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◆ シンシアの画策とリリアンの企み  ~ここから現在へ


 二度目の王太子妃選定試験の後、候補を断ったすぐ後から、シンシア達は『婚約者を決めろ』作戦を遂行していた。


 イヴァンヌとモアナ達には知られず、この王国から(のが)す事が出来るように両侯爵家とは話が付いていた。


 シンシアの真摯な提案は、両侯爵家の母親達に受け入れられ(たちま)ち協力を得る事が出来たのだった。

 何より自分達の愛する娘を守る為だ、そりゃ協力も惜しまないだろう。


 どこでまたアンドリューと婚約をさせられ今度こそヨーク公爵が伸ばす魔の手に落ちるかもしれないと危ぶまれたのだから。


 本来ならヨーク公爵ですら、建国当初から永年に渡りパルムドール王国を支えた二代侯爵家に手出しは出来ないはずなのだ。

 しかし、その娘達なら力技で手折れさせる事が出来てしまうかも知れない。

 

(暗部の訓練を積んだ私とは違い、力技では流石にイヴァンヌ様やモアナ様も敵わないわ。 絶対に…… 大好きな親友達に手出しはさせないわ!)



 精神的に疲弊していたシンシアは、エドを待つ僅かな間も、これからの事に考えを巡らせていた。


 アンドリューがリリアンをどう待遇して、またどう接するかによって対応が変わってゆくだろう。


 シンシアはこのまま行けば、自分が考えたシナリオの中で、一番良くない方向へと転がって行きそうだと、やりきれない悲しい気持ちが襲ってきていた。


(陛下も…… こんなお気持ちだったのかしら…… 陛下は血の繋がらない、アンドリューを捨てる覚悟が…… まだ、出来ていない気がするけど )


 果たして王家の血を継がないアンドリューに、厳しい処罰は適当なのか。

 だが反面、甘い生活を甘受し続けていた者として己の欲と本能だけで生きたアンドリューには相応の報いは仕方がないのかも知れない……


 シンシアは想像以上に(したた)かだったリリアンの行く末も考えていた。


あの娘(リリアン)が一番に恐れている場所、『赤の館』へ行く事になりそうだけど…… )


 通称『赤の館』は、法の者も立ち入れない不可侵の場所だった。

 ポートリア公爵家でも、余程の事がない限りは放置している場所。 


(リリアンは、あの館の恐ろしさを一番知っているはずなのに。 自分で自分の首を絞める真似は出来ないと思いたかったわ。

 アウレオおじ様が偶然に捕まえてそれから今回の策戦が練られた。 何度もリリアン次第で、策戦変更も考えたけど…… こうも思い通りに動いてくれるなんて )


 不思議とシンシアは、リリアンが改心して一生懸命に働き、アンドリューには目もくれないで欲しいと、心の片隅では思っていた。


 それでも人は愚かなのである……


 罠があると疑っていても、目の前の宝に手を伸ばさずにはいられないのだろう。


 リリアンの強かさは筋金入りだった。


「シア…… 」

 エドがシンシアの待つ部屋に入ると、早速これからのアンドリューの動きを考じ、策戦の(ねじ)れが無いかを詰め始めた。



 リリアンはあれから、直ぐにアンドリューの目の前にある部屋を与えられると、華やかなドレスに身を包みメイドの役目すら免除されていた。



 アンドリューはノックもせず部屋に入ると、リリアンを抱きしめた。 リリアンも頬を染めながら、俯き加減にアンドリューの身体にしな垂れかかる。


(はあ、この王子(ぼうや)ったらあれから何日も経つのに、私に手を出さないなんて。 これだから王子(ガキ)は面倒臭いのよね )


