◆ イヴァンヌの王妃然
晴れてイヴァンヌを連れて国民達から祝福されながら城に帰還するエリオス国王陛下。
(やっとイヴァンヌと気持ちを交わす事が出来た!)
嬉しさにエリオスはニヤける顔を我慢することが大変難儀であった。
だがここで失敗してイヴァンヌの機嫌を損ねる訳にはいかない。
(今度こそ慎重に・・・
慎重に・・・
慎重に・・・)
この言葉がエリオスの一生の格言になるとも知らず心で唱える。
エリオスの侍従はエナとリナに付き添い城に入った。
イヴァンヌとエナとリナも客間に通された。
一通り荷物の運び入れが終わると部屋には三人きりになる。
するとエナが口を開いた。
「イヴァンヌ様、私とリナはここでお別れになります。一週間近くお一人にしてしまいますがご実家より至急侍女の手配をお頼みしますので」
イヴァンヌは思いがけないエナの提案に驚いて
「えっ?帰ってしまうの・・・」
不安そうな顔を隠さない。
「私達はポートリアの暗部の者です。セダム国王にバレてしまっては国の協定でこのセダムにいつまでも滞在する事は叶いません。三日間の猶予はもらいましたがイヴァンヌ様は国王陛下の庇護に入りましたので安心です。
それに我が国も近いうちに事が動きます。
どうか私達を帰らせてくださいませ」
リナも続けて話す。
「イヴァンヌ様、寧ろ今はこのセダムにいる方が安全ですから侍女達が来るまで大人しく待っていてくださいね」とニッコリ笑った。
イヴァンヌはこの船旅を通して二人の事が良く分かるようになっていた。
大好きになった二人の顔にはある種の覚悟が見える・・・
(なぜ?)
イヴァンヌはエナとリナの腕を掴んで突如懇願した。
「駄目よ!?何故だろ?何故だか分からないけど・・・今、貴方達を帰す訳にはいけない気がするの!お願い帰らないで!」
だが二人はイヴァンヌに譲る気持ちは無いように静かに笑う。
「もうイヴァンヌ様の甘えん坊」
リナが揶揄い半分で軽口を言う。
「エナ、リナも。何を隠しているの?
何故そんな覚悟を決めた顔をしているの?
エナ、リナ答えて!」
イヴァンヌに染み付いた嘗ての王太子妃の心得が蘇る。
--覚悟を持った者の顔・・・それは死を覚悟した者の顔・・・
不吉な知らせの様にイヴァンヌの心臓を痛いほど鳴らすのだ。
コンコン、
もう既に開いている扉に寄りかかりながらエリオスが鳴らした。
「外まで丸聞こえだ。エナとリナはポートリア公爵家の影だったか。幼い頃に拾われたか?」
リナが
「答えなくてはなりませんか?場合によっては自害しますが?」
エリオスが困った顔をして
「待て待て、そうじゃない。私は妃を悲しませたくないのだが?」
「ま、まだ、妃じゃないです!」
ププッ!
エナとリナは笑う。
「笑うのは勝手だが・・・仕方ない。国王命令なら話してくれるか?そうしなければイヴァンヌが納得しないだろ?」
エナが半分諦め気味に・・・まるで説明文でも読むように話し始めた。
「私とリナは元子爵家でした。領地が隣同士で幼い頃からの友達です。
ある日、我が領地でリナの家族と茶会を開いている時に・・・ある貴族の企みで襲撃されたのです。父も母も兄弟も皆殺しにされました。私とリナが隠れていた場所も見つかり殺されそうになったところをポートリア公爵様に助けていただきました」
イヴァンヌは初めて聞いた二人の壮絶な生い立ちが心を締めつけた。
エリオスは
「そうか。それで何故、君たちはそんな悲壮な顔をしているのだ?答えて欲しい」
リナはため息を吐いて
「その時に誓ったのです。エナは大切な人を守るために強くなるって。私は復讐するために強くなると決めたのです・・・これから先は我が王国の問題です。セダム王国には関係ありません」
イヴァンヌを嫌な予感が襲う。
「も、もしかして・・・シンシア様も何か事を起こすの?シンシア様も危ないの!?」
エナはイヴァンヌを見て
「だから私達をパルムドール王国へお返しください。シンシア様の元に」
呆然と立ち尽くすイヴァンヌをエリオスが支える。
「君達は私の侍従を連れて行きなさい。船旅でだいぶ仲良くなったろ?」
二人は一緒に答える。
「「ご冗談を」」
それを聞いた侍従二人はムッとしている。
「冗談では無いよ。二人は私の大切な乳兄弟だよ。どちらも侯爵家嫡男だぞ!・・・
はは、そんな事はどうでも良いか。
二人が君達に寄り添いたいらしいのだ。
腕に覚えもある。
連れて行きなさい」
「私達は自分たちの身は自分で守れます。お心遣いだけで・・・では」
リナが颯爽と荷物を持つと、いつも突っかかってくる侍従のトニーが荷物を奪ってリナの腕を掴んだ。
エナは様子見をするともう一人の冷静な侍従ケントが優しく鞄を持ちエナをエスコートした。
「侍従のお二人さんはセダム国に帰れなくなるかも知れませんよ。どうかお手を離してください」
エナの言葉を聞いてエリオスが今度は国王陛下としての王命を出した。
「私からパルムドール国王に宛てる手紙を託そう。トニーとケント、レディー達のエスコートを頼んだぞ」
手紙を書くまで暫く出発は出来ない。
イヴァンヌは
「私の留学がこんなに早く決まったのもシンシア様が絡んでいるの?もしかしてモアナ様にも何か?」
「・・・はい。イヴァンヌ様の出発と同じ日にモデルとして反対の隣国に婚約者様とご一緒しています。シンシア様はお二人を安全な場所へ逃して最後の決戦となるべく大切な駒を動かしておいでです」
「シンシア様・・・」
イヴァンヌは崩れ落ち両手で顔を覆った。
「シンシア様はイヴァンヌ様とモアナ様の事をとても大切に思っておいでなのです。私達がここまでイヴァンヌ様の事を無事に送り届けたとなれば心より喜んでくださいます」
リナは
「イヴァンヌ様、やっぱり可愛くて優しい王妃様が向いていますね。私はシンシア様の次にイヴァンヌ様の事が好きですよ」
「私も二人が好きよ!
私の最後のお願いを聞いて欲しいの。
どうかシンシア様を守って!・・・
そ、そしてエナもリナも死なないで!
お願い・・・」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
ごめんなさい。明日こそエリオスアンサー編です。
これからもよろしくお願いします。
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