◆ 気づかなかった初恋と実父の正体
なんだかんだとシンシアとの婚約期間を半年も送ってしまった。
シンシアは母上とは対照的な女だった。
美しさ以外は逆に欠点がない・・・
でも可愛げもない
私に意見をしてくる何様なのだ!
アンドリューは城の図書庫で調べ物をしようと出向くことにした。
だが中でシンシアが大量の本に囲まれて机に突っ伏して小さな寝息をたてていた。
窓から差す光に銀色の髪が反射して屈折する様はまるでプリズムみたいに書庫を照らしていた。
アンドリューも流石に・・・・・・
素直に美しいと思ってしまった・・・
眠るシンシアに近づいてそっと髪に触れてしまう。
(柔らかい・・・)
その手は無意識に頬へと伸ばしたところで後ろから声が掛かった。
「アンドリュー様、何をしているのです?」
エドの鋭い声に眠っていたシンシアも目覚め自分のすぐ目の前にあるアンドリューの手を見て驚きを隠せないでいた。
アンドリューは気まずくなってシンシアを怒鳴った。
「お、お前は美しくも無いのに努力もしないのか?本を読んで寝ているなど情けなく無いのか!」
シンシアは暗部の仕事とは別に連日の王太子妃教育の疲れをほんの少し紛らわせていただけだ。
悔しそうにクッと唇を噛み
「失礼しました。それでは私はこれで・・・」
何とかそれだけを言うと書庫を後にした。
その後をエドがついてきたとも知らないで。
シンシアは今にも落ちそうな涙を耐えて庭園へと早足で向かった。
だがしばらく歩くと気配を感じる。
(後ろから誰か付いてくる?えっ?・・・)
シンシアは戸惑っていた。
それはエドだったから。
泣きたかったからそっとしておいて欲しかったのに・・・
何で今ついて来るのよ。
この半年はアンドリューや城の者達に知り合いだとバレないよう気を張って・・・
ずっと我慢していたのに・・・。
「シア・・・」
シンシアは木立の陰に身を隠し立ち止まった。
「エド・・・どうして?・・・」
「シアを迎えに来たんだ」
「どうして今なの?私はもうアンドリュー王太子の婚約者になってしまったわ」
シンシアの瞳は艶めく色をなくし沈んでいる心をありありと映していた。
エドはシンシアの腕を掴み王城庭園にあるドームのように誘引された蔓薔薇に身を隠した。
「ここだと誰に見られる事も無いよ。今はシアの思いを聞かせて欲しい」
エドワードはシンシアの頬を両手で包み励ますように声をかける。
「シア、俺と交わした約束を覚えているかい?」
忘れる訳が無い・・・
「エドを信じて待つ・・・て、約束・・・勿論覚えているわ・・・
でも私はもう・・・」
エドはシンシアの揺れる瞳から溢れた涙を突然舐めた。
「ふぇ?・・・エド!何をするの!」
「ははは、やっと元気が出た」
シンシアは急いでエドから離れて自分の目元をゴシゴシ拭いた。
「シア、可愛い・・・食べちゃいたいくらい可愛いよ」
シンシアはいつもなら冷静沈着なエドの突然の行動に驚きを隠せないでいた。
「な、なんか、いつものエドと違う・・・」
エドワードはシンシアを愛おしげに見つめる。
「シアを前にして冷静でいたことなんて一度も無いよ。
本当はいつだってシアに触れていたかったしアンドリューの隣にシアがいることが許せなかった・・・
シアをもう誰にも触れさせはしない・・・
シアの隣は永遠に俺だけのものだ」
シンシアは嬉しくてニヤけてしまいそうになるのを我慢してエドワードにボソリと呟く。
「エドってこんなに嫉妬深かったかしら?」
「今ごろ?・・・ずっとシアを愛していたんだ。嫉妬もするさ」
「愛してたって・・・
エド、私・・・・・・」
すんなりと心の芯までエドの言葉が沁み込んでくる・・・
「・・・私もエドを・・・愛している・・・・・・」
シンシアは自然と口にした告白の重さを震えながら受け止めていた。今はエドが本当の王太子だと知っているから。
「シア、上出来だよ。ポートリア公爵から俺のことを聞いただろう?俺の立場を抜きにしてもシアの本当の気持ちを聞きたかった・・・」
エドはシンシアの髪にキスを落として首筋にそっと顔をうずめた。
「俺・・・シアの香りが好きだ。落ち着くんだ・・・昔から」
シンシアもエドの香りが好きだった。
そっと躊躇いがちにエドの頭を抱きしめて
「私も・・・エドの香りが好きよ・・・安心する・・・」
突然、草を踏みつけるガサっとした音が聞こえた。
シンシアとエドは即座に臨戦体制になった。
蔦薔薇の中に人がいるとは思わなかったのか声まで聞こえて来た。
「ああ、ちくしょう。何で夜番がこんなに多いんだよ。おっと」
声の主は手元から手帳に挟んでいたペンを落とした。
シンシアとエドはビクッとしたが落とした物を拾う手元を蔦薔薇の隙間からしっかりと見ていた。
シンシアはみるみるうちに目元が見開き背中に衝撃が走った。
(あの手はアンドリュー様?・・・じゃない!でも!)
シンシアの突然の様子に異変を感じてエドワードもペンの拾い主の手を凝視した。
そして気づく。
声の主はマリアンと一番長く付き合っていた伯爵家三男の確かヨゼフ・・・今はこの城で二等騎士として働いている。
未だにマリアンの寝室に向かう事は報告でも受けている。
ペンを拾うと欠伸をかきながらヨゼフが歩き出した。
遠くへ離れた事を見定めてシンシアとエドワードは確認するかの様に呟いた。
「あの手はまさにアンドリューじゃないか・・・」
「ええ、特徴的な身体的遺伝だわ。人より長い薬指と小指・・・アンドリュー様はヨーク公爵の血縁ではないし・・・王家の血は全く継いでいなかった・・・」
また一つ、新たに見つけた証拠をエドは急いで国王陛下にシンシアはポートリアの暗部へ報告に向かった。
その頃、アンドリューはシンシアの去った図書庫でイライラとしていた。
シンシアの髪に触れた自分の手を見つめよく分からない感情に心が乱されていた。
(何故、もう少し触っていたかったと思ったのだ?)
そんな分からない感情に振り回される事が許せなかったアンドリューは次の日にシンシアを呼び出した。
そして
「お前は母上のように美しくない!おまけに生意気だ。美しくないお前を迎えては私の子が美しくなる訳が無い。よって・・・婚約破棄とする!」
アンドリューは初めて婚約破棄をしても良いのか?と小さな疑問が心を掠めた。
でも口にしてしまった。
もう覆せない。
シンシアはこの上なく美しい満面の笑みを浮かべた。
(な、なぜ?そのような笑みを・・・?)
アンドリューは心の一部が引っかかれるような感覚を味わった。
シンシアは佳麗なカーテシーをして
「婚約破棄、謹んでお受けいたします」と話せば颯爽とその場を後にしたのだった。
「あっ・・・」
シンシアが出て行った扉を見つめながらアンドリューは拳を握りしめていた。
それを忌々しい気持ちで見つめるエドが側にいたというのに。
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