第七話 姉とストレッチ
ホームステイで引きこもりの日々。
ボクは体がたるむのが嫌で、スクワット・腹筋・腕立て伏せは必ずやるようにしている。
筋トレの本を見ながら運動する。
たるんでいるヒト、姉を見てああはなりたくないと、ボクの運動量は日々増えるのであった。
ジムに行けないストレスは日々たまっていく。別に筋肉ムキムキになりたいわけではない。座り仕事のボクにとって適度な運動は健康のためだ。
「たるんでない」
と姉は言う。
「歩数、見せてください」
姉のiPhoneの歩数は10歩やった。
「きょ、今日はずっと家におったから仕方ないやん!」
「でも10歩って」
「今日はずっと商品の梱包作業してたから」
ぶすっと姉はふくれる。
「ちょっとぐらい運動した方がええよ。ほら、ヨガマット貸すから」
ボクがリビングに引いたヨガマットの上で、姉はぜんぜんできてない「木のポーズ」をやって「ヨガってこんなんやろ」とドヤ顔をしている。
ボクは姉の脇腹をつついた。やめい!と言いながら姉がふらつく。
「まずは腰を伸ばした方がいい。これできる?」
ボクは床に座り、足を開いて腕を伸ばし、ぴったりと額を床につけた。
おおっ、と姉のどよめき。
姉は体が固く、まったく手がつま先へと伸びない。ボクは姉の背中を押した。
痛い痛いと姉が叫ぶ。ボクは容赦しない。
「体が柔らかいと痩せやすくなります。スパルタはアナタのためです」
「それにしても容赦ない!」
腕を引っ張られながら、姉がうめく。
最初はめっちゃ邪魔やなと思った姉も、こうしてストレス発散の相手にはちょうどいい。
「ヒロくんが、もっとウチの手をぎゅっと握ってくれたら!!!がんばれる!!!弟との触れ合い!!!」
ボクは姉の手をぱっとはなした。
触れ合いは求めてへんねん。
「ヤギふれあいコーナーより不快。さ、仕事に戻ろう」
「くそ〜〜〜ぜったいに、バレリーナのように体柔らかくする!」
姉の目標に、無理やな、とボクは冷たく言った。
ランニングマシーン買おうかな、と思う。
ボクと姉のために。




