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第110話 仮初の停戦

 ジェイドによって用意された部屋は、城の中で使われている会議場だった。

 食事でもするかのような長いテーブルが1つあり、そこに俺とジェイド向かいあって座る。無茶苦茶ガラあきの椅子があって、なぜこんな場所をと言いたくなる。

 他の方々は、離れて見学。

 途中で邪魔がはいらないようにするためだ。


 さて、そんな場所で交渉を始めるわけだが、まずジェイドが立ち上がった。


「まずは名乗りを。俺はこの国の第一王子にして、王代理となっているジェイド=ロックウェル。現王は病に臥せっているので、申し訳ないが俺が全権代理人として承諾してほしい」


 聞き俺も立ち上がる。こちらも名乗る必要がありそうだし。


「改めて。名はヒナガ=ヒサオ。異世界人です。現魔王サルガタナス様の命により外交大使の任についております。代理として交渉の席につくことを承諾します」


「ありがたい。感謝する」


 2人同時に軽く頭をさげ、席へと座る。

 まさかこういう堅苦しいことをすることになるとはな~ 見様見真似でやるしかないか。


「今回の交渉内容ですが、そちらの降伏を受託し、それを魔王様に報告。その後の交渉をするまでの一時的な停戦保障ということでよろしいですか?」


「そうなるのか。ということは、この交渉は魔王と条約を結ぶまでの一時的なものとして判断してよいのだな?」


「はい。それでよろしければ、開始しますが、いいですか?」


「分かった了承しよう」


「では。一時停戦交渉に関する取引を求めます」


 俺が取引という言葉をつかうと同時に、ジェイドの体が黄色く光出し、彼の目から力強さが消えていった。


「人間側が求めるのは、一時停戦ということでよろしいですか?」


「そうだ」


「では、魔王様との休戦交渉まで、武力行使禁止を要求します」


 淡々と考えていたことを伝えると、ジェイドの顔が曇る。


「……それは、魔族に対してのみか?」


「? 意味がわかりません」


 なんだ? もしかして魔族=亜人という認識ではないのか?


「ほとんど行われないが、我ら人間同士が託宣による戦争を行うことがある。現在、我が国に託宣は下りないが、他の国では違うだろう」


「……人間同士での戦争であれば、構いません。ですが、魔族、亜人、獣人などに対して、いっさいの武力行使は禁じます。これでいいですか?」


「……いや、駄目だ」


 まだか! 黄色いままだしな。他に何かあったか?


「理由は?」


「もし魔族側からの攻勢があった場合、こちらは無防備で侵略を受けることになる」


「……それは無いと思いますが、もし魔族側からいわれのない攻撃を受けた場合は反撃の許可を与えます」


「ならばいい」


 面倒だな。そんな細かいところまで取り決めないと駄目なのか。

 まあ、これで良いかな? でも黄色いままだな……まだ何かあるのか? とりあえず決まったことだけ口でいっておくか。


「では、確認します。人間側による降伏を受託するかわりに、魔王様との交渉が行われるまで、一定条件下での武力行使の禁止。条件内容は、人間同士の抗争。魔族側からの理由なき攻撃。この内容であれば武力行使を許可する。これで良いでしょうか?」


「……もしだが……もし、逃亡したラーグスが戦力を保有しそちらを襲った場合は、どうなる? 我が国の武力行使としてみなすのか?」


「え?」


 このケースは考えていなかったけど、それは違うんじゃ? ……って、アルツ兵たちのざわめきが酷くなってきた。なんだ?


