◆ 側妃マリアンとヨーク公爵の契約
四十を過ぎ、楽しい毎日を送る側妃マリアンは、今の生活に満足していた。
( 遠い昔ね…… 陛下と婚儀を挙げる前も楽しく遊んだけど、お金が無かったから不自由だったな…… 今は陛下が、私の魅力に惑わされてくれて、贅沢のし放題だし…… ほんと、堪らないわ。 後はアンドリューが妃を娶れば、私は側妃でも、王太后になれる!)
マリアンはうっとりと、輝かしい未来を思いほくそ笑んでいた。
だがそれも、ヨーク公爵との契約があってこそ。
マリアンはそっと、当時の…… 事の発端を思い出すのであった。
昔から『顔だけなら…… 』この謳い文句が付く位に、頭の中が残念だった。
側妃になる前のマリアンは、遊ぶだけなら最高の女だが、妻にするには頭の足りない女だと言われていた。
だが子爵家は、顔だけは良いマリアンを少しでも爵位の高いところに嫁がせようと四苦八苦していた。
もうマリアンも26歳を迎えて、完全に行き遅れになっていたから、選り好みも言ってはいられない。
そんなある日、王妃様の死去の知らせから即座に側妃の命が下りたのだった。
子爵家は思いがけない幸運と困惑が入り混じっていた。
「なんで側妃なのだ? そのうちに正妃を娶るのか? 」
そんな子爵家の不安を、ヨーク公爵が煽った。
「子爵殿、マリアン嬢よ。 私の子を成せ。 それが男子なら、ゆくゆくは… その子を国王にしてやろう。 今の国王は、いずれ都合の良いお前を捨てるだろうが私が後継となり、其方達を守ってやろう 」
マリアンと子爵両親は、筆頭公爵で名高いヨーク公爵の言葉を信じた。
「確かに、そうですな…… いずれ正妃を迎える迄の予備になど、なりたくありません! ヨーク公爵様に忠誠を! 」
ヨーク公爵は、国王カエレムと迎える初夜の前にマリアン呼び出し、抱いた。
「ほう、お前は生娘ではないのか?」
マリアンはペロッと舌を出して
「これからはヨーク公爵様だけですわ」
なんの悪びれる事もなくコトを済ました。
「お前が裏切ったら、両親の命もないぞ。 お前は私の子を素直に産めば良い」
マリアンは、油ぎった小太りのヨーク公爵にキスを落とし、「分かっていますわ」と猫のように笑った。
だが本当は…… マリアンは不満だった。
(気持ちが悪い公爵じゃ、満足できないわ…… )
マリアンは王城に帰る前に、ある伯爵家の家に向かった。
伯爵家の裏門にいる門番に、慣れたようにチップを渡す。
すると門番は急いで裏門側にある、小さな邸宅に知らせに行く。
伯爵家三男のヨゼフが迎え入れてくれた。
「おや、俺の子猫ちゃんか」
部屋に入るなり、当たり前のように服を脱ぐマリアン。
もう何年も続く腐れ縁の仲だ。
マリアンは国王陛下の大切な初夜前なのに、二人の男を相手する猛者だった。
3ヶ月後、無事にマリアンの懐妊が確認された。
ほぼ、初夜の晩で授かった子であると、王城では静かに喜びに満ちていた。
正妃の喪に伏す間は、大っぴらには喜ぶ事は憚られたからだ。
(汚らしく穢らわしい女だ……。
だが…… マリアンには、刺客が来ない。
ヨークが絡んでいるとミエミエだな。
馬鹿で愚かで扱いやすい女でもあるが
一体、誰の子なのだ…… )
執務室でマリアンの懐妊を苦々しい思いで聞く国王カエレム。
本当はこの妊娠期間に、ヨーク公爵家の陰謀を暴く予定であった。
だが王妃ローザが懸念していた事が次々と明るみに出るのだ。
(なんと言う事だ! 王城の使用人や、侍従達や一部の官僚までもがヨーク公爵の手の者とは…… 数多に存在する、ヨーク公爵の手下のせいで、真相解明を進めても途中で糸が切れるように潰えてしまう。
くそ!一体どこまで追えば良いのだ?
マリアンの不貞も一人、二人ともう何人も見つかるが、肝心のヨーク公爵だけは巧妙に隠されている。 王家の寝室に暗部が入った事を公には出来ない…… 証拠があるようで証拠になり得ない…… くそっ!)
国王カエレムは、息詰まる執務室の中で小さく頭を抱えていた。
珍しくポートリア公爵が、国王陛下の執務室まで訪ねてきた。
「国王陛下、お気の毒でございます 」
「ポートリア公爵、笑えない冗談だな。 もう少し、気の利いたセリフはないのか?」
「めでたくもないのに、めでたいとは言えません。 王妃様は苦笑いでしたよ」
「妃か…… 妃に…… ローザに会いたい」
絞り出すような声を出した、国王陛下の心労を察した公爵が小声で話した。
「もうそろそろ良いでしょう。 1回目の公務をされますかね? どうでしょう?」
カエレムは俄に顔を上げ期待の篭った目をした。
「ほん…… とうか?」
ポートリア公爵は、頑張っている20歳の国王カエレムを優しく見つめて頷く。
「良く頑張っておいでです。 ヨークが長年かけて、この王城内に罠を巡らせましたからな。 我々も長期戦になりましょう。
代々から、国王陛下より王命を承った我がポートリアは、この国に必要な年若い国王のお心を、お救いしなくてはなりませんからな…… 」
「ポートリア公爵…… 感謝する」
そして、ポートリア公爵が小さく呟いた。
「…… いるか」
「はっ!」
すぐそばに居るのに姿が見えない影。
「作戦通り…… 『✖️✖️領』にお二人を」
「はっ!」
「それでは国王陛下。 兼ねてよりお約束した、王国の《街道整備作戦》と参りましょうか。 ご褒美の『✖️✖️領』はその後ですぞ」
ポートリア公爵の口角が悪戯に小さく上がる。
若き国王陛下カエレムは呟く。
「ありがとう、公爵」
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