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第99話 砦攻め

 戦争の準備は整った。


 イルマは前日にセグル経由でブランギッシュへと戻った。

 作戦をつたえ指示を行うためだ。


 ミリアは砦攻め前にテラーと合流予定で、オッサンは前衛として立つらしい。

 俺が知らない間に、オッサンは突撃兵にでもなったかのようだ。

 コリンはといえば、ヒガンをつれエーラムへと一時退避する。

 これはコリンだけではなく、街の住民すべてだ。

 なにしろアルツを攻め落とすまで、俺たちは帰ってこない予定なのだから。


 ――――そして、砦攻めがはじまった――――


「託宣が聞こえた! みんな降伏するんだ!」


 それまで閉じられた門前にいた男が、何をおもったのか大声で叫んだ。

 歓喜にみちた声と顔。まるで救いの手を自分が握ったかのようである。


「なに言ってんだだあいつは、こんな状況で」

「知るか! 今更託宣が聞こえたからって、この状況を変えれるわけがないだろ!」

「くそ! なんでこんな事に。こんな託宣なかったぞ!」

「いや、まて。そうか、分かったぞ! 俺達に降伏させたいから、今まで託宣がなかったのか! よし降伏しよう!」

「なに言ってんだよ! 意味わかんねぇよ!」

「託宣が聞こえたって本当か? なら、従わないと……」

「つべこべいわずに門を押さえろよ! 壊されるぞ!」

「だから、託宣が聞こえたんだから、もう守る必要ないんだって、そこどけよ!」


 必死に門を押さえようとする者達と、託宣に従おうとする者。

 意見をたがえた両方の兵達は門の開閉を巡って争いが始まる。


 仕掛けたはのもちろんヒサオだ。


「うまくいったかな?」


 砦から離れた平地において、馬にのったヒサオがいった。

 両隣には、ケイコとフェルマンがいる。


「ヒサ君、そんなに託宣って絶対だったの?」


「らしい。これで少しは混乱してもらえれば助かるんだが……」


 すでに少しばかりではないのだが、気付いていない。


 すでに砦攻撃開始から10分は経過している。

 開始と同時に獣人兵たちが突撃開始。

 門がしめられるが、お構いなしに壊しにかかっている。

 砦の上から矢でも射ればいいものを、それすらない奇妙な光景がそこにはあった。


 そのタイミングでヒサオが、砦内にいた兵士に通話をおこない、託宣だと勘違いさせたうえでの降伏要請。兵士は聞いたようだが、その後どうなったのかまでは分からない。


「ダメ元だったし、いいか。じゃあ、フェルマンさん。後はお願いします」


「わかった。いくぞお前たち」


 ジグルドに作ってもらった弓を高くかかげると、


「「「「「おおぉぉぉおおおおおお!」」」」


 という叫び声を精霊使いの皆さまが上げた。


 前線へと突撃出した皆を見ながら、


「ヒサ君はいかないの?」


 ケイコがまだ慣れない馬上でバランスをとりながらきいてきた。


「俺がいっても足手まといだしな。皆にまかせるよ。それに、やることがある」


「やること? なにを?」


「うーん――見張り?」


 何をいっているのかケイコにはわからなかったらしい。



 フェルマンたちが門前につくころには、すでに破られていた。

 そのうえ門前にはすでに死体がいくつか転がっていて、何が起きたのかと獣人達の動きもとまっている。

 そんな兵を置き去りに、砦内部で暴れているのがいた。


「どぉりゃぁあ――――――!!!!」


 ランスと盾を前にだし、無心での突撃。

 ふれたものを凍らせながら突撃する様をみた獣人たちは、あれはなんだとざわめいた。


 ジグルドが炎熱操作を応用した突撃攻撃。

 彼はこれを氷結突撃(フリージングアサルト)と呼んでいる。


