◆ 二度の婚約破棄と側近侍従エド
アンドリューは着実に勉学も剣術も自身の身の糧になっていった。
自信に溢れ周りが傅く事も当たり前の事だと思っている。
15歳の昼下がり、少し空いた時間を持て余していると自分付きの侍女から庭園の散歩に行けばどうかと提案された。
アンドリューの足は自然と庭園の四阿に向かっていた。
(なんだ、母上はいないのか・・・)
四阿にいてもつまらないので帰ろうとすると五人の令嬢がアンドリューの前に現れ取り囲んできた。
どの娘も頬を染めキラキラとした瞳でアンドリューを見つめている。
アンドリューはこのような視線にも慣れたもので特段に驚くことも無かった。
もうこの時にはアンドリューの内面を母達の影響が色濃い影を落としていた。
心の中で令嬢達に点数をつけていく。
(なんだ・・・どの娘も30点以下で大したこともないな)
そんな事を思いながらも拙い王室の仮面を被り笑顔で対応する。
「私に何か用ですか?」
「きゃっ!声まで素敵です!」
「私達、ずっとアンドリュー様とお話ししたかったのです」
「でもアンドリュー様お可哀想です!あんな年増の婚約者なんて!あのイヴァンヌにはアンドリュー様が勿体無いです!」
「そうですわ!アンドリュー様は私達の憧れなのです!」
気にも留めなかった令嬢達の発言がアンドリューの琴線に触れた。
「私が・・・勿体無いのか?」
「はい!アンドリュー様にはお母上様の様な美しい方が相応しいですわ!」
アンドリューはまたもや母の事が話題に上り美しさの基準が確信に変わる。
(やはり母上に似ていないイヴァンヌは婚約者として相応しく無い・・・)
それからアンドリューはイヴァンヌを城に呼び出した。
薔薇の咲き乱れる温室で用意された紅茶が冷める間も無く3年もの縁が結ばれていたイヴァンヌに冷たく言い放った。
「お前は美しくない。
私の隣には母上の様な美しい人だけが相応しいのだ。よってお前とは婚約破棄する!」
例え父王の許可を得なくても王太子の発言は軽いものではない。
イヴァンヌは最近目線が上になったアンドリューを見つめ表情も崩さなかった。
「賜りました」と一言発すると優雅に城を後にした。
そのすぐ後に国王の執務室にマリアンと共に呼ばれたアンドリュー。
アンドリューは怒りの形相の父王に頬を叩かれた。
「お前は王家の約束をなんだと思っている?そんなに軽々しいものではないのだぞ!」
父王に叱られるのは二度目・・・。
マリアンはオドオドして止めに入るか悩んでいる。
「ち、父王・・・イヴァンヌ嬢は私に相応しくありません・・・好みではないのです・・・」
父王は反発したアンドリューに精神面でもマリアン達の影響下に置かれた事を察した。
(この子の側にもっと目を置かなくてはならないが・・・)
「アンドリュー、部屋に戻って反省しなさい」
アンドリューは思っていたより父王が叱らなかった事に安堵した。それと同時に
(こんなものか・・・何故、今まであんなに恐れていたのか・・・)
母やヨーク公爵達から幼い時から植え付けられていた傲慢の種が心に少しずつ積み上がりすくすくと育っていた。
国王カエレムは至急、側近の一人であったリッチ侯爵の息女モアナに白羽の矢を立てた。
リッチ侯爵家は奥方の力が巨大だ。
なんとかヨーク公爵から切り離しアンドリューが降下しても守られると思ったのだ。
(確かアンドリューと同じ年のはずだ・・・モアナ嬢もしっかりした子だと聞く・・・今度こそ周りを見るのだ、自分を諌めてくれる者の声を聞くのだ!アンドリューよ)
アンドリューが部屋に戻ると一足先に戻ったマリアンと新たにヨーク公爵がいた。
「アンドリュー、陛下は酷いです。あなたの気持ちを少しも分かってないわ。母はあなたの気持ちを尊重しますわ」
ヨーク公爵もアンドリューがクリント侯爵の縁を切った事に内心ほくそ笑んでいた。
(目障りな奴を自分から切ってくれた)
「アンドリュー王太子、私があなたの後ろ盾になりましょう。存分に思うようにお過ごしください。まだ充分お若いのです」
「アンドリュー、ヨーク公爵は国王陛下の叔父様ですもの。安心出来るわね」
マリアンの言葉にアンドリューも大きな安心感を得た。
それから数ヶ月後にアンドリューにまたしても婚約の話が上った。
「なんなのだ!今度はリッチ侯爵家の娘だと?」
アンドリューはイライラと話を持ってきた侍従に怒鳴りつけた。
「アンドリュー様、陛下の心を図ってください。陛下の意図を汲むのです」
だがアンドリューはすぐさま侍従を部屋から下がらせた。
マリアンとヨーク公爵がアンドリューを訪ねてくる。
「陛下は何故、婚約破棄したばかりで心が落ち着かないアンドリューを虐めるように婚約させたがるのでしょう?」
「父王が私を・・・虐めているのですか?」
ヨーク公爵はリッチ侯爵奥方の後ろ盾が面倒であると考えた。
(これも潰さなくていけないが・・・)
アンドリューが呟く。
「例え父王が誰を連れて来ても母上のように美しくなければ私は婚約などしません!」
ヨーク公爵の笑みが深くなる。
(確か・・・あの娘は小デブの様な容姿だったはず・・・ククク)
ヨーク公爵の読み通りアンドリューは婚約の調印後すぐ会ったばかりのモアナに暴言を浴びせた。
「こんなデブは嫌だ!」と。
これが父王に見放されるキッカケになったとはアンドリューは夢にも思わなかっただろう。
「父王は懲りずに・・・また婚約者の名を挙げた。ポートリア公爵家のシンシアだって?」
そんなある日、父王から謁見の場に呼ばれた。
忙しい父王と会うのは何時ぶりか・・・
また公務で城を空ける事になっているはずだが。
父王の隣でカラスの様な真っ暗な髪色が目元を隠した背の高い男が立っていた。
私が到着するや否や父王が口を開いた。
「アンドリュー、この男はエドと言う。お前より3つ上で今日からお前の侍従として働く事になった。口が悪いのは私が許可した。お前はエドの言う進言は必ず守る様に。以上だ」
「父王、私が侍従の言う事を聞いて守るのですか?」
国王はアンドリューを睨みつけた。
「お前は私の言う事が聞けないのか?」
アンドリューは父王の顔色を見て何も言い返せなかった。
「いえ、エドよろしく」
エドは父王から離れアンドリューを一瞥して礼をした。
アンドリューは一瞬、得体の知れない恐怖が身体を包んだ気がした。
エドは確かに口が悪いが仕事が出来る。それにアンドリューの命令は聞くのだ。
(なんだ。父王が大袈裟に言うからどうかと思ったがエドは唯の口が悪い侍従なだけでは無いか・・・)
まだ父王には逆らえない。
エドの口の悪さは我慢すれば良い。
いずれ自分が国王になったらエドを追い出せば良いのだから。
それから一週間後、ポートリア公爵家シンシアと婚約調印をした。
薔薇の間で待っていると聞いた。
アンドリューは最近、婚約破棄したモアナを思い出して重たい足で部屋の扉を開けた。
(うっ!・・・これは美しいのか?青みがかった銀髪に神秘的な赤い瞳・・・)
だがこの女は生意気だった。
父王がいない時に婚約破棄したら今度こそまずいか・・・
アンドリューは仕方なく暫く様子を見る事にした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
あと一話は一時間後です。
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