◆ 『✖️✖️領』の休息
マリアンは初めて授かった子に、嬉しさよりも気が動転していた。 思っていたよりも、早く妊娠してしまった。
もう少し遊んで側妃として贅沢な生活を満喫するはずだったのに。
それに…何より、自分には後ろめたい事実がある。
( どうしよう? どっちの子なの? それに…もしかしたら、陛下の子かも知れないし……でも、ヨゼフに似たら不味いわよね )
マリアンは、不安に押し潰されそうだった。そんな時、国王陛下が部屋に入ってきた。
ーーマリアンは、絶えず国王陛下カエレムの容姿に…心底、ときめいていた。
「 あ……陛下 」
赤と黄金を混ぜた様な髪色に、エメラルドの瞳……魅入られているからこそ…簡単に演技が出来てしまう。
カエレムから賛辞を受ける。
「 マリアンでかした。身体を大切にして、無事に子を産んでくれ。 困ったことがあったら、お付きの者に何でも言いなさい。良いね?」
マリアンは幾つも歳の離れた、年下の国王陛下より…余程幼い仕草で、甘えたように話すのだ。
「 陛下〜…、私…怖いけど、頑張ります」
カエレムは尚も、優しげな声がけをする。
「 ああ、そうしてくれ。 君の身体が心配だから、寝床は暫く別にしよう。 私は公務が忙しくてね。 明後日から暫く、王城を離れなくてはならないのだ。 君が心配だが、許しておくれ 」
マリアンは国王陛下の手を握る。
「 はい。良い子で待ってますから、お土産をいっぱい買ってきてくださいね 」
「 ははは、良いだろう。ではな 」
国王カエレムは、部屋から出るとハンカチで手を拭った。
国王は予定通り二日後に、東のガルジャ領に行き、早速…街道整備に着手した。
ここは、愛する王妃と王太子の事故現場の近くだった。
数日は寝る間も惜しんで、図案から予算と…それに伴う労働措置を手配して、国王は他の領地に行く事になる。
ポートリアの息のかかった護衛に守られながら、ある場所まで来ると影武者を置いた。
国王カエレムは一人王馬を走らせる。
東の『✖️✖️領』に入ると、幼い子供が庭を駆け回っていた。
国王と同じ赤黄金の髪色に、妃に似た緑とオレンジ色の瞳の小さな王子。
だが、見た目はまるで平民の子供……
その子供…… エドワードは、国王陛下を見てもキョトンとしている。
そしてパッと走って、屋敷に入ってしまった。
カエレムは苦い思いを口にする。
「 忘れられてしまったか……… 」
暫くしたらエドワードを抱いて、妃のローザが屋敷から現れた。
「 ローザ……… 」
カエレムは無意識に、走ってローザに向かっていた。
ローザはエドワードを抱きながら、片手でカエレム陛下を迎え入れた。
カエレムはエドワード毎、抱きしめるとローザの首元に顔を埋めた。
「ローザ……会いたかった………」
ローザは片手で、国王の背中をゆっくり撫でて、呑気に話す。
「陛下はエドワードより甘えん坊ですね。ふふ」
「妃は相変わらずだな……だが……ホッとするよ」
「さ、部屋に入りましょう」
部屋に入るだけでローザの優しい香りに包まれた。
国王カエレムからやっと、緊張が抜ける。
カエレムは、部屋の中をゆっくりと見渡した。 代々の国王陛下と、ポートリア公爵家の一部だけが知る 『✖️✖️領』 に、実際足を踏み入れたのは、初めてだった。
大きな窓の前に机があって、幾つもの書類が積まれていた。
王妃としての仕事をしていたようだった。
書類に目を通すと
「 ローザ……これは…… 」
「 陛下の筆跡を完全に真似るのは、お妃教育の一つですわ。 陛下の仕事で…私の分かる事だけでも…お助けしたかったのです。 側妃様では……ね? 」
ローザは少し苦笑いをして説明をする。
「 ああ、だからか……妃がいなくなって、膨大な量の執務を覚悟したのに……… 何とかなっていたのは、妃のお陰だったか… 」
「 私の我儘のせいで、王国の政事を止める事は出来ません。この書類も、ポートリアの影が…明日には城に、届けている事でしょう。そして新たに、仕事が舞い込むのです」
「やはりローザは…立派な王妃だ…」
ローザは書類を見つめているカエレムの背中を眺めて、そっと…後ろから抱きついた。
「 ふふ、陛下の香りも温もりも… 久しぶりですね…… 」
だがすぐにカエレムはぐるりと回り、正面からローザを抱きしめる。
「 ローザだけ、ズルいぞ……… 」
暫く二人で抱き合っていると、足下をグイグイとエドワードが割り込んでくる。
「ズルい……ボクも………」
カエレムとローザは顔を見合わせて、睦まじく微笑みあった。
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