◆ イヴァンヌの屈辱
「お前たちは先程から失礼ではないか!」
もう一人の侍従も重ねて恫喝した。
エリオスは面白がっている。
エナとリナは淡々としていて自分達の侍従を相手にもしないから。
(本当にイヴァンヌはとんだ侍女達を連れたものだ)
イヴァンヌは思いの外、部屋に入るとすぐに意識を取り戻した。
未だエリオスにお姫様抱っこされている異常事態は冷静なイヴァンヌの普通を奪ってしまう。
「な、なんで・・・?おろひてくらしゃい!」
プププと震えながらエリオスはイヴァンヌを解放してくれた。
イヴァンヌは腰が抜けた様にカクカクしながらエナの後ろに隠れた。
みんなは何も喋ろうとしなかったがエリオスは隠れているイヴァンヌに向かって爆弾発言をしてくれた。
「改めて正式な自己紹介をしよう。
私は君たちが向かう隣国のセダム王国の国王エリオス・ブラッドリー・セダムだ。
イヴァンヌも正式に名乗ってくれ」
イヴァンヌは身体の芯まで叩き込まれた挨拶の基本が冷静さを取り戻してくれた。
隠れていたエナからゆっくりと姿を現した。
エリオスの前に優雅に立ち片手でスカートの端を持ち胸に手を当てカーテシーをした。
(やはりただの令嬢では無いか・・・)
「セダム王国・・・国王陛下にご挨拶申し上げます。私・・・パルムドール王国のクリント侯爵家長女イヴァンヌでございます」
エナとリナはイヴァンヌのこれからを思い、やるせない気持ちでいた。
(イヴァンヌ様はやっとご自分の夢を叶えるチャンスだったのに・・・もう国王に捕まってしまうなんて・・・チッ!)
エリオスは二人の侍女達が考えている事なんてお見通しの様だった。
「エナとリナ。悪いがイヴァンヌの服を着替える手伝いが終わったら私の私室に3人で来てくれるかい?」
イヴァンヌもエナとリナも国王陛下の命には従わざるを得ない。
「分かりましたわ」
「はーあ」
「チッ!」
三者三様の返事をした。
最後の『チッ!』には陛下のお付きが睨みを効かした。
それは大きな部屋だった。イヴァンヌがいた特別室なんか霞むほど豪華な作りに三部屋もある続き間であった。
まだ身体の冷えが治まらないイヴァンヌの前にエリオス自らが温かなお茶を出してくれた。
「すぐに呼び立ててすまなかった。お茶でも飲んで暖まってくれ。二人もどうぞ」
イヴァンヌだけが礼を言い後の2人は黙々とお茶を飲み始めた。
3人が口を付けると
「イヴァンヌの口付けはとても甘かった・・・」
「「ぶーーー!」」と一斉に吹き出してしまった3人。
「イヴァンヌ様!口付けしたんですか?」
「このニヤついたやつ・・・じゃなくて陛下と?」
イヴァンヌはエリオスを睨みつけ席を立った。
「陛下の愛は面白い冗談だった様ですね。私は心底・・・ガッカリしました」
そう言って部屋を出てしまった。
エナとリナも続けて部屋を去ろうとしたが
「どちらでも良い。一人は残ってくれ。出来ればエナの方が良いかな」
二人はお互いの目を合わせたがリナがイヴァンヌを追いかけた。
「陛下、私に何を尋ねたいのですか?」
エナを見つめながら
「はは、はははは。
コレは効いたな・・・あの嵐の中で誤想したかと念を入れ確認のつもりでイヴァンヌを怒らせてみたが・・・イヴァンヌの怒った顔を見て・・・初めて人に対して怖れを感じたよ。やはり私はイヴァンヌを本気で愛してしまった様だ」
そんなセリフをしらけた顔で聴いたエナは
「陛下、私は早くイヴァンヌ様の側に戻りたいのです。陛下の愛の告白は私に向けてするべきものではありませんよね?」
「そうだね。では、聞こう・・・イヴァンヌは初めての口付けだと言った。何故あれ程の令嬢が未だ婚約者もいないのだ?おまけに君たちは暗部の者か?」
流石はニヤけていても国王か・・・
「全てを詳らかにはお話出来ませんが事実だけを言うならばイヴァンヌ様は我が王国の王太子様の元婚約者でございました・・・あの(馬鹿)ボソッ・・・王太子が婚約破棄と申したにもかかわらず何を血迷ったのか先日、王太子妃試験を再度行わせました。イヴァンヌ様はご自身で辞退されましたが父君が新たに持って来ようとした縁談話が嫌で危うくの所を隣国に逃げ・・・ゴホン、語学留学をする事にされたのです」
「ククク・・・所々は聞かなかった事にしよう。イヴァンヌは王太子に未練は無いのか?」
キッパリと
「全く無いですね」
「そうか・・・悪いが語学留学を、では無く永久に私の元に閉じ込めさせてもらうよ・・・悪いついでに他国の暗部は我が国に留め置く事は出来ない。エナとリナはセダムの港に着いても船から下ろす事は出来ない。そのまま国に帰ってくれ」
「それでは・・・イヴァンヌ様のお守りが出来ません。お断りいたします」
「本当に君たちは凄いよ。分かったよ。我が国には3日だけの滞在としてもらう。その間にイヴァンヌは私の手に落としてみせるから」
「私としてはお手並み拝見としか言えません。くれぐれもイヴァンヌ様を傷つける真似はおやめくださいませ」
「分かっている。まずは謝るのが先だな」
エリオスは話がついたと急いでイヴァンヌを追いかけた。
「チッ」
エナの口から悔しさが込み上げた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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また明日もイヴァンヌで
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