◆ アンドリューの幼い頃
王太子アンドリューが物心ついた頃には『美しい』そんな形容詞がついて回った。
母マリアンとアンドリューが席を共にする事があると周りの人々は思わず溜息が溢れ誉めそやすのだ。
そして最大の賛辞を送るものだから自然とアンドリューの心には『美しい自分』という意識が侵食していった。
もうすぐ12歳になろうとしていたアンドリュー。
剣の稽古をした帰りに四阿でお茶をしていた母を見つけた。
遠くから見てもピンク色の髪はキラキラと光に反射して母マリアンはメイド達に囲まれ華やぎ輝いていた。
アンドリューはマリアンに近づき、ふと常日頃感じていた思いを口にしてみた。
「母上・・・みんなは私を美しいと言います」
マリアンはさも当たり前のようにアンドリューの頭を撫でながら
「アンドリュー、美しいとは神が与えた最高の贈り物なのよ。あなたも私も神に愛されているの。だからアンドリューも将来美しい娘を妃としなさい」
「美しい娘を?もし美しくなかったらどうなるのですか?」
「アンドリュー、美しくない娘は神が許しません・・・頭がいい女は生意気だわ。爵位が高いだけの女は金遣いが荒いの。美しい・・・母のような女だけがあなたの横にいる事を許されるのよ」
「母上のような女・・・?」
真っ新なアンドリューの心に薄汚れたインクが広がっていくようだった。
それでもマリアンはアンドリューに諭すように話しかける。
「そうよ、陛下だって爵位が低くとも美しい母を娶ったのです。この美しい母を寵愛されるのです。
アンドリュー『美しさこそ正義』なのですわ」
美しさは正義?
美しいが正義?
だったら美しくないものは悪?
美しくなくてはいけないの?
そうか・・・
母上のように美しくなくてはだめなのだ。
それから顔を合わせるたびにマリアンの洗脳がアンドリューを染めてゆく。
ある日、マリアンはアンドリューと私室のバルコニーでお茶を嗜んでいた。
「やあ、こちらにいらしたか」
「まあ」
許可も無くヨーク公爵が現れた。
「母上・・・」
アンドリューは母の隣で様子を見た。
ヨークは不躾にアンドリューを見ている。
(ふん、相変わらず私の証を何も持ち合わせていないではないか・・・だが顔だけは誉めてやれるレベルだ)
「そういえばアンドリュー王太子は近々婚約者をお迎えになるようですな」
マリアンは意外だったようだ。
「そうなのですか?私には話が来ておりませんが?」
そんなマリアンを無視してアンドリューに狙いを定めて話をする。
「アンドリュー王太子はクリント侯爵家のイヴァンヌという令嬢を知っていますかな?」
アンドリューは考えてみたが全く誰だか分からなかったから「いいや」と首を振った。
「イヴァンヌ嬢はアンドリュー王太子より確か年上だったかな・・・」
「まあ、アンドリューより年上なんて!
美しいアンドリューより早くおばさんになってしまうわ!可哀想なアンドリュー!」
(えっ・・・・・・?
私が可哀想?・・・)
アンドリューの悲しそうな顔を見逃さなかったヨーク公爵は
「アンドリュー王太子、あなたには母上のような美しい女性こそが相応しいのでは無いのでしょうか」
「母上のような・・・」
アンドリューはマリアンに倣い美しい瞳をヨーク公爵に向けて頷く。
「はい、私は母上のように美しい婚約者が良いです」
「それなら盛大に破棄せねばなりませんな」
「破棄?・・・婚約破棄?・・・破棄すれば良いのですね」
ヨーク公爵とマリアンはアンドリューに向けてかぶせ気味に話す。
「そうですぞ!全てはアンドリュー王太子の為ですから」
「アンドリュー、流石は私の子だわ。なんて賢いの」
アンドリューは答えが正しかったのだと安心した顔をした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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アンドリューについてが5話ほど続きますが
これから一話ずつ投稿になります。
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