◆ 国王陛下カエレムの至上命題
今回訪れる、領地視察という名の《街道整備事業》は、僻地にある領地だった。
国王カエレムは、出迎えた領地代理に親しげに話しかけた。
「 ここの亡き領主は、生前王家に忠誠を示してくれた 」
だが、国王陛下の前だと言うのに、領主代理の男は曖昧な態度で返事した。
「はあ………」
(こいつは… )
カエレムは、この男がヨーク公爵の手下と瞬時に察して態度を変えた。
(これでまた一つ、ヨークの膿を潰せるか)
「お前が領主代行だというが、税の回収が進まないのは何故だ?」
男は痛いところを突かれたと、愛想笑いをする。
「あ、えーと。頑張っております」
それでもカエレムは追求を緩める気はない。
「それなら今から屋敷に向かう。帳簿を用意しておけ」
男は急にオドオドして慌て始めた。
「あのう、陛下。実は本当のところ、私はただ雇われただけで、帳簿のことは詳しくは…… 」
カエレムは騎士に、この男を拘束させた。
「待って、俺は雇われただけで!どうして縛るんだ!?」
暴れる男を慣れた様に連行する騎士を見ながら、カエレムは状況を把握する。
(ここの領民達は搾取され続け・・・皆やせ細り精気が感じられぬ…… )
国王として、新たに優秀な貴族に領地経営を任せるべきか考える。
だが…今、中途半端に誰を招いても、またヨーク公爵に葬られるかも知れない………。
くそ! ……苦渋に顔が歪んだ。
国王カエレムは天を仰ぎ、こうなってしまった過去を思い出す。
突然………40歳にもならない前国王陛下が病に侵され崩御された。
その時、先代国王陛下の弟であった策略家のダミアン・ヨーク公爵が国王になる事を渇望して名乗りをあげた。
だが、当時の側近と元老院たちにはヨーク公爵の企みが目に見えていた。当然推挙などするはずも無い。
順当な立場である王太子カエレムが王位を継承して国王陛下となった。
即位したばかりの17歳だった、若きカエレムは残念ながら周りを見る余裕など無かった。
ある日、自分を支えてくれていた前国王の側近たちが、一人二人と周りから居なくなっていた事に気が付いた。
ヨーク公爵がじりじりと周りを潰していったのだ。
若き国王カエレムを蹴落とす為に……証拠を残さず詰め寄るヨーク公爵。
それは婚儀を挙げた王妃ローザや、生まれた王太子にも容赦なく牙を向けられた。
連日連夜、死の匂いがつき纏う日々……
とうとう愛する妃と、2歳になったばかりの王子を不慮の馬車事故で亡くす事になってしまった。
国王カエレムは悲壮に暮れた………
その悲しい出来事が、領地視察を兼ねてパルムドール王国の大道から街路までの整備推進を手掛けるきっかけになったのだ。
二度とこのような悲惨な事故を…起こさせはしない……! そう誓って………
国王カエレムは、視察先の領主達と意見を交わし、施策を行い、この王国隅々まで安全な道とする事を至上命題としたのだ。
短い邂逅から、現実へと思考が戻る。
( この領地の民に支援をして、一時を凌ぐのが先決であろう…… )
この道を開くことは、我が王国の繁栄と安全を導くことになる………
誰にも指揮を取らせる訳にはいかない。
国王陛下カエレムの最後のカードというべき、信頼できる家門たちがいる。
ポートリア公爵家と、二つの侯爵家が最後の砦として自分を守ってくれる。
この三家だけは、ヨーク公爵とて簡単に手を出すことが叶わない相手なのだ。
皮肉な事に、この三家からアンドリューの婚約者達が過去に選ばれたのだ。
ポートリア公爵家護衛と王家騎士の幾人かをこの地に残し、ヨーク公爵の手が届かないようにする。
そして急いで慣れたように街道整備に着手した。
(領地の民よ。この道は王都に続く道になり商業も進み僻地である苦労は和らぐのだ。
あと暫く待っていてくれ…)
幾日が経つと王家から支援物資と医療者、そして街道整備の建設者たちが、この領地を訪れた。
カエレムはそれを見届けやっと『✖️✖️領』に足を向けたのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
悪役もはっきりしてきましたね。
この後、一時間後に一話投稿しますね。
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