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◆ 国王エリオス・ブラッドリー・セダム


 全てが気まぐれからだった。


 本当に今にして思うと、自分の性格が、これ程良い方向に転ぶ事があるなんて…… これは、二度と起こらない奇跡だったのだろう。



 父王を継ぐ事は、摂理として決まっていた。

 私が国王になり、最初の2年は、がむしゃらに自分の居場所を作ることに邁進した。 次の3年は、政務の調整と新たな変革を進める事に費やす期間とした。

 たかだか3年で、変革は進まない事は承知している。 だが、古い体制を維持する事は、父王の代の古参が喜ぶだけで、次代にとって良い事だとは到底思えなかった。


 新たな考えに賛同する者を集め、議会は混迷していたが、革新的なアイデアが大きな利益を生み出すと、次第に古参達は自らの席を新世代に譲り渡してゆき、明るい兆しが見えてきた。


 周りの者達は、エリオスが思った以上の成果を出すと、今度は掌を返したように『婚儀をせよ』『次代の世継ぎを』と催促し始めた。


 エリオスも、そんな事は分かっている。

 自分の婚儀が政治的に使えるよう、今まで婚約者を設ける事は特にしなかった。

 近隣の名だたる姫達は、早々に婚約または婚儀を済ませていて、残った姫に旨みは無かった。

 また、自国の令嬢達は安寧な世に浮かれていて、残念な事に王国の重責を半分預ける程の令嬢が見つかることも無かった。


 それにエリオスの心が、全く動かされる事も無かったのだ。


 それでも、エリオスを熱狂的に支持する国民も貴族達も婚儀を望む声が、日に日にと高まっていた。


(はあ、疲れた…… )


 20歳でセダム国王になり、気がつくと、もう25歳になっている。


(この長くも短い5年で、一区切りの成果をもたらす事が出来た…… 私が休む事を、少しは許してくれるだろう )


 エリオスが国王になり初めての休息だった。


 大義名分は、新たなセダム国王の諸外国への外遊訪問として、久しぶりの他国で羽を伸ばす事に終始しようと考えていた。


 実際、ちゃんと諸外国で国王としての謁見挨拶をしていたが、エリオスの気まぐれから特別な順番も期間も決まっていなかった。

 

 エリオスの外遊中は、セダム国王の座には先代国王が臨時に復活している。


 エリオスの我儘を、二人の優秀な乳兄弟が調整してくれるが、激務に些か辟易しているようだった。


 2ヶ月の外遊終わりに、エリオスは船での帰還を急遽決めた。


「流石に汽車で帰りませんか?」

 いつもなら、文句を言わない乳兄弟トニーが疲れからか、不満を口にした。


「何故だ? 私は久しぶりに海風にあたって、ゆっくり帰りたいのだが? 」


 エリオスは穏やかに話してはいるが、一向に乳兄弟の気持ちに沿うつもりはないようだ。


 乳兄弟の2人は、仕方が無いと乗船の準備をしていたが、気まぐれエリオスが予定の船に乗らなかった。


 珍しく冷静な乳兄弟ケントも、怒ってきた。

「もういい加減にしてください。 気まぐれにも程がありますよ! 」


 キレ気味に叱られても、どこ吹く風か

「まあまあ」と嗜める。


 エリオスは、最後の立ち寄り地であった、パルムドール王国の港町で、2人の侍女を連れた令嬢に目が釘付けになっていた。

 眩しく光るものが、人の髪だった事に気が付いたからだ。

(おお! なんと美しい…… )

 興味が注がれてしまった。

 ほんの、ただの……

 いつもの軽い、気まぐれだったはずなのに。



 エリオスは、2隻の船を所持している。

 乳兄弟が乗船手続きをした、予定している船とは違う、もう一隻の船に令嬢達が乗船したから、そちらの船に乗る事を選んだ。


 エリオスは気まぐれで、令嬢達が乗った船の方に乗船した。


 その令嬢をそっと、目で追った。


 通常は船に乗ると、貴族達は船室から出るのは食事の時くらいなのだが、令嬢は船が出港すると、忙しく船内を巡っていた。

 まるで探検でもしているように。

 一通り船内を巡り満足したのか、今度は甲板に出て気持ち良さそうに海風に当たりながら目を閉じていた。


(風に揺れる令嬢の髪が金糸のようだ…… 人の髪なのに、あんなに光るものなのか……? )


 エリオスは、気まぐれでは無くーー どうしてもその令嬢と、話をしてみたくなった。

 好奇心なのか……

 その気持ち……

 今にして思うと、分かるのに……



「お嬢さん、一人? 」


(本当になんて軽い声がけなのだ…… )

 自分にガッカリするエリオス。


 令嬢は軽い声がけに、やっぱり無視をした。

(このまま、終わりたくないな )

 いつもと違い、何故だか食い下がっていた。


「おい、旅は道連れじゃないか。 無視は良く無いぞ 」


「私は貴方と、道連れになった訳じゃないわ 」


(なんて、可愛い声だ。 何より、なんて美しいセダム語…… )


「なんだ、可愛い声じゃないか。 やはり隣国に行くの? 」


 令嬢は残念そうな顔で、船室に帰ろうとした。

(不味い、やりすぎたか…… )