 そう思われてるとも知らないアンドリューは、リリアンに王子スマイルを投げかける。


「リリアン、おいで。 天気が良いから庭園でも行こう 」

 アンドリューに連れられ、肩を抱かれながら庭園を散歩をする。


 内心とは裏腹のリリアンは、満面の笑みをアンドリューに向けてトーンの高い声で可愛く話した。 コテンと小首を傾げながら

「アンドリュー様、お城のお庭は広いですね」


 アンドリューは肩を抱くリリアンに優しく問いかける。


「リリアンは疲れたかい?」

「いいえ、アンドリュー様と一緒なら私、平気です! 楽しいです 」


「そうか、私も…… 楽しいぞ 」

 初々しく顔を赤らめるアンドリューに、内心イラつくリリアンだが、勿論顔には出さない。


「でも私…… もっと、アンドリュー様のお側に居たいし…… 離れたくないです 」


「リリアン…… 私もだ…… 」



 だがそこで、()()シンシアとアンドリュー付き側近侍従のエドが、庭師と共に花を摘んでいたところに出くわした。


 アンドリューの動きがピクッとする。

 その目は無意識にシンシアを追っていた。

 そして薄らと頬に赤みが刺して、ボーと無意識にシンシアを眺めている。


(チッ! 何なの? この王子(ぼうや)は完全にあの娘に気があるじゃない!

 あら? でも王子(ぼうや)はまだ、自分の気持ちにすら気づいていないなんて!? )


 リリアンは一瞬うっすらと笑たが、直ぐに笑みを消し、そっとアンドリューの袖を引っ張って、淋しげに話しかけた。


「アンドリュー様は、私といてもつまらないですか?」


 ハッとして、すぐにリリアンの手を握るアンドリュー。

「なぜその様な事を…… 私は、リリアンが好きだよ。 母に似たリリアンといる事が、私の幸せだと言うのに…… 」


 アンドリューはリリアンを見つめているが、今しがた向けていたシンシアへの熱視線には遠く及ばない。


「アンドリュー様…… 」


(不味いわね…… このマザコン坊や。

 先に手を打たないと駄目ね…… )


 リリアンは、胸に抱いた禍々しい考えを実行に移す事を考えていた。


(金の卵よ? あんな娘に渡す訳ないじゃない )



 その様子を、シンシアとエドは察知して静かに頷き合ったのだった。


--リリアンが動きそうだ……



 たった数日の後だった。

 それは国王陛下が、内密に視察から帰ってくる2日前の事だった。



 盗みで人の家に忍び込んだ前科のあるリリアンは、王太子アンドリューの部屋の前にいた。

 深夜、護衛の交代時間を把握したリリアンは、その隙にと鍵穴に細い金属を差しこんで、ガチャリと開けると、さっさと部屋に忍び込んだ。


 アンドリューはベッドで、静かに寝息をたてている。


 リリアンは一度、舌舐めずりをすると幼気な声を出した。


「アンドリュー様…… 」


 アンドリューは目を覚まし、意識がハッキリするとリリアンがいた事に驚いていた。


「どうした? 何故君がここに? 」


「アンドリュー様…… 私…… なんだか怖くて…… 眠れないから廊下に出たの…… なのに、誰もいなくて…… それで、アンドリュー様に声をかけようとしたら…… ドアの鍵が開いていたから…… 」


 リリアンは不安げに、身体を小さく震わせてアンドリューの胸に飛び込んだ。

 アンドリューは自分の身体にすっぽり収まる、小さなリリアンを優しく抱きしめた。


「そうか、リリアン。 もう大丈夫だ…… 私がいる。 リリアンの部屋まで送ろう」


 リリアンはフルフルと首を振り

「い、いやいや! 私…… アンドリュー様と一緒にいたいの…… 良いでしょ? アンドリュー様…… 」


 リリアンはゆっくりと目を閉じ、アンドリューの口元へ顔を近づけた。


 アンドリューも自然とリリアンの口元に自身の唇を触れさせていた。


 リリアンは唇をそっと外すと、再びアンドリューに抱きついた。


(この坊や、意外と身体を鍛えているのね…… ふふ、今夜は、楽しませて貰うとするわ)