 当初は燃やす予定だったらしいが、それだと味方にまで被害がでるのでやめたらしい。


「おめぇらなにしてやがる! ジグの旦那に、何から何まで世話になる気か!」


「「「「「「「ハッ!?」」」」」」」


 叫んだのは遅れてやってきたイルマだった。


「いくぞこらぁあ――――――――――!」

「うぉお―――――――――――――!」


 獣人たちが今度こそなだれこんだ。

 熱を帯びた声であるが、その周囲には氷結ずみの兵たちが転がっている。叫び奮い起こした熱がきえさりそうな状況だ。


 かけつけた精霊使いたちは、獣人たちの後から中へとはいる。

 自分達がくるまえに、すでに内部で混乱が発生したようで、同士討ちがあったらしい。


 そこに獣人たちがなだれこんだのだ。

 逃げ出す兵が多すぎた。

 これはヒサオがおこなった通話が原因となるが、そのことを彼らは全く知らぬまま蹂躙戦が始まっていた。


「建物の破壊活動は禁ずる! 降伏を許す必要はない! だが、むやみやたら(もてあそ)ぶのもやめろ! ひと思いに殺してやれ!」


 フェルマンがいったことは即座に実行にうつされた。

 弓を扱うダークエルフたちは、精霊の力をふるわず、ただ見かけた人間たちを弓で射殺していった。

 精霊の力をつかわないのは、下手をすれば建物の破壊へとつながるから。

 未だ完全には扱えていないようだ。


 何もしないまま終わりを感じていた遊撃隊は、ひたすらテラーの指示をまっていた。

 すでにイルマが率いる本隊は突入を果たしているが、テラーたちには何も命令が下されていない。


「今回は何もなさそうですな」


 テラーの隣にならぶエイブンが安堵したような声でいった。


「それはどうかしらね。戦場なんて何があっても不思議じゃないところよ」


 言ったのはミリア。

 テラーやエイブンよりも前に立ち、戦場となる砦を眺めていた。


「油断は禁物だというのは、わかるが……」


「エイブン」


「……ハッ」


 テラーに名をよばれ口を閉ざす。そんな2人に目をむけるでもなく、ただ砦とヒサオがいる方向を交互にみていた。


(……どうなのヒサオ)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「きた!」


 ジ――と砦のむこうに視線をむけていたヒサオが動いた。

 携帯を取り出し、まずはフェルマンに。


「フェルマンさん。そろそろエラクが来ます。作戦通りお願いします」


『きたか! わかった。テラーたちは?』


「これから連絡します。では」


 ガチャリときり今度はミリアに連絡をいれる。


「ミリア、予想どおりきたよ。進行速度からしてたぶん例の物を持ってきている」


『わかったわ。テラーには伝えてないのよね?』


「ああ、動いているのがわかったのは朝だからな。ミリアのほうから話をしておいてくれ」


『それは了解よ。ヒサオはどうするの?」


「俺? 俺は砦にはいってイルマと合流するよ。こんな場所怖すぎます」


『……そういう所は以前のままヘタレね』


「ヘタレいうな! またケイコか!」


 唐突に名前をだされたケイコが、自分を指さした。


「どしたの?」


「なんでもない。ミリア、とにかく、そっちはまかせたぞ」


『わかったわ。じゃあ、またあとで』


「ああ、死ぬなよ」


『なにそれフラグ?』


「……」


 ガチャリと無言できった。

 どうしよこの女と、ケイコを睨む。


「さっきから、なによ?」


「ミリアに、なにそれフラグとかいわれた」


「……アハ♪」


 ケイコによって徐々にミリアの中に異世界用語がはいっていくようだ。


 ――汚染ともいうが。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ガラガラと音をたてながら街道を進む部隊がいた。

