◆ 見つけたのだ!
王太子アンドリューは、興奮が抑えられず大きな声で叫んだ。
「エドはいるか!?」
エドは面倒臭そうに返事をした。
「はい、ここに。アンドリュー様は目が見えないのですか?」
いつものアンドリューなら怒っていたはずだ。必ず怒鳴り散らしていたであろう。
しかし今日のアンドリューは一味違ったのだ。上機嫌に説明まで始めた。
「そうか、エド。それにしても私は昨日、女神と出会ったのだ!お前は入城した下働きを見たか?」
エドは察したが、勿論…惚ける事にする。
「さあ?」
アンドリューは憐れみの目をエドに向けた。
「お前はあの美しい娘を知らないのか? 可哀想な奴だ。 あのリリアンと言う娘……あの娘を見てから私の鼓動は激しく打ち付け、頭がクラクラとして地に足がつかないのだ……… 」
「それで?私にどうしろと?」
「お前は何年、私に付いているのだ!少しは察したらどうだ!」
「そろそろ1年ですね。ああ、いつもの癇癪が出ましたか。 あの娘、元は平民で、下働きとして入城したのです。半年後にはまた、修道院に戻るのですよ 」
「エド!お前!知っているではないか!」
「だから、それで? と、申したのですよ。 アンドリュー様はどうするおつもりで?」
「私は王太子だぞ?私に出来ぬ事はない……あの……娘を連れて参れ…」
最後の方はゴニョゴニョと、小声になるアンドリューをエドは嗜めた。
「やめて下さい。今は国王陛下が城に居られないのに、面倒事は御免です!」
「だから!……いや、良いから!連れて参れ!」
(やはり我を通すか………)
「はあ、私は止めましたからね。知りませんよ」
(全く、これほどシンシアの思惑通りとは……)
今度はエドがアンドリューへ、憐れみの目を向けたのだった。
異様な『鏡の間』の主、王太子アンドリューの部屋にリリアンは足を踏み入れた。
(うわ!趣味悪!気持ち悪い!)
心に思っている事を隠して、リリアンはアンドリューの前で小さく震えていた。
そこに子犬にでも話しかける様に、アンドリューが優しく声をかける。
「怖がらなくても良いのだぞ。さ、私の側においで」
リリアンは震えながら、ただアンドリューを見つめていたが、その場から動く事は無かった。
「?……どうした?私の側に……」
だが、リリアンはアンドリューの言葉にも、まだ小さく震えているだけだ。
(へえ、王子なんだ…… 国王陛下の顔は知ってたけど…… こいつの顔は知らなかったわ……… 何で、王子なのに、世間に顔を見せなかったんだろ?)
リリアンは昨日、自分に声を掛けてきた男…… 少し自分に似ている、超絶美形が王太子であることに驚いていた。
しかしほんの数言話しかけた態度は、自分に気がある事を如実に告げている。
この馬鹿は獲物だと本能が訴えかけてくる! リリアンは素早く保護すべき対象となる様に演技する事を、即座に選んだ。
その結果が、ふるふると、か弱そうに震える事だった。
(こんなに美しい馬鹿は好物よ)
アンドリューは蕩けるような笑顔をリリアンに向けた。
(この顔はもう完全に私を好きなんだ!
アハッ男って、ほんと馬鹿な生き物だわ。
王子でも所詮、男って事ね。ああ、でも愛人にでもなれば贅沢放題だし、しつこいブラウンからも逃げられるじゃない!?アハハ)
リリアンにとっては、心で思う事を平然と隠す事はその辺の貴族達より容易な事だった。
「 王子様? わ…私…… 」
アンドリューは声まで可愛いリリアンに益々骨抜きになった。
「 リリアン。お前は今日から私の部屋付きメイドになりなさい 」
リリアンは結んだ片手で口元を隠し、目線を下げた。
「でも…私、そんな……マナーも、言葉遣いも分からないし……半年したら修道院に帰らなきゃ駄目だし……」
リリアンは泣きそうな顔でアンドリューの服の裾を、ちょこんと摘んだ。
「ウホッ!」
王太子として出しては駄目な声が出た。
「そんな事は心配しなくて良いのだ。私の事をアンドリューと呼びなさい。
リリアンにだけは特別に許可しよう」
リリアンはコテンと小首を傾げ
「 ア、アンドリュー…… 様? 」
「 クッ 」
アンドリューはリリアンに背を向け、片手で顔を隠し悶絶している。
( か、可愛い )
「 ア、アンドリュー様? 私……修道院に帰らなくても良いの? ずーと、アンドリュー様の側にいても良いの? 」
キラリと一粒の涙を流すリリアンは確かに美しかった。
「リ、リリアン……」
「ご、ごめんなさい、初めて会ったのに……
私ったら、もうアンドリュー様の事が……好きみたい…」
「ああそうか。 分かるぞ! 確かに私は美しいからな。 リリアン、君は母上に負けないほど美しいよ。いや、君は母上以上だ!」
(馬鹿か………)
エドは冷静に、これからの事を考えていた。
リリアン
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
楽しく読んでいただけるように頑張ります。
よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。
そしてこれからの励みになりますので
面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して
いただければ幸いです。




