてみる。

 ………そうか? ルインさんには悪いが、どうもな~

 魔王の話だと、召喚された2年A組の人々は、悲痛な人生を送っているように思えた。

 で、あるにもかかわらず5代目魔王の考察はこうだ。


『俺達が強すぎたのが原因だ。この世界に魔族がいないのは、俺たちほどの強さをもつ連中がいなかったせい。そこに俺達がきて、魔族という配役に抜擢されたってことだろう。つまり選ばれてしまったというわけだ』


 なにそれブラックジョークですか? と思ってしまった。

 ちなみにこれが魔族化現象の理由として5代目魔王がかいたもの。

 そして託宣の発生理由についていえば、


『強すぎる俺達をこの世界が排除しようとしている。それがきっと託宣の発生原因だろう。強すぎるのも問題だぜ』


 あれだな。この人、けっこう深い部分に闇を抱えているな。

 2年A組っていうほどだし、きっと中学2年生のあつまりだったんだろ。

 なんだ。俺より1つ下で召喚されちゃったのか。しょうがないね、うん。


 まあ、強かったのは認めるよ。だってこの人達が来たことで、この世界の戦力バランスくずしたようだし。それを世界の意思的なものが嫌がって介入を始めた、っていう小説ネタならありそうだけど、それをそのまま考察にしないでほしいな。


 たぶんこれに影響されたのが11代目だろう。いまの話をコミカルバージョンにして考察していた。


 ここまで読んだ中で一番シックリくるのは10代目かな?

 でも10代目の話も矛盾点があって違うきがする。

 たぶん、歴代魔王たちの話をうまくまとめようとしたけど、完全にできなかったって感じじゃないだろうか?


「ヒサ君これちょっと読んでみて」


「ん? たしか12代目だっけ?」


「うん。何も聞かずによんでみてほしい」


「? ああ、分った…………」


 ケイコの様子が微妙にちがっていたので、じっくり読んでみる。

 ………うん。これは、なるほど。


「ミリア、それにルインさん。ちょっと悪いけど、これ読んでみてくれないかな?」


 俺が読み終わった考察書類を2人の前においた。


「…………………」


 まずはミリアが目を通している。読み終わるとそれを兄のルインさんに無言で手渡した。


「どう思った?」


「兄さんが読み終わってからでいい? ちょっと私の意見を耳にいれたくない」


「それもそうだな。待つよ」


 他人の意見に影響をうけそうな人にはみえないが、邪魔するのもなんだしな。


「……ふぅむ。なるほどね」


 ルインさんも読み終わったか。

 4人ともが読み終わり、4人ともが同様の反応だ。

 これは……たぶん、


「俺は、これだと思う」


「あ、ヒサ君ずるい! 私がみつけたんだよ!」


「そこ拘らなくてもいいと思うけど、私もこれね」


「僕もだ。読んだ全部の中では、一番納得できたよ」


 やっぱり全員一致か。


 俺達が正解だと判断した第12代魔王の考察結果。

 ――――それはこうしたものだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 魔族化現象の原因


 勇者召喚術式が終わると、僕たちには目にみえない魔力印がつけられた。

 あれを2代目魔王が調べたところ、僕たちの世界の場所を指し示すものらしい。

 高密度の情報が魔力で刻まれた。と言えば、分かりやすいかな?

 だけど、時間がたつと変異するらしく、圧縮された情報と使われた魔力が崩壊をはじめ、僕たちを魔族へと変貌させてしまう。

 4代目魔王が、僕たちの体を調べあげたことが、原因追及の糸口となった。

 印をつけられてからでは遅いらしく、つけられるのを防ぐしかないだろう。

 自然にこちらにやってくる異世界人たちが魔族化しないのは、きっとこれが理由に違いない。



 託宣発生理由


 初期の勇者召喚によって28名もの勇者が召喚されたのが原因だと結論づけた。

 召喚はそもそも世界同士をつなぐ魔法。

 一度に大量の人間が召喚されたことによって僕達の元の世界と、この世界が太い糸のようなものでつながってしまった。

 それだけならまだしも、おそらく、世界と世界が近づきつつある。

 これは空間魔法が得意だった6代目魔王の理論が元になっている。

 亜人や魔族がいない僕たちの世界が近づきづつあるため、こちらの世界そのものが影響を受けた。

 牽引されているようなイメージといえばわかるだろうか?

 同じ歴史をたどろうとしていて、それが託宣という形で表れているのかもしれない。

 亜人が長くすむと封印されるのは、亜人達の存在そのものが、僕たちの世界を拒絶しているからと思うが、確証をつかむ手段が現在はない。

 いずれにしろ放置すれば、この世界は、僕たちのような世界になる可能性があると思われる。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 おれも完全に理解しているわけではないし、謎理論を展開している部分もあるが、俺達はこれが当たりだと感じた。


 だけどこれが原因だとしたら、取り除く手段がないんじゃないだろうか?

 印のほうは一度つけられたら駄目なのであれば、つけさせない方針にするしかない。

 ――いや勇者召喚の術式を抹消できるのであれば、それにこしたことはないのか。


 託宣のほうは、文字通り手も足もでない。

 世界同士が近づいていることが問題なのであれば、突き放すしかない。

 しかし、そんなことを誰ができるというのだ? それこそ神の領域だ。


 ケイコにコタに話してほしいと言われたが、コタも反応に困るだろうな…

 それ以前に俺が上手く説明できるか、それも疑問だ。


 なんとか上手く説明するか……

 しかし魔族化現象か……コタのやつケイコのことで取り乱さなければいいけど。

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