◆ イヴァンヌの初めての口づけ
満天の星空を見た後からイヴァンヌとエリオス達は穏やかに挨拶や食事やらをする仲になった。
1週間の船旅も残すところ後2日。
リナは船内のランドリールームにいてエナは繕い物をしていた。
「ねえ、エナ。なんだかあと2日でこの船旅も終わると思うと少し淋しいわね」
エナはチクチクと正確な動きを繰り返して目線を動かさないまま答える。
「イヴァンヌ様は船旅が終わるのが淋しいのでしょうか?それともエリオス様と別れるのが淋しいのでしょうか?」
イヴァンヌはガタッと椅子から立ち上がりアワアワと口元が心許ない状態になっている。
「エ、エナ・・・それは違うのではないかしら?」
チクチクしていたはずの手を止めてエナはイヴァンヌを見つめた。
「イヴァンヌ様は分かりやすいですね」
目を合わせるイヴァンヌはみるみるうちに顔が真っ赤に染まる。
「そんな、エナ・・・いけないわよ。いくらなんでも早すぎるでしょ!これが、まさか・・・」
時にまさかの嵐が襲って来ようとしていた。
今まで快適だった船旅が嘘のように向かう先の空は鼠色の雷雲を連れて来ていた。
船室の中が一瞬明るくなったと思ったら
ドッゴーンと激しい雷鳴を轟かせた。
「きゃー!」
あっという間に暴風が吹き荒れ船が激しく揺れ左右に大きく傾く事を繰り返す。
「まだリナが戻っていないわ。探してくるわ!」
エナがイヴァンヌを止める。
「いけません、イヴァンヌ様!リナは自分で判断して帰ってきます!」
突然の激しい突風が扉を開け放った!
扉のそばにいたイヴァンヌは外に投げ出される。
「駄目!落ちる!」
イヴァンヌは咄嗟に声が漏れおもわず目を閉じてしまう。
しかしエリオスが腕をガッツリと掴んでは自分の胸元に引き寄せた。
「俺に掴まっていろ」
いつものような軽薄な口調じゃ無かった。
それはまるで高貴な身分のよう・・・
ガタガタと震えながらイヴァンヌはエリオスに言われた通りその胸に抱かれながら背中に腕を回していた。
船の揺れは激しく護衛侍女のエナは立っていられなかった。
イヴァンヌを抱くエリオスも足元の揺れが激しく崩れるバランスを取る度に場所がズレてゆく。
一旦は部屋に戻る選択を諦めて海に落ちないようにズルズルと揺れに任せて場所を変えた。
イヴァンヌは心配の余りエリオスに大声をかけた。
「リナが!まだ戻っていないの!」
エリオスはお付きのものにリナを探すよう指示をだした。
エリオスは船上の海風が吹き荒れ揺れが激しさを増したので急いで自分とイヴァンヌを甲板に落ちていた縄で船の帆柱にぐるぐると巻きつけた。
「大丈夫か、イヴァンヌ」
イヴァンヌの結んでいた美しい黄金の髪は激しい雨風に解けてしまう。
エリオスの前で広がるイヴァンヌの黄金色の髪。
エリオスは思わず息を呑んだ。
だがそれも直ぐにずっしりと雨を含んでイヴァンヌの肌にこびりつく。
イヴァンヌの潤んだサファイアの瞳はエリオスのすぐ目の前にある。
ぐるぐる巻きに巻かれ抱き合う二人の体温も近い。
かかる息がやけに熱い・・・
エリオスはイヴァンヌをより一層強く抱きしめる。
(イヴァンヌ・・・)
エリオスは生まれて初めて感じる熱い心を受け止めていた。
(ああ、俺はやはりお前を・・・そうか?そうなのか?)
イヴァンヌは二人で結ばれた縄の中・・・じゃなくてエリオスの胸に抱かれて安心している自分にびっくりしていた。
(ダンスでもないのに殿方の腕の中にいるなんて・・・)
イヴァンヌが顔を上げると余りに近いエリオスのライラックの瞳・・・。
ドクッン・・・ドクッン・・・
(心臓の音がバレちゃう)
こんなに周りは嵐で大事になっているのに・・・二人はお互いの目を離せなかった。
--二人の周りだけがやけに静かだった
「イヴァンヌ・・・」
エリオスがイヴァンヌの唇にそっと唇を合わせた。
「ん・・・」
イヴァンヌはパチリと固まった。
「くっ!・・・
な、何を!・・・
は、は、初めての口づけ・・・なのに・・・」
嵐の大雨のせいで身体は冷えているはずなのに、火照る頬も身体中が染まる色も隠せないでいる。
そんなイヴァンヌに優しい笑みでエリオスが囁いた。
「人が恋に落ちる時に・・・時間も場所も何も関係ないのだと知った・・・
イヴァンヌ・・・
イヴァンヌに私の愛を捧げよう」
突然のエリオスの愛の囁きはイヴァンヌには酷だった。
「へ?」
イヴァンヌはハクハクして言いたい事が山ほどあったはずなのにキャパオーバーで意識を手放してしまった。
「クスッ、本当に可愛い人だ・・・」
船底のランドリールームで油を売っていたリナを見つけた侍従は何とか陛下の前に連れてきた。
「あ、イヴァンヌ様!何故この男とぐるぐる巻きにされているのです?」
「陛下、どうされますか?」
エリオスは
「俺がイヴァンヌを部屋まで連れて行くよ」
「チッ、陛下って・・・」リナの舌打ちはハッキリと聞こえていた事だろう。
意識を失ったイヴァンヌをお姫様抱っこで抱えてきたエリオスに向かって・・・
「仕方が無いので部屋までお願いします」とリナは素気無く言い放った。
部屋に入る早々、リナがエナに向かい「陛下だって」と一言漏らすと
「チッ!」と今度はエナの舌打ちが聞こえた。
エリオスの侍従が声を荒げる。
「おい、お前たち!先程から陛下に向かって
『チッ!』って何なのだ!」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
とても嬉しいです。
明日もイヴァンヌです。
これからもよろしくお願いします。
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