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◆ 全ての証拠が目の前に

 

 「国王陛下が帰って来られたぞ!」


 予定より遥かに早く帰城した国王陛下カエレムを出迎えるために、城の中は落ち着きをなくし大慌てだった。


 実は国王カエレムは、帰城を目前にしてポートリア公爵家の影からは、ある程度の報告は受けていた。


(やはりアンドリューは囚われてしまったか…… シンシアの読み通りか。 とはいえ、ヨーク達から切り離された事が幸いした。 エドワードとシンシアは、私との約束を守ってくれたのだな )


 小さく安堵の息を漏らした国王カエレムが王城に入ると、早急にポートリア公爵から執務室へ戻る様に知らせが入った。


(また何か? この短い時間の間に事が進んだのか? )


 執務室に帰ると、モアナに付き添い帰国した二人の侍女と、ポートリア公爵が既に待ち構えていた。


 ポートリア公爵は、デルドラド王国の親書をすぐにカエレムに渡した。



 モアナに付き添っていたメアとデルは、

 王太子エリックがヨーク公爵の確たる証拠と証人を持たせてくれただけでなく、尚且つ援軍まで寄越して来たのだと告げてきた。


 デルドラドの刻印で閉じられた、分厚い親書という名の調書には、罪人達の名前とその金の流れが事細かに記されていた。


 ポートリア公爵とカエレムが目を通せば、見えなかった点と線が繋がっていく。


 メアとデルは静かに報告をした。

「モアナ様は…… あのおっとりとした姿からは、想像もできない程の鋭い観察眼と、推定の確かさが有らせられました。

 シンシア様より、用心する様に言われていたのですが…… ほんの数言の会話と城での様子で、全ての辻褄を合わせてしまわれました 」


 カエレムは苦笑いを浮かべて

「それでメアとデルは今ここで、安堵した顔をしているのかな 」


 二人は目を見合わせて、オズオズと頭を下げる。


 ポートリア公爵は優しく声をかける。

「ご苦労だったな。 今はポートリアに帰って、援軍共々暫しの休息をとってくれ。 残念だが、明日には援軍と、この繋がった罪人達を捕える任務に就いてもらう 」


 二人は誇らしげに部屋を出た。


 それから半日も過ぎた頃、今度はエナとリナ、そしてセダム国王付きの二人の侍従がカエレムを訪ねて来た。


 ポートリア公爵とカエレム国王陛下が一緒に居る事は織り込み済みと、同時報告の為に王城に向かった4人は、すんなりと執務室に通された。


 そこでエナとリナをしっかりホールドして、尚且つエスコートする侍従達の姿に、ポートリア公爵とカエレムは眼を見張った。



「失礼いたします 」

 セダム王国エリオス付きの侍従ケビンが、調書と親書をカエレムの執務机に静かに置いた。


「ありがとう。 セダム王国には多大な感謝を述べよう 」


 するともう一人の侍従、トニーが口を開いた。


「恐れ多くも我が王国は、ただの隣国ではなくなります。 我が王国陛下は、このパルムドール王国のクリント侯爵家イヴァンヌ様と、近々に婚儀を挙げられたいと、申しております。 よって、正妃となられるイヴァンヌ様の母国に、手助けする旨をお伝えにあがりました 」


 話の急展開さに驚くカエレムだったが

「そうであったか…… イヴァンヌ嬢は、セダム王国の妃となるのだな。 祝福する。 後で私の方からも、この度の感謝と祝いの親書を送らせてもらおう 」


 二人は胸に手を当て、深く頭を下げた。



 徐にポートリア公爵が、不機嫌に声をかけた。


「ところで、私の可愛い娘達に、馴れ馴れしくはないですかな? 」


 セダム王国の侍従達は、ポートリア公爵に先ずは一礼をした。


「恐れ多くも…… この度の、パルムドール国へ協力するにあたり、情報の共有が必要でした。 異例ではありますが、我が王国の暗部とエナとリナからも話を聞き、すり合わせの必要がありました 」