「おい、今王子…」

「ああ、逃亡っていったよな?」

「どういうことだ? 王子も知らないんじゃなかったのか?」

「逃亡ってなんだよ? 理由があるのか?」

「行方不明だから捜索中だってきいたのに」

「話がちがってないか?」

「魔族側の術のせいか?」

「ありえる。ジェイド王子だって最初に、避けていたし」

「あいつのせいか!」


 これはちょっとヤバイな。

 ざわめきが連鎖反応おこして騒ぎになってきた。

 始める前にフェルマンさんに歯止め役を頼んでおいたけど……思っていたら、フェルマンさんが動き出した。


「始める前に邪魔になるような行為は、慎むよういったはずだが?」


 ジロリと一瞥し釘をさした。

 でも一時的な効果かもしれない。今のうちに話を進めたほうがいいな。


「いまのお話しですが、ラーグスが逃亡したのであれば、この国の人間として扱う気がありません」


「それは我が国で考案された武器を使ったとしてもか?」


「……質問に質問でかえすようですが、心辺りがある?」


「ある。あいつは新たな魔道具の考案をしていた。それが無くなっているらしい。もし持って逃げたのであれば、それを取引材料として北の帝国に取り入る可能性がある」


「それは、どんなものです?」


「悪いが、俺も詳しくはしらない」


 うーん……ここで情報を得たいんだけど、こうなると駄目か。

 あとで別取引もちかけて、情報取得でもいいけど、これはスキルつかわなくても大丈夫かもしれないな。

 アルツ兵が騒ぎだすまえに、話を進めるか。


「わかりました。この国の意思が働いていないのであれば取引破棄として扱いませんのでご安心を」


「わかった。こちらからは以上だ」


 お? ようやく青に変わったか。


「では以上の内容をもって取引交渉を終了とさせていただきます」


 俺が言い終わるとジェイドの目に光が戻る。

 それと同時に頭を軽くまわし、俺に対しニヤけた顔をむけてきた。


「なるほど。これはきつい。ラーグスのやつにもこれを?」


「取引が終了する前に中断になりましたけど、それまでは一緒のはずです」


「……なるほど。中断する事で凶器にもなり得るのか……危険なスキルだな」


「……」


 聞こえたけど無視。

 ジェイドの言った通り、俺の知識が一瞬で流れたため、おかしくなったんだと思う。そういう意味でいえば、確かに凶器にもなりえるスキルだ。だけど、それを肯定してやる必要もない。

 それより、さっきの話がきになるな……


「先ほどの取引中、ラーグスが考案していた魔道具のことなのですが……」


「それならさっきもいったはずだが?」


「少しでもいいので、何か思い出せませんか?」


「とは言われてもな……たしか、乗って動かす代物に使うものだとしか聞いていない」


「……え?」


 ちょっとまて。嫌な予感しかしないぞ。

 乗って動かす? それって装甲車とか戦車じゃないだろうな? さすがにジェット機とかヘリは無理だろう? 無理っていってくれ。


「どうした。顔が青ざめているぞ」


「……いや、そうだ。持って逃げたんですよね? だとしたらそれほど大きくはない?」


「うん? ああ、乗って動かすとはいっていたが、その動力のみの段階らしい。試作品らしいぞ」


「動力……名前とかついてます?」


「たしか、魔技動力(エンジン)とかいっていたが、なんなのだ?」


 ……なに? ……嘘だろ? エンジンってそんなに簡単に真似できるのか?

 俺の知識を流用しただけで作りだせるわけないと思うんだが……

 前に叔父さんのバイクで教えてもらった気がするが、どういう感じだっけ?


 えーと……シリンダ内で爆発を発生させてピストン運動を――できるか?

 魔法で爆発させれば…あとは空気鉄砲みたいに?


 いやいや、そんなものじゃないだろう。人力でやれることではないはずだ。

 銃のような単発ならわかるが、エンジンの稼働ともなれば、つねに爆発魔法を使う必要があるんじゃないのか? それを人間が調整しながら動かすとか無理だろ。


 北の帝国か……名前なんだっけ? 前にフェルマンさんの授業で聞いたきがするが覚えてないや。

 しかしラーグスのやつ、どこまでも迷惑なやつだな。


「何か知っているのか?」


「少しは」


「少しという程度ではない顔をしているが、聞かせてもらっても?」


「申し訳ないが、駄目です」


 はっきり断らせてもらう。これ以上の情報流出は怖い。

 魔王の言う通り、人間は有るってわかると作り出さずにはいられないのかもしれない。できるんじゃないか? と考えただけで、チャレンジするのが人間だしな。


「それに、ジェイド王子。あなたそれどころではないと思いますよ」


「ん?……なるほど」


 交渉が終わった俺たちを外野の視線が貫いている。

 特にアルツ兵たちの視線が、ジェイドに集中。

 さっきの声の反応だと、ラーグスは必用とされていたようだし、それの情報偽造ともなれば、こうもなるか。

 まあ、ご愁傷さまってことで、こっちはこっちでフェルマンさん達と相談するか。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 会議室からでるときにフェルマンさん達とこれからの相談をしていると、ミリアがやってきた。


