第十二話 規制音ピー連打
浩くんはようウーバーイーツで注文する。チェーンじゃなくて、個人経営のお店ばっかり。
この前はスリランカ人の人がやってる店のカレーやった。ナンがびっくりするくらいでっかくて、カレーもスパイス効いてて最高。二人で汗かきながら食べた。
そんで、食後に浩くんがフッと笑って言うた。
「ボク、ウーバーイーツのお兄さんがタイプやったから、部屋に連れ込んでさ。二重の意味でご馳走様したことある。食べられたのはボクやけど」
……一瞬で鳥肌たった。
「ムリムリムリ! 弟のそういう生々しい性のご事情は聞けません! やめてください!」
うちは頭抱えてジタバタした。
「やっぱ引くよな。尻軽すぎでしょ、ボクって」
ふふ、と笑って浩くんか言う、
「ちゃうねん、それは弟やから! 肉親やからムリに決まってるやん! 同意なんやったら別に出会ってすぐやってもええねん、それはええけど、弟やからあっ」
「なんなん、肉親やからって。それはよくからんな。まだ性的にだらしないサイテーとか言われるかと思った。うん、誘ったら向こうノリノリやったわ、さすがボクってモテるなぁって思った」
「出会ってすぐノリノリ、せやったらまぁええんちゃう。でも、やっぱ弟の性事情はなんかっ、こう、ダメ!」
うちは二の腕をさする。
「へぇー、そんなもんなのか? ボクってけっこう、ビッチで――」
「ピーーーッ!!!」
うちは叫びながら手をバッテンにした。
「なにそれ?」
「不適切発言の規制音!」
「ふーん、び――」
「ピーーーッ!!!」
「おねえちゃん、弟は誰にでも抱か――」
「ピーーーッ!!!」
「聞いてよ。おねえちゃん、あの前来た元彼とは――」
「ダメーーー! 元彼との出会いは気になるけど! もうお腹いっぱい! 女友達との下ネタはゲラゲラ笑えるのに、弟のは生々しいむりーー!」
浩くんは楽しそうにさらに絡んでくる。
ほんま、やめてほしい。……けど、ちょっと笑ってしまうのが悔しい。
浩くんはほんとにビッチ。
だが、うちはそれを汚らわしいとかは思わないが、なんか弟となので性事情は生々しくてダメー!
なんで同じ下ネタでも“弟フィルター”通したらこんなに胃に悪いんやろ。
「浩くんかて、うちのそういうの、聞きたくないやろ」
「は? キモすぎて想像すらでけへん。絶対に言うなや」
「じゃあ、そっちかて言わんといて」
「えっ、それは」
にやー、と浩くんが笑う。
「……おもろいねんなぁ、あんたの反応。うっかり言っちゃったらごめんねぇ、おねーちゃん」
「イジワルや!」
うちは叫ぶ。
うう、弟の口から性のご事情を聞くのがしんどいとは。
でもそのウーバーイーツのお兄さん、どんな人やったんかな…………って、気になるけど質問したらえげつない答えで苦しめられそう。
せやから、目も口もむぎゅっとする。
「コロナではリモートビッチやっててさぁ」
浩くんが言う。うちは耳を指に耳を突っ込んだが、それでも聞こえるほどの笑い声が聞こえた。
イジワルめ。
「ピー音の使いすぎで喉枯れる!」とうちは怒る。
弟が「この家、ピー禁止法とか作られるんちゃう?」とニヤリと笑う。
悪魔や!




