◆ アンドリューの間違った美意識が出来るまで
アンドリューは父王の執務室から帰るなりフラフラとベッドに倒れ込んだ。
「うっ・・・ぅっ・・・」
枕を抱えて泣いていた。
--父王に初めて強く怒られた
勉強も剣術も頑張っていた。いつもなら褒められる事ばかりで怒られる事など頭に無かった。
一国の王が怒る迫力に小さな心が折れそうだった。
いつまでも父王の言葉が頭の中で繰り返される。
「て・・・手紙・・・書かなくては・・・」
溢れる涙を拭いて机に向かって謝罪の手紙を書いた。
生まれて初めて書いた謝罪文。
(これで良いのか?)
部屋の隅で今まで黙っていたアンドリュー付きの侍女が様子を見ていた。
残念ながらこの侍女にもヨーク公爵の息が掛かっている。
遠慮がちに侍女が声をかけてきた。
「アンドリュー様・・・あまりハッキリと謝罪を書かれては権威が落ちてしまいますわ。やんわりとで充分です」
アンドリューは不安げに自分が書いた手紙を侍女に見せた。
渡された手紙見て侍女は眉間に皺を寄せる。
「やはり・・・アンドリュー様。私が申します文面を手紙に認めてくださいませ」
謝罪文すら書いた事が無いアンドリューはホッとして侍女の言葉を借りて手紙を書いた。
その夜、アンドリューから届いた手紙を手にしてイヴァンヌはプルプルと震えていた。
父のクリント侯爵は苦笑いを浮かべて
「まーまー、まだアンドリュー様も幼いから仕方がないではないか。
兎角、女子より男子の方が幼いのだ。
手紙がくるだけ立派なものだ。
イヴァンヌはもう婚約者なのだから年下のアンドリュー様をゆっくり指導していけば良い」
イヴァンヌは顕示欲の塊の父を見ながらアンドリューの手紙の文面を声に出して読んだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
イヴァンヌ嬢。
幾ら私に悪いところがあったにせよ、年上の貴女にもう少し配慮があっても良かったのでは?怒って帰るのは大人げ無いと心得よ
アンドリュー
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読み終わると父をキッと睨み
「これが謝罪文でしょうか!?お父様?」
イヴァンヌが幾ら怒っても・・・
それでも尚も婚約期間は過ぎていった。
アンドリューが積極的にイヴァンヌに会わないので文字通りダラダラと時だけが過ぎてゆく。
イヴァンヌは優秀な成績で王太子妃教育を早々に終了した。特に語学は抜きん出た非凡な才能を見せる。
表面上は上手くいっている婚約。
ヨーク公爵は王家を絶対君主と崇め宰相であるクリント侯爵家をアンドリューから離したかった。
(くそ!忌々しいクリント侯爵家には賊の侵入は難しい・・・それなら娘の婚約破棄のせいで発言権を落としてしまえば良いか・・・アンドリューも馬鹿素直で手懐けやすい・・・ククク・・・流石は馬鹿なマリアンの子だわい)
相変わらずアンドリューの周りをヨーク公爵絡みの者達が囲んでいる。
そして最後の最後でアンドリューの最愛の母マリアンが洗脳の仕上げをしていくのだ。
日に日にアンドリューは美しさと逞しさ、そして色気も身に纏うようになっていた。
アンドリューが歩けば年頃の娘もいい歳をした元令嬢達も黄色い声を上げている。
アンドリューは父王が送り込んでいた正しき道へと諌める人々の声が遠く耳元を掠めるほどになっていた。
(何で偶に私に進言する馬鹿が現れるのだ?私の美しさは周りを幸せにするし・・・それはこれからも変わらないのに)
アンドリューの部屋には鏡が一つ二つと増えていった。
小さな鏡から全身が映る鏡まで・・・
それは母マリアンの部屋もそうだったから。
例えどの角度からも映る姿を見る事が出来る。
鏡に映る自分の美しさに酔いしれるアンドリューだった。
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