 大将軍エラクが率いる補充部隊である。

 運んでいる荷は魔道砲。前回のアグロ戦において失った分がようやく完成したようだ。


「そろそろ砦だな。お前たち気を緩めるなよ」


 そのアグロ砦がすでに落ちていることを彼らはしらない。

 砦に物資と人を集め、隊列を整えてから街へと攻め入る。

 これが従来から続く戦法であったが今回はそれを読まれた形となった。


 まず奇襲をかけたのは、精霊使いの部隊だった。


「やれ!」


 フェルマンの合図をきき、8人の精霊使いたちがそれぞれ適正の高い精霊をよびだし、一斉に攻撃を始めた。


「なっ!?」


 突如として地面がもりあがりゴーレム部隊が発生。暴れ出す土人形を粉砕しようと兵たちが動くが、物質を相手に戦う訓練なぞしていない。

 そんな兵たちに今度は、


「焦がし蘇らせるもの、汝が名は《火の精霊(イフリート)》! 我が願いを具現せよ」


 炎の竜巻がおそいいだした。


「ぐぁああああああああああああ!」


 一斉に火がもえあがり、その場が地獄絵図となる。

 さらに炎の中であばれるゴーレムたち。

 魔道砲をうつ余裕すらなく、たちまち数を減らしていく。


「こんな場所で奇襲だと! 砦の連中はなにを! それにあれは、魔族ではないか!?」


 驚きの連続がエラクを襲う。

 いままで幾度となく魔族達と戦争をおこなってきたが、その実一方的な攻撃を仕掛けるのみだった。

 まさか奇襲をかけられるなど考えてもいなかった様子。


「ええぃ、戦え! 魔法使い前にでろ! 魔道銃を早くうて!」


 前回とほぼかわらない展開で敗退するなどあってはならないと、激を飛ばす。

 声がきこえたのか、銃を構え始めた兵たちがいたが、


「《全体防御増幅(オール・プロテク)》。《全体敏捷性増幅(オール・クイック)》。《全体攻撃力増幅オール・アタック》」


 ミリアの強化魔法の声。そして


「《全体魔力増幅(オール・マジック)》。《全体耐性増幅(オール・レジスト)》。《全体命中増幅オール・ヒット》」


 今度はエイブンの声である。


「やるわね!」


「ふん。これくらいはな! いくぞ!」


 強化魔法を唱えおわったエイブンが矢を連続ではなつ。

 それにつづいて、ミリアが、


「続くわ! 《風の矢(アローウィンド)》」


 エイブンに続くかのように、風でつくりだした矢を兵が固まっている場所へと放った。

 たった2人による攻撃で、立て直しかけていた魔道銃部隊が次々にやられていった。


「今度は獣人たちだと!」


 矢の雨のあと続き、テラーたちが突撃してくる。馬にのり駆けるテラーが、


「『風よ! わが身を使え!』」


 精霊憑依をおこない、馬から飛びおり走り出した。

 瞬時にテラーの姿が消えたかと思えば、いまだ生き残っていた兵たちが次々に切り倒されていく。その後につづくブランギッシュで鍛えられた獣人たち。

 たちまち瓦解していく補給部隊。ここまでもってきたものが、全て破壊と炎のなか消失していった。


「な、なにが……」


「将軍! エラク将軍! 指示を!」


「指示――そうだ指示を」


 部下の声でやるべきことを思い出し、周りをみるが、これは……


「……に、にげだ! 早く! 俺を守れ!」


 声をだすと同時に、自分が乗っていた馬を走りださせる。


「逃がさない!!」


 テラーが気付き走り出す。

 風の精霊憑依状態ならば馬より早いと、エラクめがけて突き進む。


「お前ら、残って俺をまもれ!」


 一緒にきた兵たちに指示をだすと、迷いながらも馬の速度をゆるめた。

 だが、そんな雑魚に構う気もないと、馬の間をすりぬけつきすすんだ。


「後ろはきにしないで!《氷の散弾(フリーズ・ショット)》」


 ミリアの援護射撃。テラーがすれ違った兵たちが氷の弾丸で打ち抜かれた。


「助かります!!」


「きさまぁあ―――――――――――――!」


 後ろから追ってきた獣人が、かつてはラーグスの部下であったテラーと知ることができたのは、死の直前となった。


 こうして、アグロ砦をめぐる戦いは、わずか一日もかからずその幕を下ろすこととなった。

ジグルド:久方ぶりに暴れたわい。

ミリア:ちょっとショック。エイブンさんに強化魔法レベルで負けてた。

ヒサオ:通話したあと鑑定でエラクをみるだけの簡単なお仕事でした。

テラー:出番がないかとおもっていましたが、後半にあって良かったです。


フェルマン:(こいつらの方が怖くなってきた)

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