表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/58

◆ エドワードとアンドリューの対峙


 アンドリューは自分が愛していた…… いや、愛していると思っていたリリアンの、激しく取り乱した態度に、精神がズタズタに切り裂かれた様な激しい痛みを感じていた。


(あれが…… リリアンの本性なのか。 母上も…… )


 たった今ーー

 知ったばかりの実父が… 目の前で葬られ、心から信じていた母マリアンとヨーク公爵の裏切りは、アンドリューに激しい目眩と耳鳴りとして襲いかかってきていた。 猛烈な吐き気に止まらない冷や汗がアンドリューを包み込むと、思わず頭を抱える様にして(うずくま)っていた。



 ガチャリと鍵を開けるポートリア次期公爵のアウデオは、アンドリューを一瞥して牢から引きずり出した。

 アンドリューも朦朧とはしていたが、連れ出された後は素直に従った。

 アウデオの後ろを、覚束ない足取りで付いて行くと、地下牢のあった円形の塔から出て来た。


(眩しい…… 一体、どこに行くのだ? )


 アウデオは城の外れまで来ると、今は誰も使わない小さな古城の、とある部屋の前に来て足を止めた。


「お連れしました…… 」

 部屋の主人に一声かけ、アンドリューを部屋へ入る様に促した。


「アンドリュー 」


 そこには、かつらを取りさって、父王と同じ赤黄金の髪のエドワードとシンシアが既に待ち構えていた。


(この声はエド…… エドが本当の王太子で、生きていたのか? )


 アンドリューは、思春期から父王に反抗心が芽生えていた。 だが本来は、憧れ大好きだった父王と同じ、赤黄金の髪を羨望の眼差しで見つめた。 しかし反面、何故自分がエドとシンシアの前に連れて来られたのか、理解ができず戸惑っていた。



(もう地下牢から一生出る事など無くて…… あとは、処刑されるだけだと思ったのに…… )


 諦め絶望したアンドリューの顔を、痛ましそうにシンシアは見ていた。


 もとより本来の王太子だったエドワードは、威厳を放った態度でアンドリューに声をかけた。


「アンドリュー…… 最後の話でも、しようか 」


 ドックン!

 アンドリューの鼓動は、心臓の奥に微かな痛みを与えた。


(最後の…… 話? …… ならば… この話の後に、私は死ぬのか…… それなら… もう、どうせ死ぬのなら…… ) 


 アンドリューは、薄笑いを浮かべた。


「…… 面白かったですか? 侍従のフリをして…… 全てを知り、(てのひら)で踊る私を見て…… さぞや、面白かったでしょ!? 」


「お前は! 」

 怒りに顔が歪むエドワードを、シンシアが止める。


「アンドリュー様。 いえ、アンドリュー。 また…… 怒鳴り、自身の過ちに、投げやりになるのですか? 」


 シンシアに目をやることは無く、アンドリューは何とか立っている足下を見つめ、力無く声を出した。

「お、お前こそ。 何故そんなに、落ち着き払っているのだ…… 」


 シンシアはゆったりと、一呼吸置いた。

 そして凪のような目で

「怒鳴ってばかりでは、何も解決などしませんわ。 それは脅しと、何も変わりありませんから。 少し落ち着いて、泰然と構え、談話するだけで、良いこともあるのですよ。 事と次第によっては、勝手に良い方向へ行くことすらあるのですから 」


 アンドリューは今度こそ、シンシアを見つめ…… 信じられない、と声を上げた。

「そ、そんな都合の良い話など、ある訳がない…… 」


 尚もシンシアは、説得でもするかの様に、アンドリューに畳みかける。

「ええ、そうでしょうね。 全てがうまく行く訳ではありませんわ。 だから、精査が必要なのではありませんか? あなたは、本来頭が良いのに…… その時々に精査もなく、ご自分の都合の良い方へ、向かわれてしまいました。 その結果が…… 」


「せ、精査…… 」

 アンドリューは、言葉が詰まった。

 でも最期ならと、今度はエドワードに疑問をぶつけた。


「どうして? どうして、こんなに長い歳月を、かけなくてはならなかったのですか?  すぐに、ヨークを滅すれば良かったではないですか…… そうすれば…… そうすれば、私は…… 生まれてこなくて、済んだのに……くっ! 」


 エドワードは首をはすに構えて、アンドリューを見た。


「お前は父上や、母上の…… 私たちの苦労など、考えもしないのだな。 父上はな、敵対するヨーク公爵との、力の拮抗を鑑みたのだ 」


「ち、力の拮抗? 」


「…… あの当時。 父上が強権政治として、力でねじ伏せたとしても… 強すぎる力は民衆達には 、恐怖にしか写り得なかっただろう。 それは父上の望む、王国の在り方では無かった。 あの当時の父上と母上には、ポートリア公爵家と幾つかの貴族家達だけが、心から信頼できる味方だった。

 逆を言えば、他はヨーク公爵の気配を探らなくてはならなかったのだ 」

 

 エドワードはそこまで話すと、シンシアを見て手を握った。 シンシアもエドワードを見返し力強く握り返して、にっこりと微笑む。

 エドワードはシンシアへ一度頷くと、アンドリューへ目をやった。

「何より父上は、母上と私を守ること…… 最後の決断は、それが後押しになったのだ。 長年に渡り、父上も母上も苦しみを耐え…… ポートリア公爵家に預けられた私も… そしてシンシアだって…… それぞれの場所で踏ん張り、励み、耐えて来たと言うのに! 」


 アンドリューはフルフルと小さく首を振り、震えていた。


 エドワードは、真っ直ぐにアンドリューを見据えて、何かを考えさせようとするみたいに、尚も畳み掛ける。


「お前は、誰かを恨むより、己の甘い考えが招いた事だと理解するのだ! いいか、アンドリュー。 この全ての『大きな結末』の一助となり、『悪事の終わり』を迎える事が出来たのは、皮肉にも…… お前が婚約破棄した令嬢達が、余りにも優秀すぎた事によって、もたらされたのだ。 他国から、強力な証拠や援軍を連れた味方が我らの…… 次へと進む道を、明るく照らしてくれたのだから 」


(私が… 婚約破棄した、令嬢達が?… )

 もはやアンドリューは、何も言葉を発する事など出来なかった。


 余りにも考えが遠く及ばなかった……

アンドリューでは、とても人知が及ばなかった、遥かに規模の大きかった話に…… 飲み込まれそうになっていた。


(婚約破棄した令嬢達が…… 私の過ち…… 精査すること…… 精査…… )

 そこまで話が終わると、アウデオはまた、抜け殻の様なアンドリューを連れて、部屋を後にしたのだった。



 部屋に残ったエドワードとシンシアは、アンドリューの去った後を見つめていた。


「これで少しはあいつ(アンドリュー)に伝わったかな 」


「ええ、エド。 頭の良いアンドリューなら考えるわ。 今までの自分がした行いを。 今から アウデオ叔父様が、アンドリューへ…… 重たいツケを課すけど…… アンドリューに乗り換えてほしい。

 それに打ち勝ち未来へ…… 」


「進めると良いのだがな…… 」


 まるで、自分ごとのように感じたエドワードとシンシアは、口の中に鉄の味が広がるような錯覚に陥ったのだった。






 



最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。


そしてこれからの励みになりますので

面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して

いただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