◆ シンシアの幼少期 : お祖父様に出会って
シンシアの髪を引っ張りながら、勝ち誇った様に女中が喚いた。
「ねえ、こいつどうする? もう男爵達はいないのよ!」
「 そうだよな……」
「 そうだよ!」
ポートリア男爵家の使用人達は、一斉にシンシアを標的に据えた。
男爵家で、唯一生き残ったシンシアに敬意を表する者などいなかった。
--今更、こいつに何の力があるというのよ?
--家族にさえ疎まれていた、シンシアなんか誰が養うというのか?
--まあ、引き取り手なんて、見つかる訳がないよな?
--いっそ、美しい小娘を売ってしまうか?
--そうだよ!こいつを売っぱらって、金にするんだ!
男爵家の使用人達は、各々シンシアに良からぬ考えを持ち始めた。
シンシアはブチブチッと髪が抜けるのも構わず、女中から逃げた。
聡いシンシアは、恐怖を覚えて自室に飛び込み、急いで鍵をかけた。
(怖い……
怖い……
怖い…… )
自分の居場所が危険な場所になる事を、今まで考えもしなかった。
(どうしたら良いの?)
その時、激しく扉が叩かれる
ビクッとして、カタカタと震えが起きる。
ドンドンドン!!ドンドンドン!!
「おい!ここを開けろ!」
「ちょっと、出てきなさい!鍵を開けるのよ!」
「私達の給金はどうなるのさ!早く開けなさいよ!陰気な小娘が!」
「ほら出て来いよ!この扉、壊されたいのか!」
シンシアは、激しく叩かれる扉を見つめながら……愈々追い詰められていった。
(怖い!誰か、誰か助けて!
どこに隠れれば良いの?タンスの中だって、直ぐにバレちゃう。窓から飛び降りる?
ああ……… でも……… )
しかし、何がそうさせたのか?
シンシアは整然と…ここで、腹を決めたのだ。
(どうせ、隠れる事も逃げる事も?
どっちも出来ないなら………)
ガチャリ………鍵を外し、扉を静かに開いて…再び使用人達の前に姿を現したシンシアは、落ち着いて一人一人を睨みつけた。
屋敷の使用人達はまるで獲物を見つけたようにヘラヘラと笑いながら、シンシアを取り囲んだ。
本当は恐ろしくて、不安で泣きだしたかった………でも……
(こんな時なのに…逆に不思議と心が落ち着くなんて…)
シンシアは自分の心が不思議だった。
ジリジリと距離を詰め近づく使用人達にもシンシアは一歩も後ずさる事が無かった。
(ここでどうなろうと、今までの待遇と何が違うと言うの? どうせなら、今までの不満でも…ぶちまけようかな?)
シンシアの目が、周りを冷静に見つめている。
屋敷の使用人達は、シンシアをどう扱うか考えている事だろう。
如何にして高値でさばこうかと考え、なるべく傷をつけない様に、一人の使用人が手を伸ばした時だった。
「ハハハハハ」
シンシアを取り囲んでいた使用人達の背後から、呵呵大笑する声が聞こえた。
「だ、誰だ!あんた!」
「ここはポートリア男爵家だぞ!勝手にお前が入れる場所じゃないぞ!」
「そうだ!早く出て行け!」
低俗な使用人など黙殺して、恰幅の良い老紳士はシンシアに目線を合わせた。
「ほう。この状況で泣き喚かぬとは………ハハハハハ! 成程、お前は確かに、私の血を色濃く継いでいるようだな…」
ポートリア公爵
シンシアは自分と同じ、銀髪赤目の老齢な紳士に目を向けた。
(このおじいさまは? ……助かったの?)
優しくシンシアに向けていた瞳から、冷淡なものへと豹変させ…ポートリア公爵は、容赦のない声で使用人達に告げた。
「さて、お前達。
全員鞭打ちの後に解雇だ。
今からこの男爵家は取り潰す。
そしてお前………」
老人はシンシアを叩き、髪を引っ張った女中に杖を向けた。
「お前は処刑だ………」
「いやーー!!」
「こいつは誰だ?」
「良いから逃げろ!」
「どけ!俺が先だ!」
使用人達は、誰一人お付きの者が居ない爺さんを無視して、一斉に逃げようと…玄関の扉に集り、一気に開け放った。
しかし! そこには、ポートリア公爵家の私兵達が男爵家を取り囲んでいた。手に持つ武器を、使用人達に向けている。
「そ、そんな………」
「なんだよ、これ………」
「一体、どうなってんだ」
「あの小娘には、これ程の味方がいたのか?」
口々に、後悔の言葉を吐いても…もう遅い。
男爵家は、見栄だけを飾っていて、使用人には金を掛けなかった。
全ての使用人は、平民出だった。
元々はポートリア公爵家の一部に過ぎなかった、男爵家の使用人達には…弁明の余地は与えられないだろう。
それでもポートリア公爵は、公平に目の前の事のみに判断を下した。腹の底からドスの効いた声で威圧を放つ。
「平民風情が…俺の孫に手を出すなんて、ふざけた真似を…」
「「はひぃっ!」」
男爵家の使用人達は、一人の処刑者を出し…他は鞭打ちの刑の後、紹介状も貰えず野に放たれた。
ポートリア公爵が来てから、たった2時間で男爵家の幕が閉じられたのだった。
おじい様、カッコ良いです。
あともう一話一時間後に楽しんでくださいね。
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