◆ エリオスの初恋
星空見学から、少しは距離が詰まったか。
(今まで、どんな令嬢や姫達と会っても、凍りついたかのように心が動かなかったのだ…… なのに、この気持ちは、本物なのか? )
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「エリオス様! 大変です! 前方の空に壁のような雲と波も切間があり、嵐が来ると思われます! 」
そう話すうちから既に、船が大きく揺れ始めていた。
「嵐の大きさは分かるか!? 」
「雲の大きさから見ると、一過性の様ですが…… くっ! 」
何かにぶつかったかの様に、船が激しく傾げた。
「きゃーー 」
(この声は! イヴァンヌ! )
エリオスは咄嗟に走り出して、船室から飛び出したイヴァンヌの手を掴み、自分の腕の中に閉じ込めた。
(間に合った! )
「俺に掴まっていろ 」
ガタガタと震えるイヴァンヌは、私に言われた通り、素直に抱かれて腕を背中に回してきた。
(この状況でも嬉しいとは…… だが、このままでは不味いな )
足元のバランスを取る度に、場所がズレていく。
急いで自分とイヴァンヌを、甲板に落ちていた縄で、船の帆柱にぐるぐると巻きつけた。
「大丈夫か、イヴァンヌ」
激しい雨風のせいで、私の目の前で解けたイヴァンヌの黄金色の髪。
それは私が最初に気に入った、イヴァンヌの美しい髪……
私は思わず息を呑んだ。
だがそれも、直ぐにずっしりと雨を含んで、イヴァンヌの肌に纏わりついた。
色香が漂うイヴァンヌの潤んだサファイアの瞳は、私のすぐ目の前にある。
(こんなに近く…… 真正面で見る瞳に、引きずり込まれてゆく様だ )
巻かれた身体が熱い……
かかる息もやけに熱い……
イヴァンヌをより一層、力強く抱きしめる。
(イヴァンヌ! 私の…… 生まれて初めて感じる、熱い心を受け止めるべきか? …… 私はやはり、お前を…… そうか? そうなのか? )
周りは嵐なのに……
イヴァンヌの瞳から…… 到底、目を離せない。
--二人の周りだけが、やけに静かだった
「イヴァンヌ…… 」
抑えきれず、イヴァンヌの唇に自身の唇をそっと合わせた。
「ん…… 」
イヴァンヌは、パチリと固まった。
「んな!…… な、何を!…… は、は、初めての口づけ…… なのに…… 」
身体中の染まる色を隠せないでいるイヴァンヌが愛おしい。
「人が恋に落ちる時に…… 時間も場所も何も関係ないのだと知った…… イヴァンヌ、
イヴァンヌに私の愛を捧げたい…… 」
「へ? 」
イヴァンヌは余りに突然のせいで、キャパオーバーとなり意識を手放してしまった。
「クスッ、本当に可愛い人だ…… 」
(だが、二人の侍女は厄介だな…… 私に、敵意を隠しもしないとは )
その時の私は傲慢だった。
あの時の私を殴ってやりたい。
大切だと気付いたのなら、愛する人を試すべきでは無かった……
国王として、妃を娶る覚悟が欲しかったからか…… 私は、イヴァンヌを怒らせて、自分の心を図りたかった。
「イヴァンヌの口付けはとても甘かった…… 」
私はイヴァンヌを試し……
隠れた人の前にノコノコと対峙して
怒った顔も……
泣き顔も……
目の前で見て、初めて自分の愚かさに気付かされた。
こんなに心が痛いなんて。
どうしたらイヴァンヌの心を掴めるのだ?
