◆ アンドリューに迫る過酷な要求
貴族裁判が終わった後に、ポートリア次期公爵アウデオは、地下牢取調室の隣室に閉じ込めていた、アンドリューを訪ねた。
今は隣の地下牢にいたマリアンとヨークは、翌日の処刑の為に独房に移っていた為、もう静かにしている必要はない。
大きな声でアンドリューに問いかけた。
「アンドリュー…… 今の気持ちは? 」
この部屋に閉じ込められてから、マリアンの醜態を聞き、エドワードやシンシアの言葉を噛み締め…… アンドリューはやっと、自分自身の頭で考え、理解して深く後悔していた。
何とかアウデオに言葉を返そうと、ポツポツと話した。
「な、長い…… 長い夢から…… 覚めたようです…… 」
もうそこには、ただ煌びやかで美しいだけの傲慢な王子はいなかった。
「それでお前は、何から目覚めたのだ? 」
アンドリューはゆっくり目を閉じて
「私の…… 愚かさ…… 傲慢さ…… 弱さ…… 臣下の話を聞いていれば、戻る事が出来た筈なのに…… 私は…… 愚かでした…… 」
アウデオはそこまで聞くて
「何故、ヨーク等の大罪が解決出来たのか教えようか 」
全てをアンドリューに伝えることにした。
アンドリューが婚約破棄をした三令嬢がどれだけ優秀だったのかを……
「私が婚約破棄した、令嬢達が優秀だったからだと…… 」
アンドリューは小さな声で、返した。
「まあ、そうだな。 アンドリュー。 お前に与えられた、イヴァンヌ嬢とモアナ嬢こそ、国王陛下カエレム様が…… お前を守る盾として与えられた婚約者達だったのだぞ 」
アンドリューは大きく目を見開いた。
「えっ!…… 」
「お前は、モアナ嬢に婚約破棄した時点で、見捨てられたのだ。 そしてお前に、最後に与えられた…… 我がポートリア家のシンシアこそが、真の王太子エドワード様を王城へ呼び戻す《鍵》だったのだ 」
アンドリューは先程、エドワードとシンシアに呼ばれた会話で、概ね理解していた。
ガクンと頭を下げて、自分の愚かさに幕が降りる時を聞いた。
「私の…… 処刑は、いつでしょうか? 」
アウデオはアンドリューを睨み付け、腕を組んだ。 そして
「アンドリュー…… お前は長い歳月に受けた恩を、処刑という簡単な罰で逃げるのか? 」
アンドリューはそこで、下げていた頭をアウデオに向ける。
「え? 」
「処刑など、一瞬で終わる罰で済まされるのかと、聞いている 」
「でも…… 私は、どうすれば? 」
「アンドリュー…… その名は、私が一番嫌いな奴の名前だった。
ま、それは良いとして……
エドワード王太子は、幼い頃からポートリア領でシンシアと共に暗部の仕事を覚え、激務をこなし、何年も血反吐を吐く訓練を続けていらした。 その他に、王族として覚える全ての事にも、泣き言ひとつ言わずに成し遂げたのだぞ! お前がのうのうと生きていた時にだ! 」
そこまで言うと、アウデオは壁をドガッと叩いた。
ビクンと肩をすくめる、アンドリューへの怒声は止まらない。
「なのにお前は…… 簡単な処刑で、逃げると言うのか! お前の、諸悪の根源は誰だ!? 」
「わ、私の諸悪…… そ、それは…… は、母上…… 」
「それとヨーク達だろう! 大方は、処罰が明日には下る。 ヨークは処刑され、お前の母マリアンも…… 明日の処刑が決まっている! 」
「母上が…… 明日…… 処刑…… ? 」
ガクガクと震えるアンドリューに、アウデオは、恐ろしい処罰をアンドリューに申し付けた。
「お前の処罰は、マリアンの処刑だ…… 諸悪こそ…… 国王陛下を騙し、国民を騙し…… 何より、お前を騙したマリアンを…… お前の手で、処刑せよ。
そうすると、お前は生かされ……
生きて、罪を償うのだ! 」
アンドリューはもはや、自分が生かされるとは夢にも思っていなかった。 だが
「私が、処刑する? 母上を?…… 私は生かされ…… 母上を…私が…処刑…… 」
アウデオは、容赦ない宣言をアンドリューへ投じる。
「そうだ…… 生きることも、罪滅ぼしなのだよ…… ある意味、死ぬより辛い事だ! マリアンには最期くらい母らしく…… お前の呪縛を解いてもらおうか…… アンドリューよ、一晩ゆっくり考え…… 明日の朝、答えをもらう 」
アウデオは話が終わったと、サッサと牢から出て鍵をかける。
鍵を掛けながら、小さな扉窓から見える、呆然として震えるアンドリューを見つめた。
(陛下の温情もお前次第だ。 辛いだろう…… 苦しいだろう…… だがその全てを、今までエドワード様もシンシアも乗り越えて来たんだよ。 アンドリュー )
そしてアウレオは、その場からそっと立ち去った。
アンドリューが、涙を流しながら…… 力無く声が漏れた。
ポツリ、ポツリと……
「母上を…… 処刑…… 」
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