「おっと、ごめん。 しつこく話し過ぎたか。 私はエリオスだ。 君はまだ、ここに居たいのだろ? 私が部屋に戻る事にするよ 」


 良い提案だったのか、令嬢はびっくりしている。


「あ、いいえ。 えーと、貴方も…… エリオス様も、ここにいれば良いわ 」


 この時、名を呼ばれただけで、私はある種の衝撃を受けていた。


「名前を聞いても? 」

 一瞬、警戒されたようだが、素直に名前だけは教えてくれた。


「…… イヴァンヌよ 」


(イヴァンヌ…… しっくりとくる名前だ)

 気がつくと、口の中でイヴァンヌの名前を転がして呟いていた。


「イヴァンヌ…… 」


 イヴァンヌは恥ずかしそうして、走って帰ってしまった。


「トニー、すぐにイヴァンヌ嬢の船室番号を調べてくれ 」


「えーー、会ったばかりの令嬢に、ちょっかいを出すだけでは飽き足りませんか? 部屋まで調べるなんて 」


 エリオスは、トニーをギロリと睨んだ。


「はあ、はいはい、分かりましたよ 」


 それから、トニーが持ってきた資料を見ると、

「この船室で、一番の貴賓室じゃ無いか! どこの令嬢だ? クリント侯爵家って…… 確か、昨日のパルムドール王国の晩餐会で宰相だった家だよな? 王家功労の侯爵家として、紹介されたよな…… そこの令嬢か 」


 エリオスは、知らず知らずのうちに自分との家格の釣り合いを考えている事に驚いていた。

(わ、私は何を!?)


 エリオスは、イヴァンヌに、もう少し踏み込んでみたくなった。



 3人で食事をしているところに出向き、気さくに話しかけてみる。


「やあ、また会ったね。イヴァンヌ 」


 イヴァンヌは呼び捨てされた事にも、隣に許可なく座った事にも驚いて、目を剥いていた。


(驚いた顔すらも美しいものだ…… おや、二人のお供は只者では無いようだ…… )


「ああ、待ってくれ。 二人のお付きの女子達は腕に覚えがあるようだね。 私達は、決して怪しい者ではないよ 」


 怪しい者は素直に怪しいとは言わぬか…… はは、我ながら苦しい言い訳だ



 イヴァンヌから

「信じられません」と言われて次の提案を試みる。


「全く可愛い人だ。 ところでイヴァンヌ嬢、今宵私と夜のデートをしませんか?」


「「「はあ?」」」

 女子3人が、一斉に声に出した。


「だよね? 驚くと思うよ。 安心して欲しいと言うしかないが…… 私は正真正銘、イヴァンヌ嬢に手を出したりはしないよ。 先程、甲板の場を譲ってもらったから、私からは満天の星空の特等席をご招待しよう 」


「え? 星空…… 」

 イヴァンヌの顔には、好奇心が溢れている。


(やはりこの提案が良かったか…… あともう一押し)


 お供の二人が静かに嗜める。

「イヴァンヌ様、駄目ですよ 」



「じゃあ、3人で来たら良い。 あの星空を見ないなんて、一生後悔するよ。 約束する、本当に何もしない 」


「エナ、リナ、ごめんね。 私、どうしても星が見てみたい。 この旅で、私は諦めた事を取り戻したいの…… 」


(諦めた事?取り戻す?…… )


 満天の星空に、イヴァンヌは大満足しているようだった。 私の、とっておきの場所だからな。




「わあ〜!!! 凄い!凄い!凄い! この世に…… こんな… こんな美しい場所があるなんて…… 」

 イヴァンヌは、嘘偽りのない感嘆の声を漏らしている。


「ああ、ここは限られた者しか入れないんだ。 気に入った? 」


「悔しいけど…… 」


「ははは、少しは素直になったか。 イヴァンヌと呼び捨てにしても良いかな? 」


「今更?…… でも、この星空のお礼に…… この船旅の間だけは、許してあげるわ」


 エリオスはイヴァンヌに許しを乞う……

 一国の国王が……


(君に名を…… 呼ばれたい…… )


「私の事も、エリオスと呼び捨てにしてくれて構わないよ 」


 だがイヴァンヌは、一筋縄ではいかないようだ。


「じ、じゃあ、そろそろ戻ろうかしら? あはは…… 」


「もう? 堪能できたの? 星空? 」


(まだ帰さないよ…… )


「ここは危ないから、一人にはさせてあげられないんだ。 私も大人しくしていよう。 気が済むまで観ていて、イヴァンヌ 」


 イヴァンヌは、好奇心に勝てず、星空を堪能する事を選んだようだ。


(イヴァンヌを引き止める事が出来た事に、私は安堵しているのか? )


 私はつい、星空を見るフリをしながら、イヴァンヌに目を奪われていた。


(美しい娘だ…… だが、私はどうして…… これ程までにイヴァンヌが気になるのだろう? )


 暫くして

「ほぅ」とイヴァンヌが一息吐いた。


 驚愕した。

(な、なんだ…… )


 溢れる気品が、イヴァンヌに纏わり付いている。

 星空と見紛うほど美しく碧い瞳のイヴァンヌは、私に向き合うと、柔らかに笑ってくれた。


「エリオス…… ありがとうございました」



 ドクンッ!

 私は心臓が、激しくなる鼓動を感じていた。





最後まで読んでいただきありがとうございました。

とても嬉しいです。

明日もエリオスです。

よろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


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そしてこれからの励みになりますので

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