◆ 地下牢① ヨゼフとリリアン
マリアンは、今まで生きてきた人生の中で、一番簡素な服を着て裸足で地下牢へと繋がれていた。
今回の重罪人ばかりが集まるこの地下牢は、円形状の丸い塔の造りを利用した、アーチ型の造りになっていた。
その牢に、囲まれる様に中央に取り調べをする場所があり、誰の取り調べも具に見る事が出来る造りとなっていた。
それは、取り調べと言うべきか、拷問と言うべきか……
アーチ型の監獄中央を陣取っているのはヨーク公爵で、後は二つずつ並ぶ牢にマリアンとアンドリューに、ヨゼフとリリアンが投獄されている。
まずはヨゼフが取り調べの椅子に座らされ、真実を話す様にと命令された。
ヨゼフは一瞬、チラリとマリアンを見ると、余裕そうに取り調べの席についた。
始めから口を閉じて顔を横に向け、腕を組み拒否の姿勢を示していた。
対して、この場にはーー ポートリア公爵次期当主であるアウデオが立ち会い、数人の影達が取り調べをしようとしている。
それは突然だった。
担当した影の一人が、平然とヨゼフの肩に大型のナイフを深く突き刺した。
「!」
「うっ!」
「きゃっ!」
ビューーッと、辺り一面に血飛沫が飛んだ。
「ぎゃーーーー! 」
一拍遅れて、自分の状況を理解した、ヨゼフの大絶叫が地下牢に響き渡った。
「ああ、痛い! 痛い! 」
大絶叫したヨゼフは、ざっくりと刺された肩を押さえたくても、ナイフは深く突き刺さったままだ。 溢れる血の多さに顔面蒼白になり、途端に涙と鼻水を垂らしながら懇願し始めた。
「言う! なんでも言います! だから助けてください! 」
アウデオは、ニヤリと笑う。
「そうか。 初めから素直に話していれば、痛い思いもせずに済んだろうに 」
マリアンは咄嗟にヨゼフに怒鳴りつける。
「やめて! やめなさい! 黙りなさい! ヨゼフ!! 」
ヨゼフにはもう、マリアンの言葉など耳に入らない。
アウデオの声が、低く唸る。
「言え、ヨゼフ 」
「ああ…… はい…… こ、 国王陛下との、初めての…… 閨の日…… そ、その前に…… マ、マリアンが、いつものように私を…… 訪ねてきて。 だ、抱いて欲しいと…… だから…… マリアンを、抱きました 」
アウデオは、ヨゼフの腕を掴むと、こちらを凝視するアンドリューに向けて、血に染まる手を広げて見せた。
特徴的な指に、アンドリューは思わず、咄嗟に自分の手を見た。
薬指と小指が極端に長い…… 全く同じ指の形…… 身体的な遺伝は、嘘がつけない。
それでもヨゼフへの追求は止まらない。
「お前は今も、マリアンと褥を共にしているようだが? 」
ヨゼフは、歯をガチガチと鳴らしながら弱々しく答える。
「それは! マリアンに呼ばれるからで…… でも、私の方から尋ねて行っても…… マリアンはいつも違う男を連れ込んでいて、遊びまくっていたんだ! 」
(母上が男を!!…… )
話を聞くアンドリューは、牢屋の鉄格子をガッと掴んでいた。
「ほう。それで? 他にもあるだろ? 」
ヨゼフは震えながら、ヨーク公爵に指を差した。
「俺よりも…… 遥かに、あのオッサンがマリアンを懇意にしていたんだよ 」
ヨーク公爵は、自分を指差すヨゼフの事など聞き流し、気にかけようともしない。
「おい! お前のことだよ! ヨーク! 」
興奮したヨゼフは、流れる血のせいか、意識が朦朧としてきていた。
椅子にすら腰掛けることも出来なくなり、苦痛なのかドサッと地面に倒れる。
「はぁー、はぁー、はぁ、はぁ、はぁ……
マリア…… ン。 お前に…… 関わる…… べきで…… は…… なか…… った…… 」
ヨゼフの呼吸が、穏やかに止まった。
牢に繋がれた罪人達は、声も出せず驚いていた。
ヨークは忌々しく声を発した。
「自白剤と毒か…… 」
次にリリアンが引っ張り出されて、椅子に座らされた。
「いや、アンドリューさま! 助けて! 」
助けを求められても、アンドリューには成す術もない。 リリアンは、そんなアンドリューに途端に興味を無くした。 可愛らしい表情を消した。
リリアンの、片手に嵌められていた手鎖が外される。
その様子をリリアンは、訝しげに見て、思わず聞いた。
「なんで外したの? 」
その質問には答えずに、アウデオはリリアンへ穏やかに語りかけた。
「お前は相変わらず、ふてぶてしいな。 私から、2つだけお前に質問するとしよう。
まず1つ、お前はアンドリューを愛していたのか?」
一瞬目を見開いたが、リリアンは突然、吹き出した。
「ププッ…… アハハハハ。 馬鹿じゃ無いの? 私があんなナルシストに、愛なんてある訳ないじゃない!? あんなに騙しやすい王子様の愛人にでもなれば、楽が出来ると思うでしょ? 」
清々しい程の毒舌ぶりである。
表情も変えず、続けてアウデオが話を続けた。
「リリアン、2つ目の質問だ。 お前はポートリア修道院での『誓い』を忘れたのか?」
その質問が出るや否や、リリアンの顔は真っ青になり、首を左右に激しく振った。
--6ヶ月の院外活動中に、不適格な活動や言動をした者は、相応の罰が下される。
『誓い』は必ずや守るべし--
既にーー 罪人として、ポートリア修道院に入れられたリリアンには『赤の館』行きが濃厚だった。
「違う! 忘れていた訳じゃないわ! 勝手にあいつが、私を呼んだの! 私のせいなんかじゃないわよ! 」
相変わらず穏やかな口調は変わらないアウデオは、楽しそうに語った。
「リリアンこそ、馬鹿だな…… 勝手に呼ばれようとも、10歳も下の男を手玉に取るのは、修道院の誓いを破る事になるだろ? 」
突然アウデオの顔が冷たいものに変わり、右手がサッと挙がった。
側に仕えていた暗部が、リグナムバイダの木で作った手枷を持って来た。
リリアンは自分の手鎖が外された意味を知り、強烈に顔が強張った。
木で造られた手枷は、鎖より重く、既に何人の血を吸ったのかと思う程に、赤黒く光っていた。
「い、いや! いやよ! 行きたくない!
『赤の館』にだけは、行きたくない! 」
リリアンの懇願など聞いてくれる筈も無く、無情にもガッチャッンと手首に嵌める。
『赤の館』の手枷を嵌められーー リリアンは、アンドリューを激しく睨みつけた!
「あんたのせいだから! 甘ちゃんで、我儘の…… 全部、あんたのせいよ! 」
そこまで話すと、口には猿轡を嵌められる。
リリアンを迎えに来た『赤の館』の支配人が、悦びの声を漏らした。
「なんと言う美しさ…… なんと言う痴態。 我が館に相応しい。 さぁ、いつまで正気でいられるのか、楽しみですね 」
リリアンは最後の抵抗として、嵌められた手枷を大きく振りかぶって、アンドリューの入っていた鉄格子を、思い切り叩き付けたのだった。
これからざまあ回が続きます。
少し辛かったり過激な事になるかも知れませんがどうかお付き合いくださいね。
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