◆ 出会ってしまった
「許された……のか?」
王太子アンドリューは、大きな箒で庭を掃く下働きのリリアンを見つけて激しい衝撃を受けていた。
だが、それと共に心底安堵したのだ。
(母上と私に似た女が、確かにいたではないか! 美しい女は正義なのだ! 何度も婚約破棄をしたからこそ…… やっと、理想の女に逢えたのだ…… ああ、そうだ…… 私は…… やっと……許されのだ… )
アンドリューはドキドキと打ち付ける胸を押さえて、初めて婚約者以外の女に自分から声をかけた。
「 そなた……名は? なんと申すのだ? 」
「 え? 」
明るいローズピンクの髪に、アクアマリンの様な水色の瞳がアンドリューを見つめた。
その瞳にとらえられ、アンドリューの胸はぎゅっと詰まった。
リリアンは自分に似た姿にギョッとしたが、しどろもどろで返事をした。
「…… あのう、無闇矢鱈と、偉い人に口を聞いたら駄目だって…… だから、ごめんなさい!」
言うや否や、娘は走り出して城壁の角を曲がってしまった。
( あいつ私に似てた? 高貴な家の坊ちゃんみたいだし……上手く気に入られれば… )
走りながら計算をしていた、リリアンだった。
アンドリューは咄嗟に近くにいた女中頭から、娘の事を尋ねた。
「 あの娘は、何と言う名なのだ!?」
女中頭は王太子がする質問を、言いにくそうに答えた。
「 はい、あのう……あの者は…最近入城した最下層の下働き……名は確か、リリアンと申しました 」
「 最下層? あの美しい娘が? あれほど美しい娘に下働きをさせるなど…… リリアン…そうか、リリアンと申すか…… 」
感慨深い表情のアンドリューに、女中頭は申し訳なさそうに話を続けた。
「しかし、あの者は半年間の下働きが終わると、その後にはポートリア修道院に戻るのですが …… 」
アンドリューは女中頭を、信じられないものでも見る様に言葉を発した。
「駄目だ!あの娘は…… 帰さない……」
「はあ…?」
シンシアは、その一連のやり取りを庭園一の葉の生い茂る高木の上から眺めていた。暗部のポートリア公爵家たる者なら、木登りはお手のものだ。
(まさかもう?……3日も経たないうちに、リリアンを見つけてしまうなんて……)
シンシアは、高い木の上から走り去った様に見せかけて、曲がった角からアンドリューを見ているリリアンをも見やる。
(全く……リリアンはもう獲物認定したようだし………)
シンシアは口笛を器用に吹いて、鳥の鳴き声を真似る。
そして暗部の者を木の下まで呼んだ。
結った髪に隠したペンと紙を取り出して、サラサラと策を書くと石に包んで、ポトリと落とした。すぐにエドワードへ届ける様に指示を出す。
目線はまた、アンドリューとリリアンへ戻した。
(アンドリュー王太子の性格からすると、明日には動くわね…… )
国王陛下は公務に発たれている。
陛下のいない時だからこそ、アンドリュー王太子も動きやすいはず。
アンドリュー王太子は試され……
リリアンも試される……
平民で、あれだけの罪を犯せば極刑だったリリアンを…今回の『策戦』に利用したとしても、リリアン次第では酌量の余地が残されている……
二人には光が待っているのか……
それとも闇か……
いや、このままじゃ闇だけが……
(アンドリューやリリアンは予測通りの動きをして欲しい反面、その先に待っている破滅へ見殺しにしても良いのだろうか……)
今回の『策戦』は、シンシアが練ったものだった。初めて、これ程の大きな『策戦』が採用されて、人の人生を左右する心の重さにじくじくと胸が痛んでいた。
エドワードは、届けられたシンシアからの小さなメモを読み終わると、ゴクリと飲み込んだ。
下手な証拠は残さない…ポートリア公爵領で学んだ事だ。
シンシアの思惑通り明日、アンドリューはリリアンに本格的に接触するだろう。
国王陛下は今回の視察公務を、敢えて短縮して2週間後には帰って来られる手筈だ。
いつもは2ヶ月程の視察公務だから、誰もそんなに早く帰って来るとは思わないだろう。
油断したこの王城で探れる事は探りきる。
シンシアは心理戦が得意だ。
国王陛下が公務に発とうとした、この時を狙ってリリアンを王城の下働きとして送り込んだ。
そのシンシアが、リリアンの性格をも分かった上で、アンドリューに近接させたのだから。
さて2週間後……どこまで進むのか……
とうとうアンドリューとリリアンが出会ってしまいました。
リリアンも一筋縄ではいかない娘のようですが・・・
この後一時間後にもう一話更新します。
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