◆ 地下牢② マリアンの本性
アウデオは話が終わったアンドリューを連れ、地下牢まで戻ると、今度は地下牢の隣の小さな部屋に閉じ込めた。
「アンドリュー。 お前は声を発せず、この部屋で、全てを聞くのだ。 お前も知る権利があるし、後の…… 決断の、助けになるだろう。 また後で来る 」
そう言うや、扉の鍵をかけた。
マリアンの尋問が、丁度始まろうとした時だった。
だがマリアンは、戻ってきたアウデオの顔を見るや、心配気に声を発した。
「あの子はどこに行ったの!? アンドリューは!? 」
アウデオは、皮肉げに笑った。
「お前の口から、息子を心配する言葉が出るとはな…… 滑稽で笑えてくるよ 」
マリアンは胸元で両手を握って泣きそうな声をあげ
「そ、そんな…… 私は、あの子の母ですよ! アンドリューが、心配なのです 」
アウデオは冷笑を浮かべながら、マリアンの前に資料を開くと、テーブルの上に広げてみせた。
「いやはや…… お前は、想像以上の好き者だな。 この17年で、1000人以上もの男達と、卑猥な行為を繰り返していたとはな。 この国のみならず、他国の行商からスパイにまで、足を開いていたとは。 そんな女が…… 息子の心配か? 」
マリアンは、深い溜息を吐いて、組んだ両手をストンと落とした。
「な〜んだ。 良い母親像は、無駄なのね……。 私、これからどうなるの? 」
マリアンは、それまでの態度を一変した。
「そうこなくては、つまらんな。 お前は、陛下から一度でも。 まともに寵愛を受けた事があると、思っているのか? 」
マリアンは、右上を暫く見つめる。 そして考える限り、自信満々に答えた。
「当たり前じゃない。 あるわよ! ちゃんと、3回寝たもの。 陛下とワインを飲んで、語らって、それから…… ベッドに二人で入って…… それから…… それから? あれ? 」
アウデオは、薄ら寒い笑顔を向ける。
「それから? 果たして閨での様子は、覚えているのか? 」
「様子? 様子は…… 」
マリアンは口に手を当て、愕然とした。
「お前はあの日。 ヨークに抱かれ、その後ヨゼフにも抱かれ…… さぞや、疲れていたのだろう? 迷いの薬で、ぐっすりと寝ている隙に、いとも簡単に身体を調べる事も出来たよ 」
「身体を…… 調べた? 私の? 」
「お前は、立派に事後の痕を残し、国王陛下を裏切ってくれたな。 ましてや、王家の血を継がぬ子を産み、この王国全ての民達をも裏切った。 子爵家の娘が、己の立場を弁え、誠心誠意尽くしていれば…… こんな極刑など言われる事なく、過ごせたであろうに…… 」
マリアンは、言われた言葉が俄には信じられなかった。
「極刑……? 極刑って! 陛下は、私の事を寵愛してくれているのに? 私が死んだら、陛下は一人ぼっちになってしまうわ 」
「戯言を。 国王陛下は一度でも、お前に愛の言葉を囁いたか? 寵愛などと…… 寧ろ陛下は、お前に触れられると虫唾が走り唾棄する相手であったのに? 」
「う、うそ…… 」
マリアンは癖になっている、困った時に頼るヨーク公爵の牢に目を向けた。
「マリアン。 囚われたヨークに縋る事ほど、無駄な事はないだろう? 今更ヨークに頼って、何になる? 」
マリアンは、ギギギとぎこちなく動く人形のように、アウデオへ顔を向けると
「ヨーク公爵は、王家の方でしょ? この国では、王家の血は罰せないんでしょ? ヨーク公爵が、私を守ってくれると言ったわ…… 私は悪くない…… ただ私が飽きると、侍女達がいつも…… 新しい男達を連れて来てくれただけよ。 私から、頼んだんじゃないわ…… そう! そうよ! そうだわ! だって陛下が、男としての役目が立たないから、いけないんじゃない! 」
とうとうアウデオだけでなく、その場にいたポートリア公爵家暗部の者達まで、大笑いしてしまった。
「こ、これが…… 17年も側妃をしていたとは…… 」
大笑いされてマリアンは、興奮した様に怒鳴り散らした。
「何故笑うの? 陛下が役目を果たせないのは、本当のことじゃない! 私が咎められる事じゃないわ! 」
「お前は本気で、そう思っているのか?
まあ、陛下の事情より、不貞の子を産んだお前に…… 極刑以外は、あり得ないのだ 」
マリアンの目は血走っていた。
「そ、それじゃ…… 折角集めた、私の宝石やドレスはどうなるの!! 」
「全く…… アンドリューと同じで、困ると怒鳴り散らすのだな。 安心しろ。 側妃であるお前が、公に出る事は無かったのだ。 宝石は偽物だし、ドレスも安物に手を加えただけだ。 お前の物を見る目の無さに感謝するよ。 それでも出来が良いから、二束三文にはなるだろうな。
偽物のお前に、お似合いだったな 」
「そ、そんな!!…… 酷いわ!! 」
マリアンは激しく机に置かれた調書の束を振り払った。 ヒステリックに髪を振り乱して。
アウデオは、最後にヨーク公爵へ、鋭い眼差しを向けた。
ヨーク公爵は、相変わらず顔色一つ変えずに、睨みつけてきたアウデオに向かって、ドスの効いた声を出した。
「お前如きに、睨まれる筋合いは無い 」
と言うや否や、一つ瞬きをして無表情に壁を見つめた。
アウデオは、不敵にニヤッと笑うと、ヨーク公爵の檻の鍵を開けた。
「さあ、出ろ。 今から、お待ちかねの…… お前の裁判だ 」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
明日はいよいよヨーク公爵と対決します。
これからもよろしくお願いします。
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