 ポートリア公爵は、不機嫌な顔を崩さない。


「それで? 」


「それは本来ならば、国定協議違反となりましょう。 しかしエナとリナは、暗部の使命より大事な、シンシア嬢とこの王国を守る義を優先したのです………… まあ要するに、私達がエナとリナを愛してしまったので、ご報告いたします 」


 ポートリア公爵もカエレムも固まっている。

 本当はエナとリナも固まっていた。


 ケビンも黙っていない。

「敬愛する、ポートリア公爵。 二人の立派な振る舞いに、私達は心焦がれました。 この二人を、過去に助けてくださり、誠にありがとうございます。 どうか私たちの国に…… 私達に、エナとリナを授けてはくれませんか 」



 長い沈黙が重かった。



 ポートリア公爵は、エナとリナを見た。

(こんな時にも、私を選ぼうとしているのか…… どう見ても、お前達は…… )


 ポートリア公爵は、懐から短剣を出した。


「エナとリナ…… 私の前に、その手を出しなさい 」


 二人は言われたまま、一つの躊躇もなくサッと手を出して、ポートリア公爵に向けた。


「公爵様! 何を! 」

 トニーとケビンが止めに入ろうとした。

 だがすかさず、エナが声をあげた。


「私達の主人の行いに、口を挟まないでください! 」


 ポートリア公爵の刃筋が、サッと二人の(てのひら)に浅く入った。


「「くっ! 」」


 国王陛下カエレムは、小さく微笑んだ。


「エナ…… リナ…… 長い事、ご苦労だったな。 シンシアには私から話しておこう。

 暗部を抜けるのに、血が流れない訳にはいかないからな…… 暗部の事、全ては他言無用だ。 全ての秘匿を忘れられるな? 」


 エナとリナは、グッと唇を噛み締めて、涙を流しながら小さく頷いた。


 ポートリア公爵は、セダム王国の侍従達にポートリア公爵としてではなく…… まるで父親の如く話した。


「君達…… 私の大切な娘達を頼む。 もう暗部では無い…… 何も…… この国の事を聞く事は出来ないと、心得てくれ。 悪いが直ぐに二人を連れ、自国に帰ってくれ 」


 トニーとケビンは深く一礼して、怪我をしたエナとリナを連れて、執務室を退出したのだった。



 国王陛下カエレムの前には、自国で集めた膨大な資料と、二つの隣国からもたらされた証拠の数々が並べられていた。


 全てを見比べながら、カエレムは震える身体さえ楽しんでいた。


「見てくれ、ポートリア公爵…… ここも、ここも、ここも…… 繋がる。 端の端まで、何もかもが追えるではないか! これを待っていたのだ! 他国の砂糖や小麦の違法な買い占めの証拠や、城に隠れたヨークに繋がる罪人どもまでも…… やっとだ…… 」


 自国の証拠だけでは、王弟全ての罪を暴くには難しい側面が幾つもあった。

 前王のご逝去から、勢力図が大幅に塗り替えられ、中途半端に罪を問うても残派がいては、パルムドール王国を平和に収める事が困難だった。


 他国からの、純粋な証拠や証人…… そして、閉ざされていた先に繋がっていた人や物が特定され、名も記された調書の数々……。



 カエレムは感慨深く、言葉が溢れる。


「何ということだ…… アンドリューが婚約破棄した令嬢達が、これほど優秀だったとは…… 17年前…… 私や妃、そしてポートリア公爵家だけでは、成す術が無かったというのに…… 何ということだ 」


 ポートリア公爵は、静かに口を開いた。


「17年前、ローザ正妃が考えた偽の馬車事故から、今回のシンシアの考えた策戦たるや。

 それに二人の元婚約者達か…… 我がパルムドール王国の女達は、なんと優秀なのだろう…… 我ら男共も、気を引き締めねばなりませんな。 さて陛下……

 これ程に、完璧な終幕はありませんぞ )


 ポートリア公爵に顔を向けて、カエレムの静かな怒気を込めた声が流れた。


「ああ、長かった…… ヨーク公爵やマリアンには、きっちりと落とし前をつけてもらおうか 」








最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。

破滅の気配が・・・


これからもよろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


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そしてこれからの励みになりますので

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