◆ エドワードの痛みと決意
いつかは、父に呼ばれる事を覚悟していた………
エドワードは、暗黙の了解としていた事がいよいよ現実となり、その日のうちに長年世話になったポートリア領を旅立った。
《シンシアと王太子アンドリューとの婚約》それがエドワードを呼び戻す為の、キーワードだった。
真夜中でも明るい月が、道案内でもするかのように、父の待つ王城へと誘ってくれた。
エドワードは強く手綱を握りしめ、くっきりと冴えた頭で色々な考えを巡らせている。
( 母上とも、長らく会っていない…… もうすぐ2年になるか。 シンシアには、母上の話を会話の端々に話題にしていたが…… 父上の話は出さなかったからな…… シンシアを、驚かせてしまったな )
びっくりしたシンシアの顔を思い出し、笑みが溢れる。
だが、それからエドワードはポートリア公爵との会話を復習っていた。
王城に向かう前に… 長年に渡り世話になった最後の挨拶と、聞くべき事を確認しようと公爵の執務室へ向かった。
ポートリア公爵は、部屋に入って来たエドワードを感慨深く見つめると、今まで調べた調書を手渡した。
『この資料と、全く同じ物を国王陛下も持っている。エドはまず、王城にてアンドリューの侍従として働く事になるだろう。何より、城の様子や人の繋がりを把握するのだ。 ヨーク公爵の張り巡らされた、雇用人を見つけ出し、この調書の中にいない者を国王や我がポートリアの暗部に知らせるように… 』
エドワードは調書をめくりながら、膨大な人の数に驚きつつも自分の役目に納得した。
そしてググッと瞳に力を宿して言葉を紡いだ。
『分かりました。それでは、城の見取り図に描かれていない…… 抜け道を、教えてもらえますか?』
『覚悟は、出来たのか?』
公爵の質問にエドワードはしっかりと頷いた。
『そうか……… 我がポートリアの教えは無駄ではなかったようだ 』
ポートリア公爵はそっと…… ある部分とある部分を指でなぞった。
『エド、分かっているだろう? 地図に印を残す事は…… 我がポートリアでは、あり得ない事だ。 もう一度だけなぞるから…… エド、しっかりと覚えなさい 』
またもや見取り図の上に指を滑らしながら、隠し通路の場所をエドに教えてゆく。
この通路こそが、パルムドール王国の正統なる後継者と代々のポートリア公爵の長だけが伝承される場所。
それがエドワードにも教えられた………
それが意味するものとは。
エドワードは、その意味を知っている。
もう逃げだす事が出来ない、重い楔を打ち込まれた気持ちになった。
だがそれと同時に… あやふやだった自分の立場が、しっかりとした安堵も味わっていた。
エドワードは最後に、ポートリア公爵に自分自身の最大の懸案を話した。
『公爵…… この責務が片付いたら………
私は、シンシアを望みたい…… 』
ポートリア公爵は、エドワードを見据えながら不快な溜息を吐いた。
『 …… 私の正直な気持ちとしては、難しいですな…… だが……… シンシアの気持ちとしては、喜ばしいのであろう……かぁぁ!
はぁ、全くエドは…策が回るわい!爺さんが反対しては、シンシアに嫌われてしまうだろう、くそっ 』
今しがた、したばかりの会話を思い出して… エドワードの口元は、盛大にニヤついている。
明るい月夜に包まれて… シンシアを想った。
(シア……… )
ポートリア領のお気に入りだった庭園で、シンシアを抱きしめた。
エドワードは握っていた手綱を離し、両手を広げて風を受け止めながら… シンシアのぬくもりを思い出していた。
エドワードはシンシアを想うと、蜂蜜のように甘く疼くのだ。
だがそれと同時に、痛みも湧いてくる。
( シア…… 愛してる…
俺の心はもう、自分の物のようでいて
自分の物じゃ無いみたいだ……
君との約束は必ず守る!
君を俺の隣に呼ぶ為に……
だからシア………
君にはいつか本当の事を……
待っていてくれ、シア…… )
エドワード
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