表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/58

◆ リリアンとブラウン


「なんだと?ふざけているのか!?」


 ヨーク公爵は、自身の執務室で現在、右腕とも呼べるブラウンの胸倉を掴んでいた。


「どう言う事だ?今回、砂糖の買い占めが出来なかっただと?お前はいつからそんな無能になった!?」


 言うだけ言うと、激しく壁に打ち付けた。


 だが、鍛えられたブラウンの身体は然程ダメージも無く、直ぐに起き上がり頭を下げる。


「 申し上げます。今回の砂糖買い占め事業は、隣国セダムの商団が捕まり、手を引かざるを得なかったのです。あのまま続けて欲を出していたら、我がヨーク公爵家に被害が出る事は避けられなかったでしょう 」


「 ほう、だがその無能な商団を見つけたのは…… 」


「 マーチン様です……」


「 マーチン?……奴が? 」


「 はい、私の前に主人に仕えていたマーチン様が見つけた商団でした。私は仕事途中から、引き継いだだけです 」


 ブラウンは、ヨーク公爵に仕えて、まだ半年程と言うのにみるみる内に頭角を現していた。


「マーチン様が、当てにしていた商団や他国貴族達との関係を、再度新たに調べ直しましたが、数々の抜けが見つかりました」


「それでは、その書類を……」


 言ったそばから書類の束が、ヨーク公爵の目の前に提出される。

 この仕事の素早さが、ブラウンをのし上がらせた要因だろう。



 ブラウンは氷の如く無表情で説明を続ける。


「 残念ながら今、マーチン様はデルドラド王国で囚われております。ポートリア公爵が追い詰めたそうです。そして現状を穴埋めるには、どう見繕っても、ふた月は掛かります 」


 ヨーク公爵は、ブラウンの出来の良さに、内心の笑いが止まらない。


(思いがけず、良い拾い物をしたものだ…)

 最近、耄碌したマーチンを切るべきか考えていた矢先に、港町で船の荷物を一人で悠々と捌き切っていた男を見つけた。

 それがブラウンだった。


「そうか、だがお前はそんなに時間をかける事は好まないだろ?」


 ヨーク公爵の好戦的な発言にも、顔色一つ変えずに再び頭を下げる。

「勿論でございます」


 マーチンを調べた書類とは別に、新たな書類がヨーク公爵に手渡された。

「これは砂糖の取り締まりのどさくさに紛れて、新たに買い占めた小麦の裏取引の書類でございます。この量でも充分に、カエレム国王陛下の財布を痛めつける事が出来ると思いますが?」


 ヨーク公爵は素早く目を通して、口元の笑みを隠さなかった。

「ふん、面白い。他に手を広げられる所があるなら、お前に任せよう」


 ブラウンは表情を変えず、今一度礼をした。



 ブラウンがヨーク公爵から解放され、王城を抜けようと歩いていた時だった。


 偶然にもリリアンが城の廊下を拭いていた。

 ブラウンの眼光の奥に小さな焔がゆらゆらと揺れた。その灯は、誰の目にも気付かれないだろう……。


「リリアン……?」


 リリアンは呼ばれた方に頭を向けるが、思わずサッと顔色を青ざめさせた。 

「な、何で、あんたがここに居るの!?」


 リリアンの身体は素直に硬直して背中には冷や汗が流れている。 思わず、手に持つ箒にも力が入る。


 冷淡なブラウンの顔に喜悦が浮かぶ。

「お前こそ。一年前、私の前から突然消えたかと思ったら、城に隠れていたのか?」


 リリアンは背筋に、ゾワッとしたものが込み上げてくる。


(こいつは…ヤバイから逃げたのに!)


 尚もブラウンは容赦なく、リリアンを追い詰めてゆく。

「リリアン、お前が私の元から居なくなる事は許されないだろう? 私はお前の為に、何度も大金を注ぎ込んだよな? その仕打ちが逃げる事とはね……俺たちの世界では、裏切りは許されないと、思うが? 」


 リリアンは歪んだ笑みを零す。


「 ち、違うの。 ブラウンが好きな事に変わりはないわ!…… ハハ… ポ、ポートリア修道院に入れられたのよ、 あたし。しくじっちゃって…… 商家に盗みに入ったら、ポートリア次期公爵のアウデオに捕まって……」


 ブラウンは、ポートリア公爵家の名とアウデオの名前を聞いて、少し考え込む様に答える。

「ふーん、そう……。 確かにポートリアの次期公爵アウデオは厄介だな…… それで今は、城で下働きをしているのか。いつまでいるんだ? 」


 リリアンはブラウンが納得してくれた事に安堵していた。

「うーん? 一応、半年後にポートリア修道院に戻らされると思うけど…… 」


 ブラウンは顎に手を当て、リリアンに視線を這わせ考え込んでいる。


「 駄目だな…… 」


「 えっ? 」


「 駄目だと言ったんだよ、リリアン。何を勘違いしているんだ? お前は俺だけのものだろ? リリアンの爪先から髪の先……その吐く息までも全部…俺のものなんだよ? 」


「………!」(ヒィ!)


「今度裏切ったら、 次はないよな? 今までだって、散々許してやったんだ。 俺のものにならないリリアンに、未来なんて…ある訳がない。そうだろ、リリアン? 」


 リリアンは思わず後ずさりながら、オドオドして声を震わせた。

(こいつ、やっぱり狂ってる!)

「 な、なにを…… ! 今は、修道女なのよ!

ブラウンとは、一緒にいられないの!じゃあね!」


 リリアンは急いで、その場から一目散に逃げ出した。



 その後ろ姿を、気怠げに眺めるブラウン。


(相変わらず…俺から逃げようとするのか。

 リリアンは馬鹿だな……

 俺からは逃げられないのに……

 そう何度も逃がしてあげないよ…

 だが、ポートリアのアウデオか……

 少し……考える必要があるか………)


 ブラウンは、震えるリリアンの顔を思い出し、くっくっと不敵な笑みを飲み込んだ。そして今来た道を戻るように、歩きだしたのだった。






 


 

 挿絵(By みてみん)

 ブラウン



最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。


そしてこれからの励みになりますので

面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して

いただければ幸いです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