このままでは、イヴァンヌが…… 私の前から、消えてしまうかも知れないというのに。 そんな事が、怖いなどと…… 。
「エリオス様。 少しは、召し上がってくださいよ 」
「失恋なんて…… 寧ろ遅過ぎるぐらいですよ。 人はそうやって成長するんです 」
「お前たち…… 私は諦めないから。 そのつもりで 」
そうは言っても……
何度もイヴァンヌのいる特別室に出向き、ドアを叩き許しを願ったが、結局セダム王国に着いてしまった。
「ケント、このままでは船から降りる事なくイヴァンヌ達が帰ってしまう。 この船は、一度修理に出す! 」
二人はニヤついて返事をする。
「はいはい 」
「諦めが悪いですね 」
エリオスは砕け散る事すら覚悟して、最後の決戦に挑む事にした。
船からイヴァンヌ達が降りた事を確認して、愈々自分も船のタラップを降りた。
はやる気持を抑えて、国民達の歓迎を受けた。
国民達に手を振りながら、トニーに確認する。
「イヴァンヌ達は、何処にいる? 」
「カフェボランにいますよ 」
「そうか」
ゆっくりと、国民達の間を進んだ。
すると自然に、エリオスの進む道を、民が自ら譲って分かれてゆく。
カフェボランまで来ると、先ずは二人の侍女達と目が合った。
イヴァンヌが背中を向けて、フルーツをフォークで小さく刻んでいるようだ。
侍女達の声がする。
「・・・・・・・・・お父上が・・・・・・縁談・・・・・・殿方・・・婚儀をする・・・・・・」
「うん、もういいわ……。 帰る事にする…… 」
(今なんて? 駄目だ! もう逃さない! )
私はイヴァンヌの、小さく刻んだフルーツを一口摘んだ。
「美味いな…… イヴァンヌ…… 」
スッポリと、私の影に隠れたイヴァンヌが上を見上げると、逆さの私と目が合った。
私を見たイヴァンヌが、直ぐに立ち上がって心配顔を向けてくれた。
「へ、陛下…… 」
「やっと、顔を見ることが叶ったな 」
「あ、え、えっ…… と」
(イヴァンヌの瞳に見つめられるだけで、心が蕩けそうだ……
こんなにも愛してしまったのか…… )
もうやることは決まっている。
私はイヴァンヌの前で跪き、その手を握って心から謝罪した。
(イヴァンヌを娶れないのなら、国王の座も要らない )
「イヴァンヌ、心から謝りたい。 すまなかった…… 」
驚いたイヴァンヌは
「おやめください! 国民が見ております! 許します! 許しますから、お立ちください! 」
急いで握られた手を上げて、私を立たせる。
「いや、私の態度は誠実では無かった。
簡単に許さなくて良い……
私はイヴァンヌを愛している。
君を誰とも分からない奴なんかに、くれてやる気は無いよ。 イヴァンヌには悪いが、許さなくても良いから、私の隣にいてほしいのだ…… 」
あの時の…… 嵐の中のように、私達の周りは静かだった。
イヴァンヌが、私の瞳を確認する様に覗き込んできた。
(イヴァンヌ…… どうか、私を信じて欲しい…… )
イヴァンヌの瞳に、光が戻ったようだった。
いつものイヴァンヌのように。
「陛下…… エリオス様は、許されなくても良いのですか? 」
イヴァンヌの調子が、戻った事が嬉しかった。
「ああ。構わない…… 許されなくても良いから、私の隣にいてさえくれれば良いのだよ 」
イヴァンヌが嗜めるように笑う。
「それでは国民が可哀想です。 国王はある意味、欲張りで無くてはなりませんわ。国民の幸せも、ご自身の幸せも、両方望まなくてはなりません! 」
「イヴァンヌ…… 」
(やっと君の心が…… 掴めたのか?
私は生涯、決して君を離さない! )
最後に、茶目っ気たっぷりにイヴァンヌが嗜める。
「陛下、許すのは一度だけですよ 」
「イヴァンヌ! 」
私はイヴァンヌを、力一杯抱きしめて、フルーツ味のキスを落とした。
何とかイヴァンヌを、我が王城に連れ帰る事が出来たのも束の間…… 隣国パルムドールの内情を知り、ましてや加担する事になるとは…… 夢にも思わなかったのだが。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
まだエリオスです。
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