◆ 父息子(おやこ)同士の会話
「陛下、あいつとは、会いましたか? 」
執務の手を止めたカエレムは、エドワードの問いかけに一つ頷いた。 だが
「クラルス……だ 」
「クラルス?『清浄な明るい未来』と言う意味のクラルスですか? 」
「ああ、アンドリューはもういない。 私にも責任がある 」
その言葉に、納得がいかないエドワードが反論した。
「何を、言っているのです!? アンドリ…… クラルスは、父上の関わりが過ぎれば、ヨークに目をつけられ…… 殺されていたではありませんか! もっと周りを見て、上手く立ち回れば良かったのです! あれは奴の責任でしょう 」
国王陛下カエレムは、小さく息を吐くと
「エドワード。 クラルスはこれから、民衆の中で生きていく努力をするだろう…… 王家なら、お前はもう少し、普段からの言葉遣いを直したらどうだ 」
エドワードはバツが悪そうに
「うっ! でも、皆の前ではちゃんとやっています 」
そんなエドワードの態度に気を良くしたカエレムが揶揄うように言う。
「シンシア嬢に…… 頼むべきようだ 」
「あっ! シンシアは駄目です! ずるいです! 反則です! 」
弱点を突かれ、途端に慌てるエドワードに笑みが止まらない。
「くくく…… 」
残りの政務に取り掛かる、国王陛下カエレムに言いたい事があると、エドワードは話を止めなかった。
「父上。約束通り、全ての罰が下されました。 後は、残務をすれば良いだけ…… もう、良いですよね? 」
カエレムには勿論、エドワードが何を言いたいのか、分かっている。
「エドワード、まだ私も…… 妃を迎えに行けていないぞ。まずはそっちが先だろ? 」
「くっ! それは…… 」
尚も優しく、エドワードを諭す。
「エドワード…… 何より、シンシア嬢の用意は済んでいるのか? お妃教育は問題ない。 ならば、王国一の婚儀を挙げる準備にも、時間は掛かるのだぞ? 令嬢にとっては、一生に一度の事なのだから 」
訳知り顔で話すカエレム国王に、エドワードは思い当たる様に笑う。
「父上、流石ですね。 やはり、一度は経験しただけの事はあります 」
するとカエレムは、エドワードの耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「ゴホン! 良いか、エドワード。 これに失敗すると、後々の禍根が残り…… 喧嘩をする度に、心を抉られるのだ…… 覚えておきなさい 」
「まさか父上にもそんな一面が…… 意外とお茶目だったのですね。 まあ、そこは肝に銘じておきます。 そろそろ私は、シンシアのところに向かいます! では 」
エドワードはソワソワと扉に向かった。
「全く…… 待て! エドワード 」
面倒臭そうに、エドワードが返事する。
「なんでしょう? 父上 」
カエレムは執務机の引き出しから、ポンと紙の束を出した。
一度は扉に向かったエドワードだったが、興味を惹かれ国王の御前に戻って質問した。
「父上、これは? 」
「エドワードとシンシア嬢の婚儀の予定と、予算を記したものだ。 二人で相談して、中身を変えても良い。 参考までに持っていきなさい 」
「陛下! ありがとうございます! 」
エドワードはその書類の束を恭しく抱えると、今度こそ一目散にシンシアのもとへと、向かってしまった。
(全く…… なんて奴だ )
エドワードが去って、一人静かになると…… 独り言を呟いてしまうカエレム。
「都合の良い時だけは、陛下呼びか……
いつもは冷静沈着なエドワードでも、シンシア嬢の事となると…… ああそうか、今日は城に来ている日だったか…… ククク 」
カエレムは黙々と執務を続けていると、少し前の資料が必要になった。
綺麗に整理された資料棚から、御目当てを探す為にパラパラとページをめくっていると、他の者には気づかれない、見慣れた文字があった。
私に似せた…… 妃の文字。
もう私と妃以外には、見分けがつかないだろう…… 自分でさえ、偶に混同してしまう。
この文字こそが…… 妃が……
例え離れていたとしても『心は側に居る』のだと教えてくれた
私を支えてくれた……
妃…… たった、一人の妃……
何年も耐え忍んでくれた
ローザ……
ローザ……
ローザ…… ローザ!!
今すぐこの手の中に、ローザを抱きたい。
しかしまだ……
しかし!
カエレムは、静まり返った執務室に…… もう、耐えられなくなった。
もう今は、あいつもいる!
・・・・・・・・・
国王カエレムは発作的とでも言うように、マントを翻し執務室を飛び出していた。
こんな当たり前のように気楽な父と子の会話が出来るまでになった事を書きたかった。
また1時間後によろしくお願いします。
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