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第六話 弟とクイックルワイパー

 古着屋の閉店作業がすべて終わった3月。

 コロナウイルスが爆発した。浩くんいわく、日本で感染者が増えるのも時間の問題らしい。


 先輩はうちに売れ残った古着とトルソーをくれた。


 古着をフリマアプリで売ることにした。トルソーに古着を着せて写真を撮り、説明を書いて値段を決める。売れたら梱包して宅配便へ。これがなかなか面倒な作業やけど、お金のためや、仕方ない。


 大規模なフリーマーケットも中止になっていく。お客さんの顔が見えない商売は、うち、なんか寂しい。


 居候させてもらってるから、と家事をしようとすると大方終わってる。家のローンは払い終わってるから、家賃のことは気にしなくてええらしい。


 料理と自分の分の洗濯だけする。浩くんはうちにパンツを洗わせてくれない。まだ思春期。


「アナタが来てから、埃が多くなった気がする」


 リビングでせんべいを食べていると、いきなり浩くんに言われた。


「ちょっとコレを」浩くんはクイックルワイパーを持ち「こうしてください」と腰から力を入れてクイックルワイパーを床にすべらせた。


 いいお尻してる。じっと見てたら浩くんにじろっと睨まれた。


「うちだってクイックルワイパーぐらいできるよ。ちゃんと部屋掃除してるよ。ホレ」


 うちはすっとクイックルワイパーを動かした。


「違う!」


 すぐに浩くんの怒声が飛んでくる。


「ちっとも床のホコリを全部取ってやるという気合いが感じられない! ボクはわかった、あなたは掃除が、下手!!!」


 むっ。言い返せない。確かにうちは掃除が苦手や。


「だからこれを履いて生活してください。ぺたぺた歩く音も気になるし、まだ寒いのになんで素足なんか意味わからんし」


 浩くんがうちに初めてくれたプレゼント。それは裏側にイソギンチャクみたく黄色の毛脚がついた、スポンジボブのスリッパだった。


「やったー! めっちゃかわいいやん!」


 うちはさっそく履いて、足をパタパタさせた。


「ありがとーーー!」


「まったく、子どもみたいな姉さん」


 浩くんがため息をついた。


「人が一人増えるとホコリも増える。んーー面白い記事にはなれへんな」


「スポンジーーーボブーー」


「うるさい!」


 はしゃいでいると、浩くんに叱られた。

 

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