「話中のところ悪いんだけど、杖探しの許可をもらってもいいかしら?」


 俺とフェルマンさんを見て言う。そういや言っていたな。


「杖というのは、最初にあった時に持っていたやつか」


「ええ。覚えていてくれた?」


「ああ。奇妙な気配だったから覚えていた。ああいう気配を俺はしらない」


 へー フェルマンさんも何かしら感じていたのか。オッサンも凄いとはい言っていたけど、俺は全く何も感じなかったな。


「俺は構わないが、ジェイド王子にも一言いっておいてくれ。勝手に動かれたら、むこうもいい顔はしないだろう。それに、もしかすると保管してある可能性もある」


「そうですね。ミリアいこう 」


「ええ。じゃ、ちょっといってきます」


「……なぜヒサオまで? まぁいいが」


 何か後ろのほうで言っているのが聞こえてきたが、聞き流すことにした。


 このことを俺とミリアでジェイドに話すと、どうやら保管してあったらしい。

 フェルマンさんの言う通りだった。

 元々はミリアのだということを伝えると、返却が了承されミリアの手元に無事かえってきた。


「本物ね。助かったわ」


「……」


 ぶんぶん振り回される枯枝でつくったような杖。なぜあんなに硬いのかまったくわからない。両手でつかんで、ベキって折れそうなのにな。


「なによ?」


「いや、半年ぐらい前には、それでよく叩かれたな~と」


「なに? また叩かれたいの?」


「いやです」


 俺はそれが物理攻撃可能な武器だという事実を知らしめようとしたかっただけだ。


「お前たち用件がすんだのなら、アグロに帰るぞ。早くカリス老と魔王様に報告して、休戦交渉の席を設けねば」


「はい」


「これで戦争は終りね。ようやく合同研究が始まるのかしら?」


「それはどうだろ? ラーグスが何かしでかしそうだし」


 不安を覚えながら城をでると、上空高くから1羽のワシが俺に向かっておりてきた。


『ヘイ、ブラザー』


「は?」


 今の声って……トバリ? ブラザーっておまえ……

 バサバサと飛びながらおれにつっこんでくるから、慌てて腕をつきだすと、しっかりと止まりやがった。ちょっと腕がいたいんですけど、あまり爪をたてないでもらえませんか?


『よ、久しぶり』


「「「「「ワシが喋った!!!!!」」」」」


 驚く声が響く。やっぱりみんなにも聞こえるのか。


「ああ、久しぶり。どうしたんだ?」


『ボスから伝言だ。通信筒にもはいっているからそれとってくれ』


「ああ、うん」


 ボスってことは魔王からか。どれどれ。

 えーと……


(……召喚された勇者たちを無事保護できたら、エーラムにつれてこい…か)


 これどういうことだろ?

 面会したいってことか?


「トバリ、これどういうこと?」


『俺も詳しくはしらないんだぜ、何しろ鳥頭だからな』


「今度兎肉おごるよ」


『勇者達の為らしい。このままほっとくと、召喚された勇者たちは大変なことになるらしいってさ。あと肉は焼くなよ? 生がいいからな』


「大変って、どういうこと?」


『それは本当に俺も知らないんだ。兎肉の追加されても無理』


「わかったよ」


 魔王がトバリまで使って俺に知らせてくるってことは急ぎなんだろう。何があるか分からないけど、救出した勇者3人をつれてエーラムに戻るとするか……ラーグスの件も報告しないとな。

 あいつに時間を与えたくないんだが……クソ、色々面倒が起きて手が回らないぞ。

 まずは、魔王と相談することにしよう。


「ヒサオ、あとでいいから、ワシと会話している理由を教えてね」


 ……それもあったか。皆で興味深々な顔してんじゃねぇよ!

ヒサオ:帝国とかあったな。忘れてた。

フェルマン:北のウースはロナン帝国。南のオズルは、リューガス公国が治める形になっている。

ヒサオ:せ、先生!

フェルマン:ウースもオズルもイガリア同様、彼等人間達の国と言われているが、南北ともに、亜人やエルフ達も住んでいる。だから国という言葉はいささか違うのかもしれないが、便宜上そうよばれている面が強い。

ヒサオ:なるほど!

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