第108話 救出そして開戦
ケイコの導きで2人の勇者が閉じ込められていた牢の前にたどりつく。
そこは以前ジグルドが捕まっていた場所らしく、勇者の2人も同様に閉じ込められていた。
牢屋の看守は見当たらないのはチャンスなのだが鍵もない。
これは困ったと、ケイコの側にミリアが近づく。
「ケイコ、近くに誰かいない?」
「いないよ~ 地下にいるの、あの2人だけなんですけど、これどうなってるの? こっちの世界ってこんなに手薄なの?」
2人とも小声で話をしているのだが、だんだんと声が大きくなってきた。
「違うはずよ。少なくとも私とヒサオが捕まった場所では看守がつねにいたし」
思い出すのも恥ずかしいことがあったが、それは記憶からすでに消されている。
「鍵をあければいいんじゃな? ケイコ近くに誰もおらんのは確かだな?」
「うん。なんだか、上の方に集まってるっぽい」
「? 何かあったか? いや、それは好都合だ。どれ」
「鉄の……棒?」
「まかせろ」
タタタタと歩き、格子扉の鍵穴に棒をいれる。
すると、棒がぐにゃりと中で変化し鍵の形となった。
一旦取り出しジーとまつ。冷やそうとしているようだ。
その物音に、牢の中にいた2人が反応するが何もみえない為、互いに不思議そうな表情を見せあった。
「聞こえた?」
「もちろん。だけど何の音だろう?」
ルインとカテナが話しだす。声をきいたいジグルドが、
「カテナ。ワシじゃ。少しまて」
「ジグルド!?」
「え? どういうこと? 幻影魔法? 君の探し人は魔法使いなの?」
「違う。鍛冶職人――のはず」
再度カチャカチャと音がし、さらに足音が数人分。何が起きているのか、ますます分からなくなってきた。
「ちょっとジグルド。いきなり始めないでよ」
「そうですよ。驚いたじゃないですか」
今度はミリアとケイコの声。それにルインとカテナが驚いた声をだした。
「ミリア!」
「ケイコ!」
「「シ―――――!」」
周囲に人がいないのはわかっているが、それでも場所が場所。あまり大声を上げる場所ではないだろう。
カチャっという音を最後に格子扉がキーと開く。
「よし。上手くいった」
「ありがとう!」
ジグルドに感謝の言葉をいい、ミリアが中へとはいる。
「兄さん……みえないだろうけど、声でわかるよね?」
「ああ――ミリアだろ? しかしこれはいったい?」
「今はあまり話してられないの。早く脱出しないと」
2人がわずかな言葉をかす。その間、ミリアは兄ルインの手と足につけられた枷をみていた。
「ジグルド、この枷も外せない?」
「やってみる。カテナ、少しまて」
「わかった。待つ」
「いや、彼女からでいいよ」
「紳士面しなくていいの。黙って待ってて」
「……ミリアは相変わらずのようだね」
その間もジグルドがカチャカチャと枷を外していった。
「よし。あとはまかせる」
「ありがとう、ジグルド」
ミリアの声に反応しないまま、カテナの枷外しにかかった。
「立てる?」
「なんとか。だけど、ここ数日ほとんど食事ができていないせいで力がでない。それにミリアの姿がみえないのは少し残念だ」
「まったく、兄さんも変わらないじゃない。イルマ、この2人にもできる?」
「余裕だ」
牢の入口で待機していたイルマが返事をし、まずはルインの肩を叩く。
すると、ルインのにも4人の姿がみえてきた。
「……これは精霊? この世界の精霊か」
「兄さんわかるの?」
「そうかミリアは……」
ん? と何かをいいたそうにしていたが、ミリアの姿をみたルインが言葉をとめた。
「ミリア、杖はどうした?」
「……いまはないわ」
急に2人の雰囲気がかわる。杖というのは、以前ミリアがもっていたやつのことだろう。
「まさか無くしたのか!?」
「ここのやつらに奪われたのよ」
「なんてことだ!――いや、今は逃げるのが先決か」
そんな2人のやりとりの間に、
「よし、外れた。カテナいけるか?」
「大丈夫。問題ない」
立ち上がるカテナにイルマがポンと手を置き、彼女も全員の顔を見渡した。
「獣人? すごい。それにケイコありがとう」
「むしろこっちのセリフだよ。2人ともあの時は1人で逃げてごめんね」
目を潤ませ、今にも泣き出しそうなケイコだが、彼女の頭にポンと手が乗る。
「今は話をしている場合じゃねぇ。さっさとしないと、外の連中がしびれきらして、攻撃をはじめるぞ」
「そうだったわ。急ぎましょう」
総勢6名となった集団が脱出を始めた。
イルマ達は知らないが、ラーグスの件で、この日アルツは騒然としていた。
きっかけは、ヒサオの通話。
ラーグスの事を聞かされた兵士の2人が、行方を捜し始める。
城にいないことが発覚し、その話が拡散。
現時点での依存対象となっているラーグスがいなくなり、アルツは騒然。
ラーグスの行方や、自分は何をしたらいいのかを求め、民衆がジェイドに群がった。
