◆ シンシアの幼少期 : ポートリア男爵編
当初、シンシアの生家はポートリア公爵家から分け与えられた男爵家の身分であった。
シンシアの父親が、祖父のポートリア公爵が持っていた爵位の一つである、男爵家を譲り受けたからだった。
本来なら、長男であるシンシアの父が公爵家を継ぐ筈だったが、豪傑で苛烈な祖父と反りが合わず、男爵位を賜ると…サッサと公爵家を出たのであった。
そしてシンシアの母もまた、祖父であるポートリア公爵を毛嫌いしていた。
父親と母親の祖父に対する嫌悪……その全てが、シンシアに影響したのだった。
ポートリア公爵に似た、少し青みがかった銀髪に…スピネルの煌めきを閉じ込めた瞳はシンシアの美しさを如実に表していた。
自ずと目を離すことが出来無くなるほどに…シンシアは、美しかったのである。
しかし祖父の血を色濃く継いだシンシアを…両親は悍ましい、嫌悪の対象としたのだ。
なんて、気持ち悪い子なの………
あの子から血の匂いがする……
汚い暗部の仕事をする公爵に似ているなんて……穢らわしい………
ポートリア公爵に似たシンシアを、同族嫌悪と言わんばかりに、穢らわしい者として扱ったのだ。
そんな両親を見て育った、一つ下の弟は姉に親愛など抱く訳も無く、シンシアを毛嫌いし…視線すら合わせなかった。
今日はシンシアの誕生日である。
虚栄心の強い両親は、人一倍の見栄を張り…盛大に人を招き、祝っていた。
今日だけは、新しいドレスを身に纏い綺麗に結われた髪には鮮やかな小花が色とりどりに飾られている。
普段は平民すら着ない擦り切れたドレスに、髪の手入れもされないボサボサ髪のシンシアなのに。
シンシアは冷めた気持ちで、この茶番を受け止めていた。
(私以外が笑っている………)
普段から、お付きの者などいないシンシアを使用人達は主人達から疎まれている存在として冷酷に接している。
当然、シンシアは…いつも孤立していた。
人の目に触れないように、息を顰めていたとしても…見つかるそばから使用人達に貶められる。
それを知りつつ、庇いもしない両親。
可愛いのは母似の弟だけ。
幼くとも賢いシンシアは、要らない自分を理解して生きてきた。
誕生日を迎えても、シンシアはまだ8歳なのにだ。
虚飾に満ちた誕生会が終わると、シンシアはまた…自分の部屋に押し込められた。
(また明日からひとりぼっち………)
8歳の子供とは思えないほどの冷笑を浮かべる。 誰にも構われない寂しさをシーツに包まって、そっと耐えるシンシアだった。
シンシアの誕生日から、ひと月が過ぎようとしていた。
突然に…シンシアの常識と日常が一変する事件が起きた! 屋敷中ご騒然としていた。
部屋にいたシンシアは、不吉な予感で手元を冷たくしていた。
( 何が起こったの?今、何が? )
「大変だ! 旦那様達の乗った馬車が、川に落ちたぞ!」
屋敷中の者は、慌てふためいた。
「 あんな大洪水の後に、馬車で領地周りなんかするからだよ! くそっ!無茶だったんだよ!」
「 で、どうなんだ?ご無事なのか!」
知らせを持ってきた門番は顔色を無くし
「 いや、旦那様も奥様もお坊ちゃんも…助からなかった…… 」
皆は、言葉を無くして立ちすくんでいる。
だがそんな時、誰かが呟いた。
「オレ達のこれからは…どうなるんだ?」
「そうだよな? 給金は? 」
「あたしは他に、行くとこなんてないのよ?」
使用人達は、ざわざわと不満ばかりを口している。
(……馬車の事故? お父様たちは……死んでしまったの? )
屋敷の雰囲気は、幼いシンシアにさえ…異様さを教えてくれる。
部屋から出たシンシアは、震える手でぬいぐるみをギュッと抱きしめながら、近くにいた使用人に尋ねた。
「 あ、あのう……どうしたのですか? 」
苛立っていた下女がシンシアに不満でもぶつける様に突然、手をあげ怒鳴りつけたのだった!
「 はあん? あんた!誰に向かって口を聞いてるんだい! 」
バチ--ン!!
声と同時に、容赦なく頬を叩かれると、シンシアの小さな身体が吹き飛んだ。
「 えっ? 」
( 頭が揺れる………)
熱を持った頬を、小さな手でおおった。
今まで冷遇こそ、されてはいたが…叩かれたのは初めてだった。ジンジンと頬は赤く腫れ上がり、痛みが湧いてきたが…この状況ではとても痛いなんて、口には出せなかった。
タガがはずれた使用人の女中は、躊躇する事もなく、シンシアの髪を引っ張ると、獲物を見せびらかす様に大声で叫んだ!
「もうあんたなんかを、世話する理由なんて無いんだよ! あんたみたいな辛気臭い小娘にはもう、うんざりなんだよ!」
女中は続けて、シンシアの髪をギュッと握り直すとヘラリと笑った。
シンシア編突入です。
今日は全部で3話投稿です。
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