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第112話 ルインとミリア

 ルイン=リムダート。

 ミリア=エイド=ドーナ。


 家名が違いながらも、互いに兄妹だというミリアとルインは、再会できた喜びを顔に示しながら、蜂蜜酒をたしなんでいた。


「甘くて飲みやすいわ」


「これがあるとは思わなかったよ。今年の祭りには参加できそうにないし、助かったかな?」


「兄さん、相変わらず蜂蜜酒が好きなのね」


「そりゃあね。小さなころからドワーフの方々がきたら、まずこれを探したものだ」


「フフ。ほんと変わらないで安心したわ」


「それはこちらのセリフさ。まさか、また異世界にきていたとは驚いたよ。召喚されてこの世界に?」


 そういえばそのことを説明していないと、ミリアが話をした。

 ルインという男は長い金髪に碧眼。顔立ちは甘く女を虜にするのに十分な魅力を持っている。

 対するミリアも可愛らしさという点でいえば、十分すぎる魅力をもつだろう。ただ、2度の異世界生活を経験しているせいか、若干性格に(なん)がみられるが。


「そんなことに。じゃあ、この世界は3度目の異世界ということか」


「うん。私もどうしてこうなのか分からないわ」


「ハハハハ。でも2度の異世界は勇者召喚なのだろ? その理由はわかるんじゃないかな?」


「そうね。《世界樹の巫女》に選ばれた瞬間だったし。あれはあんまりよ」


「まったくだ。ミリアが僕たち家族から離され、世界樹に選ばれたときは、ああやっぱりとは思ったさ。でも、他世界に勇者として選ばれるとは思いもしなかったな」


 妹であるミリアで遊ぶかのように肩をすくめ笑みをみせるが、そのミリアの顔に影がおちた。


「……ねぇ兄さん。世界樹は大丈夫?」


「自分がいなくなって心配かい? 大丈夫さ。一度目の異世界召喚で、長老様たちも対策を立てた。ミリアの代わりの仮初の巫女を選出した。それにその杖……」


「これ?」


 ミリアが取り戻したばかりの杖を見せると、コクリとルインが頷く。


「その杖はどこの世界にいっても元の世界樹とつながっている。親木に何かあれば、その杖にも影響はでる」


「そうだったの。よかった」


 自分が手にした杖をホッと息をはく。教えたルインは、蜂蜜酒のはいったコップを空にした。


「……呪いか……まだ影響しているのかい?」


「ごめん兄さん。私、2度目の世界でまたつかっちゃったの」


「また使ったのか……まったく仕方のない……だけど、それじゃあ、帰還できたとしても世界樹の巫女としての役目を全うできないんじゃないか?」


「だと思う。むしろ、その仮初の巫女と変わるべきじゃない? 私がいない間も役目を担ってくれる巫女がいるなら、その人のほうが十分資格があるわよ」


「ミリアがそれでいいなら問題ないが……まあ、それはいいとして帰還手段のほうは考えているのかい?」


「……ええ、まあ。ヒサオのおかげで、結構すすんだわ」


 名前がでて、ヒサオが騒いでる方をみる。獣人やダークエルフに絡まれているが、ごくごく自然に一緒にいるように見えた。


「あの人間の少年が? たしかケイコと同じ世界の住人だとか……ミリア、君は気付いているのか?」


「魔力のこと?」


「そうだ。あれは異常だぞ」


「知ってるわ。呪いのせいで最初のころは、わからなかったけど」


「そうか……分かったのはいつだい?」


「分かったというより、気付いたのは、最初に立ち寄った村でヒサオが倒れた時だったわ。魔力感知はできなかったけど、彼が使っている通訳スキルルって異常すぎて、これはって思ったの」