 リリアンの寝衣は薄く、既に着崩れていてアンドリューの目の前には美しい肢体が、細く絞ったランプの光でも映っていた。



 アンドリューの目にはリリアンの肢体が余す事なく、晒されて見えてしまっていた。

 リリアンは恥ずかしそうにしながらも、はだけた胸も隠さず、腰紐だけでやっと身に付いている夜衣でウルウルと揺れる瞳でアンドリューに迫っていた。

「アンドリュー様…… 」


 アンドリューの喉がゴクリと鳴った。


「リ、リリアン、その…… 君は美しいよ。

どうか、私のものになってくれるか? 」


(やっと、その気になったのね…… )


「私のアンドリュー様…… 私の全てを、アンドリュー様にお捧げします。 私…… 嬉しいです 」

 

 リリアンの身体に残った寝衣を、慣れない手付きでそそくさと脱がすと、アンドリューはリリアンに口付けを落とした。


「んん…… 」

 リリアンの腕が、アンドリューの首に纏わりつくと、突如として寝室が明るく照らされたのだ。


 エドの冷たい声が寝室に響いた。


「アンドリュー、そこまでだ! 」


 アンドリューとリリアンが、突然の事に固まり茫然としていると、部屋には兵士達が雪崩れ込んできた。


 そしてアンドリューとリリアンを、エドと城の兵士が取り囲んでいる。


「急いで済ませろ! アンドリューは監禁部屋へ! リリアンは地下牢へ捕らえよ! 二人の監禁は伏せておけ! 」


「「はっ!」」


 城の兵士は、アンドリューは連行しようとしリリアンには縄をかけ始めた。


「待て!! 待つのだ! 何故だ!? 何故エドの言う事を聞くのだ!? 私は王太子だぞ! 」


 誰もアンドリューの言う事に、耳を傾ける事は無かった。

 アンドリューは混乱していた。

(何故だ!? 何がどうなってるのだ? )


 晒された肌の上から、縄が巻かれお情けのガウンをスポッと掛けられるだけのリリアン。

(ちっ!しくじった? でも、ただキスをしただけだし? 全部この王子のせいにすれば良いわ! )

  

 リリアンは苦々しく顔を歪めつつも、自分を擁護する嘘を必死に考えていた。


 そんな様子を一人の男が、誰にも気づかれる事無く覗いているようだが。



 流石のシンシアもアンドリュー達の痴態は見られないと、部屋へは入らず廊下で待っていた。 そこへ、大捕物を終えたエドがやって来る。


「シア、二人の監禁は成功したね。 箝口令を敷いたから、当面はヨーク公爵達に気付かれる心配は無いよ。 あと2日で、陛下も視察から帰られるから、丁度良いタイミングだったね 」


 シンシアも笑顔で頷き

「陛下が王城に入られる前に、影達から事の成り行きを聞いてもらいましょう 」


 エドはシアの頬に手を触れ、赤い目元で見つめていた。

「はあ、流石に寝床の痴態は刺激が強いな。

 俺…… 頑張れ」


「そ、そうね。頑張って…… ね?」


 ガックリと頭を下げて、エドが項垂れていると


「それにしても、一人。厄介な方が覗いていたようだけど…… 」


「シアも気付いた? 奴はアウデオ様と取引をしたんだ 」


 シンシアは、覗いていた相手が誰であるか分かり苦笑いをした。

(確か、ブラウンと言ったかしら…… 執着も愛の形の一つなのでしょうけど )



 しかし今はそれどころでは無い。

 シンシアは考えを巡らせた。


(国王陛下とお約束した、ヨーク公爵とマリアンから隔離する為に、先ずはアンドリュー達を監禁出来たわ。 イヴァンヌ様とモアナ様に他国へ逃げていただく手配も済んだ。

 後はもう…… 陛下が戻り、側妃マリアンとヨーク公爵が接近したら…… )



 だがこの時は、流石のシンシアですら読みきれない事があった。


 大親友のイヴァンヌとモアナの実力はシンシアが思っていた想像以上に凄かったということを……



 助けたつもりが助けられるとは……








最後まで読んでいただきありがとうございました。

アンドリューのツケはこんなものではありません。

明日からはイヴァンヌ編です。

よろしくお願いします。

楽しく読んでいただけるように頑張ります。


よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。


そしてこれからの励みになりますので

面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して

いただければ幸いです。

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