◆ マリアンとヨークの不貞
(来たか・・・)
国王カエレムが城の回廊を歩いていると後ろから側妃マリアンがいきなり抱きついてきた。
気配で分かっていたので敢えて放っておいた。
「へ、い、か。帰ってきたのですね。教えてくだされば良かったのに。
執務も忙しいでしょうが、私・・・寂しいですわ」
カエレムに嫌忌が走る。
未だにこの女に触れられるだけで憎悪が身体中を駆け巡る。
気を鎮め直すがもう以前のような慈しみを込めた声色は無く、ただ冷ややかにマリアンを諭した。
「そんな事を言うべきではないだろう。
執務はとても大切な事ではないのか?
私は君の負うべき仕事分も受け持っているのだ。寂しいからなんだと言うのだ?
我慢するのは当たり前ではないか」
「ぐっ・・・」
マリアンは暗に仕事が出来ない側妃だと遠回しに言われた事を理解した。次の言葉を発する事が出来ず一歩後退してはスゴスゴと退散するしか無かった。
マリアンの姿が見えなくなるとカエレムはパンパンと体を払う。
(もうあの女に演技する必要も無い・・・
もう幾らもないのだからな・・・
さあ、上手く動いてくれよ)
マリアンは国王カエレムと別れてから一目散にヨーク公爵の元に向かった。
(何かがおかしい・・・なんでだろ?
陛下の顔は笑っているのに・・・)
マリアンは得体の知れない不安のせいで自制心が保てなくなっていた。
この王城の一室が執務室として与えられているヨーク公爵に会うのは難しいことではなかった。
今までは遠慮して直接自分から会いに行くことは無かったマリアンだがカエレムの態度に違和感を拭えず相談したかったのだ。
マリアンはヨーク公爵の執務室に飛び込んだ。
「なんだ?突然に」
ヨーク公爵の不機嫌な声がマリアンを包む。
「あ、あのう・・・私。ヨーク公爵様に聞いて欲しい事があるのです。なんだか陛下が・・・冷たいように感じます。アンドリューにも愛を感じませんのよ」
ヨーク公爵はペンを置いてマリアンが言った言葉を考えた。
「側妃マリアン、どうして冷たくなったと感じたのだ?」
この部屋にはヨーク公爵の配下達が屯している。
何故だかブラウンが数日前からいなかったが。
マリアンが言いにくそうにするからヨークは配下達に出て行く様促した。
「さあ、それで?カエレムの様子が変だとはどう言う意味だ?」
「陛下は・・・顔は笑っているのに目が冷たいのです!アンドリューにもここの所、何故か無関心なのです!」
ヨーク公爵は溜息を吐いた。
「そういえば私も最近はアンドリューを見かけていないが?お前はいつアンドリューに会ったのだ?」
そういえばマリアンもアンドリューを見かけていない。ただふるふると首を振る。
(だってあの子ったら、よりにもよって下働きの女に手を出すんだもの・・・)
「まあ、カエレムはお前に飽きただけだろう。もうお前も四十も過ぎておる。
アンドリューは三度も婚約破棄をしたのだ。おまけに3人の元婚約者を集めて再度試験をして今度は全員から断られたそうじゃないか。流石のカエレムも呆れた事だろう」
ヨーク公爵の侮蔑の言葉にマリアンは怒りを露わにした。
「今更!?・・・ヨーク公爵がアンドリューをあの様にしたのではないですか!私の事だって守ってくれると言ったではありませんか!」
ヨーク公爵はマリアンの扱いが面倒になっていた。
(この女の使い道はまだあるのか?)
「マリアンよ。幾らアンドリューの頭が良く剣術も見目も良かったとしても心を育てなかったのはお前だよ。アンドリューは確か、お前に似た下女に入れあげているそうではないか?ククク美しいの意味を履き違えた愚かな奴だ」
マリアンはヨーク公爵の本性に愕然としながらも
「それでも!アンドリューはあなたの子ですよ。ふっ、それを陛下に言ったらどうなるかしら?」
ヨーク公爵の顔に殺気が漂う。
(今は宥め・・・後でこいつを始末するか・・・)
マリアンはヨーク公爵に近づき自身の服の胸元をはだけさせ服を脱ぎ捨てた。
「私の身体を何度も弄んだ償いも無く貴方様の子も産んだというのに約束も守ってくださらないの?・・・」
ヨーク公爵はマリアンの素肌に手を伸ばした。
「お前如きが私を脅せると思っているのか・・・」
マリアンは自分に伸ばされたヨーク公爵の手を包み込んで妖艶に笑う。
「脅しているのではありませんわ・・・私もアンドリューも守ると言った貴方様の言葉を信じさせてください」
そして慣れた様にヨーク公爵にキスをした。
その時だった!大きな音を立て扉が開いた!
バン!!
ゾロゾロと城の騎士たちがヨーク公爵の執務室に雪崩れ込んできた。
「そこまでだ!側妃とヨーク公爵の不貞だ!」
丸裸のマリアンを抱くヨーク公爵に逃げ場は無かった。
国王陛下カエレムが部屋に入り二人を冷ややかな眼差しで見つめる。
「これはどう言う事でしょう?叔父上。いや、ヨーク公爵、そしてマリアンよ」
「いや!」
マリアンは自ら脱いだ服をかき集め裸身を隠した。
部屋にいる王国騎士団から近衛兵まで多くの者が見ている。公正な証人となるだろう。
ヨーク公爵は口をハクハクとしながら自分の配下達を探した。
国王カエレムは不敵に笑った。
「ヨーク公爵の手の者達は既に捕らえている。それだけではない・・・そなたが今まで送り込んでいた、城の者達も先程全て一人残らず捕まえたところだ。もう観念せよ・・・叔父上」
ヨーク公爵は直ぐには理解出来ずカエレムを凝視した後、部屋中の自分に集められた視線に身が縮む思いをした。
「み・・・見るな!私を見るな!お前達は出て行け!ここは私の場所だ!」
「は、母上・・・」
大勢の騎士達の後ろから泣き声とも取れる小さな声が聞こえた。
それは既に縄に縛られたアンドリューだった。
「あ、アンドリュー・・・こ、これは・・・」
マリアンは絶句して次の言葉が見つからない。
「母上・・・本当だったのですか?
私が父王の本当の子では無いと・・・?
母上!?・・・母上!答えてください!」
「そ、それは・・・」
しどろもどろでマリアンはヨーク公爵を見る。
それを見てアンドリューは父親がヨーク公爵なのだと思った。
だが無情にもエドが真実を白日の下にする。
「それは違うよ。お前の本当の父親は伯爵家三男のヨゼフだ。残念ながら?ヨーク公爵の子では無い。お前には王家の血は一滴も流れていない」
「そ、そんな・・・」
激しいショックを受けて立つことも覚束ないアンドリュー。
その話はヨーク公爵でさえも愕然とさせマリアンを見据えた。
「マリアン・・・お前!?」
もはやその場で立つ力も無くマリアンは崩れ落ちた。
国王陛下カエレムは味方だけになった兵士達に命令した。
「全くマリアンよ。お前は息子と同じ情事の場で捕まるとはな・・・マリアンとヨーク公爵、そして・・・アンドリューを地下牢へ連れて行くのだ!」
「「はっ!!!」」
数多の城の騎士達は国王陛下カエレムへ忠義の意を込めて高らかに声を上げた。
今回も最後まで読んでいただけたことが
とても嬉しいです。
当面、ざまあ回が続きます。
残酷な描写もありますがよろしくお願いします。
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