ケイコが言う皆が集まっている場所というのはジェイドに会うための待機場所だった。
ジェイドに会おうとする民は夜となってもほとんど数を減らさずにいる。
その中に城で働く者たちもいたというわけだ。
エラク死亡からの負の連鎖が、ルインとカテナの救出作戦を容易くしてしまった。
これが、あと2、3日以後であれば、また結果は異なっただろう。
どこまでも不運がつきまとうジェイドである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「脱出してきました」
6人の脱出を確認したヒサオが口を開くと、
「よし。救出した2名を保護したのち特殊部隊と合流。そのまま街の中へと攻めこめ! 住民に対する過剰な攻撃は禁止だ。一気におとすぞ!」
「「「「「「「「おぉおおお――――――!」」」」」」」
号令を待ち構えていた獣人、魔族たちが、各々の武器をふりあげ声をはりあげる。
夜半にあがった声を聞いた住民はほんの一握り。彼らがその声がなんであるのか知ったのは、少しあとになった。
「ヒサオ、お前はどうする?」
「俺も参加しますよ。そのために訓練つづけてますし」
「ほう? だが、武器はどうする?」
「ちゃんとあります、オッサン印のこれが」
スーと開いた空間に手をつっこみ、ミスリルソードを取り出す。
「なんだお前もつくってもらっていたのか」
「ええ、まあ(あまったやつらしいけど)」
2人が馬上で笑みを見せあうが、互いの意味が違うことにフェルマンは気付かない。
丘からアルツの城下街へと流れ込む一団。
先制布告もなければ、日中でもない。礼儀やマナーのない奇襲攻撃だ。
街の門を守っていた兵もいるにはいたが、一団を目撃するまえに絶命。
闇夜にかくれ動く獣人たちの動きを、彼らは身をもってしることになる。
一団へと合流した脱出してきた6名のうち、3名は保護され陣地へと戻る。
ケイコ、ルイン、カテナだ。
ジグルド、ミリア、イルマは、そのまま流れにのり再度街へと向かった。
目指すは、勇者召喚なんて真似をしでかした責任者。つまりはジェイド。
知らぬは敵ばかりだ。
「民間人はほっとけ! 城へなだれこむぞ!」
中へとはいったイルマが号令をかける。
遅れ、フェルマンとヒサオ達もはいった。
「城まで一気にいけますかね?」
「いけるだろう。だが後ろから兵たちに攻められても面白くない。俺たちはイルマたちの後ろを守るぞ」
「分かりました」
話をおえると、フェルマンが馬を走らせる。
続くヒサオの後に、ダークエルフの精霊部隊が続いた。
すでに獣人部隊が城へと攻めいっていた。しかし、門前で苦戦をしている様子が見える。
門前にいた騎士隊とその背後にいる魔法部隊によって、邪魔をされているようだ。
「押し戻せ!」
「魔法部隊、味方にあてるなよ!」
「形なせ風の刃《風刃》」
「その身は固く強固なもの《全体防御増幅》」
「やられてたまるか!」
前衛と後衛にわかれたそれぞれの部隊からの攻撃。
珍しく判断できる指揮管がいるようで、タイミングをあわせ攻撃してくる。
この指揮管はジェイドが自分の部下として採用した兵の一人である。
「てめぇら俺に続け!! 『火よ! わが身を使え!』」
「おお!」
「イルマ様だ!」
「続け!」
眼前にでるなり精霊憑依を行いイルマが突撃。騎士隊が挑むが一蹴。
判断があるがなかろうが、そもそもの地力が違った。
その上、火の精霊憑依状態は腕力強化効果と拳に炎属性が付与される。ジグルドの《炎熱操作》に似た効果をもち、殴った場所を燃やすこともできた。
「あの獣人を狙え!」
「天より降りそそげ水の裁き――《水矢》」
魔法使いの一人が指示に従い、すぐさま放つ。続く術者たちも同系統の魔法で援護するが、
「させない! 『水よ! わが身を使え!』」
イルマを庇う形でテラーが横からでてくる。
水精霊を憑依したテラーの前で、魔法が霧散。さらにそのテラーの頭上を越え、数本の矢がふってくる。
「うッ!」
「ぐはッ!」
魔法使いに命中し倒れた。
「ああ? エイブンか。いいところもっていきやがって!」
セリフとは違い、イルマの顔には笑みがでている。
2人の魔法使いが倒れた穴へと突き進み、隣の術者を一発で吹き飛ばす。さらにつづいて2発のケリ。
続くはテラーと部下の獣人。さらに奥からとんでくる矢。
数人の犠牲をだしながらも、城の中へ続く道は確保できた。
獣人達が入っていくと、その後にフェルマン達がやってくる。
「みんなはいったな。よし我らも中にはいり、封鎖するぞ」
「「「ハッ!」」」
フェルマン配下のダークエルフ部隊が城の入口に陣取った。
彼らなりに獣人たちへの配慮なのだろう。
奴隷として扱われていた鬱憤を少しでも晴らさせるために。
こうして戦いは、城内部へとうつっていった。