「止め方を教えなかったのか?」


「当人が魔力を認識できていない以上、どうやって教えたらいいの? もし魔法を覚えたら、危険なことが起こりそうな気がしたから、それだけは止めておいたけど……」


「……そうだね。ちょっとどころじゃない騒動がおきそうだ」


「最初に会った時は頼りなさそうな子供だったのよ?」


「ほう。そうは見えないがな?」


「守ってあげないとすぐ死にそうで……でも何か変なやつで、それが段々と普通になってきて、気付いたら色々な人たちの間にたっていて、力なんてないのに皆から何か期待されているような感じで……」


「――ミリア?」


 急にミリアの視線が空をみるようになり、思いつくかぎりのことを口にし始めた。


「一緒にいて疲れないし、ヘタレな面もあるんだけどいくら怒ってもすぐ立ち直るし、この間なんか獣人と仲直りしたくて素手で喧嘩したり馬鹿なことをするし、それなのにここぞって時には凄い打開策を出したり……とにかく面白い人よ」


「………」


 言い切ったミリアの頬は高揚し朱にそまっていた。それは、まるで―――

 兄であるルインは、ふと思った。


(もしかしてミリアは気付いていない?)


 兄としてこれはどうしたらいいのだろうか? と少し考えてしまう。 


「どうかした?」


「あ、いや……そ、そうだ。ミリア。帰還手段の目途ってどの程度ついたんだい?」


「……うーん。そうね。魔法の構築式はできているわ」


「手段は魔法か。だけどやらないということは問題が?」


「ええ。帰還する場所の時空座標。それを探りあてるための手段。魔法の発動に耐えられる魔法陣。これは墨づくりの問題ね。そして魔法を発動させるための莫大な魔力。研究をしていたメグミという人――ヒサオの母親らしいんだけど、これらの問題を書き記していたわ」


 聞いたルインが軽く口笛を鳴らした。


「凄いね。魔法を発動するための構築式もその人が?」


「みたい。天才だと思う」


「……あの少年の母親っていった?」


「そうよ」


「もちろん人間だよね?」


「それはそうよ」


「……人間がわずかな寿命の間でそれだけの研究を? なるほど、天才だ」


「でしょ? 私も手記をみせてもらった時は驚いたわ。私一人で研究していたらと思うと、ゾっとしたもの」


「……ミリア、もしその研究を一人で引き継ぐのであれば」


 ルインが言おうとしたその先をミリアが手で止める。


「それはないわ。私もそう考えていたけど、それじゃダメなのが大分前にわかった。今回の戦争に私が参加したのはそれもあるのよ。もちろん兄さんのことが一番の理由だけど」


「僕達の救出以外に参加した理由って?」


「今回おきた戦争は帰還研究に関係してくるの。その切っ掛けをつくったのは、イルマっていう獣人だけど、それを今に繋いた中心人物は、たぶんヒサオよ」


 言うミリアの表情に、兄であるはずのルインがドキリとした。

 我が妹は、こんなにも愛らしい笑みを見せるのかと。

 その妹が喜々とした声音で、ヒサオの活躍を話始める。

 ルインは、相槌をうちながら、湧き出る悩みに苦しみだした。


 その話を聞いていたのは何もルインだけではなかった。


 そこにはエルフ兄妹がいる。

 美形の兄。そして可愛らしい妹。


 その2人が談話をしているのであれば、どうしても見たい! という少女が1人。

 いや見るだけでは済まない。

 まだ写真は撮れる携帯で、1枚ぐらいは写しておきたいと、少し離れた場所にいる獣人たちに紛れチャンスをうかがっていた。

 そして聞いてしまった。聞き耳を立てていたのが幸い(?)したのだろう。


(ミリアさん……そうヒサ君のことが…)


 年頃の少女は敏感にミリアの心情を察する。

 知った少女がとった行動といえば、


(ニヒヒヒ。これは特ダネよ! あとでヒサ君に携帯かりてコタ君に教えておかないと! ああ、もう、なんで私も通話スキルつかえないかな~。電話してもらってから借りないと話せないとか、不便すぎる!)


 どうやら、時折連絡をとっているようで、ミリアもまたネタにされそうである。

 ヒサオは少し友人を選ぶべきだったのかもしれない――

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